2016年07月14日

「生きうつしのプリマ」母はなぜ隠したのか 浮かび上がる家族の真実

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 父から見せられたネットの記事。そこには1年前に他界した母にうり二つの女性が写っていた。世界的なオペラ歌手のカタリーナ(バルバラ・スコヴァ)。自分たちとはかけ離れた華やかな世界の住人だ。母と似てはいるが、ただそれだけ。赤の他人である。だが、なぜか父はカタリーナに執心する。そんな父にせがまれ、ゾフィ(カッチャ・リーマン)は彼女の住むニューヨークに渡り、身辺調査を始めるが――。

 ゾフィは、ドイツの町でクラブをクビになったばかりの売れないジャズ歌手。メトロポリタン歌劇場の歌姫であるカタリーナに面会するだけでもひと苦労だ。マネージャーを介して接触に成功するも、そっけない彼女の口からは、何の情報も出てこない。

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 だが、意外な人物から解決の糸口が見つかる。認知症を患ったカタリーナの母が、ゾフィの母の写真を見て「エヴェリン」と、その名を口走ったのだ。ゾフィの母とカタリーナの母とが線で結ばれる。同時にカタリーナの心に疑念が芽生える。「自分は母の子ではないのでは?」

 父親へ報告しにドイツへ戻り、新たな情報を得て、再びニューヨークへ。父とその兄との確執。ゾフィとマネージャーとの恋。母のダンス教師だった男性。さまざまな人物が浮上し、人間関係が変化する中で、一つひとつ謎が解け、やがて驚くべき真実が浮かび上がる。

 父も、ゾフィも、カタリーナも、誰もが知らなかった、母の秘密。明かされることで、登場人物たちの心が晴れ渡る。ドイツでは鳴かず飛ばずだったゾフィが、終盤、ニューヨークのクラブでステージに立ち、喝采を浴びるシーンの、何と解放感にあふれていることだろう。

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 だが、そんな幸せの輪の中に入れぬ人物が一人いる。父のパウルだ。何もかも円満に決着させたように見せかけて、たった一人だけ責めさいなむ。マルガレーテ・フォン・トロッタ、怖い監督である。

(文・沢宮亘理)

「生きうつしのプリマ」(2015年、ドイツ)

監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ
出演:カッチャ・リーマン、バルバラ・スコヴァ、マティアス・ハービッヒ、グンナール・モーラー、ロバート・ジーリゲル

2016年7月16日(土)、YEBISU GARDEN CINEMAほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/ikipuri/

作品写真:(c)2015 Concorde Filmverleih / Jan Betke

posted by 映画の森 at 08:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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