
電気なし、水道なし、ネットなし。俗世から隔絶されたタイの田舎町。広大な湖に浮かぶ水上学校で、新米男性教師が前任の女性教師が書いた日記を見つける。寂しさや喜びが打ち明けられた文章を読むうち、まだ見ぬ彼女に恋心が芽生える──。
ニティワット・タラトーン監督のタイ映画「すれ違いのダイアリーズ」は、日記がとりもつ教師二人の成長と、見知らぬ相手への恋を爽やかに描いた人間ドラマだ。ニティワット監督が聞いた二つの実話がベース。児童数人の水上学校、時間差で赴任した二人、互いをつなぐ手書きの日記帳。時間と空間を鮮やかに超える脚本が見事だ。

「軸になるテーマは二つ。まずはタイの教育。実在する水上学校の話を聞き、働いている先生の魂、自分を捧げる様子にひかれました。もう一つは恋愛。果たして人は顔を知らない人に恋ができるのでしょうか」
二人のモデルになったのは、タイ北部、国内でただ1カ所の水上学校に勤務するサーマート先生。監督は初めて会った印象を振り返る。
「とても素敵な人。謙虚でいつも微笑んでいる。何より感動したのは『皆が私をほめるが、ただ自分の仕事をしているだけ』と話されたこと。すごくかっこいいなあ、と思いました」

そんな先生をモデルに演じた俳優二人も、とても魅力的だ。特技はスポーツだけ、不器用な新米教師のソーン(スクリット・ウィセートケーオ=通称ビー)。熱意はあるが周りと衝突しがちな女性教師のエーン(チャーマーン・ブンヤサック、通称プローイ)。いわば「はみ出し者」の二人が、人里離れた湖上で子供たちと向き合い、成長していく。ロケ地は中部ペッチャブリー県の国立公園。どこまでも青い湖面、雄大な景色が二人を包み込む。
「先生たちが向き合う苦労を、撮影チームも同じように経験しました。何もないところに一からセットを作り上げ、寂しさや距離、困難を感じました。水の中で泳ぐシーンも体を張ってくれて、俳優たちもよく頑張ってくれました」


ソーン先生を演じたビーは、タイで絶大な人気を誇るポップ歌手。今回が映画初出演で、みずみずしい魅力はソーン先生にぴったり。ひとり赴任した小さな学校で、手書きの日記を読む背中に寂しさを感じつつ、観客もエーン先生に思いをはせるだろう。監督は微笑んだ。
「ネットもつながらない隔絶された環境。一人になることは自分に向き合うことでもある。それは誰かを精一杯思うことができる空間、時間でもありますよね」
(聞き手:魚躬圭裕 写真:阿部陽子)
「すれ違いのダイアリーズ」(2014年、タイ)
監督:ニティワット・タラトーン
出演:スクリット・ウィセー
トケーオ、チャーマーン・ブンヤサック、スコラワット・カナロット
2016年5月14日(土)、シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.moviola.jp/diaries2016/
作品写真:(C)2014 GMM Tai Hub Co., Ltd.
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