
1985年、社会主義体制下の東ドイツ。18歳のフランクは、西ドイツのテレビが放送したブレイクダンスに驚く。それまで見たことがないおかしな動き。テレビの故障かと錯覚するほどだった。早速友人のアレックスを誘い、米国のダンス映画「ビート・ストリート」を見に映画館へ。フランクはすっかり映画に魅了され、友人たちと路上でダンスを踊り始める──。
しかし、表現の自由が制限されていた東ドイツでは、常に当局が監視の目を光らせていた。「米国生まれの非社会主義的ダンス」はたちまち国家警察に見つかり、フランクたちは逮捕される。取り調べで機転を利かせ、なんとか釈放されるが、父との間に大きな溝ができてしまう。

一方、「ビート・ストリート」のせいで次々生まれる路上ダンスに、政府の「娯楽芸術委員会」は一計を案じる。「ブレイクダンスを社会主義化する」スローガンを掲げ、フランクのチームを招いて踊らせたのだ。委員会はブレイクダンスを「アクロバティック・ショーダンス」と命名。国の「人民芸術集団」として活動を認める。
政府のお墨付きを得たフランクたちは、専属コーチに練習場、専用バスまで与えられ、国営クラブで巡業をスタート。またたく間にアイドル並みの人気を得る。しかし、チームを枠にはめようとする当局の圧力は次第に強くなり、見えない重石のようにのしかかり始める。

80年代東ドイツの実話をベースにした作品。ヤン・マルティン・シャルフ監督の長編デビュー作だ。ダンスを通じて生まれる友情、恋愛。青春の光と影が90分でコンパクトに、テンポよく描かれる。俳優がスタントなしで演じたダンスの高揚感に、観客が素直に共感できる。東ドイツが自由を得た今だからこそ、当時を振り返って描けた作品だ。
(文・藤枝正稔)
「ブレイク・ビーターズ」(2014年、ドイツ)
監督:ヤン・マルティン・シャルフ
出演:ゴードン・ケメラー、ゾーニャ・ゲルハルト、オリバー・コニエツニー、セバスチャン・イェーガー
2016年6月25日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.break-beaters.jp/
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