
カナダ人作家アリス・マンローの短編小説を映画化した「ジュリエッタ」。「オール・アバウト・マイ・マザー」(98)、「トーク・トゥ・ハー」(02)、「ボルベール 帰郷」(06)の“女性賛歌3部作”で知られるスペインの巨匠、ペドロ・アルモドバル監督最新作だ。
引き裂かれた母娘の悲しい関係を描く作品。過去と現在が交差して展開する。中年のジュリエッタ(エマ・スアレス)は、恋人と住み慣れたマドリードを去り、ポルトガルへ移住する準備を進めていた。ところが偶然街で娘アンティアの幼なじみに再会。12年途絶えた娘の消息を知る。

ジュリエッタは恋人と別れ、移住もキャンセル。封印していた忌まわしい過去と向き合うように、行方の知れぬ娘に向け、長い手紙を書き始める。
30年前。臨時教師だった25歳のジュリエッタ(アドリアーナ・ウガルテ)は、夜行列車でハンサムな漁師ショアンに出会い、一夜の情熱的な関係を結ぶ。ショアンの手紙で彼が妻を病で亡くしたことを知り、ジュリエッタは再び彼と再会。二人は正式に結ばれ、娘アンティアが生まれる。
しかし、幸せは続かなかった。アンティアが9歳の時、ジュリエッタはショアンの不倫を疑い口論に。そのままショアンは漁に出て帰らぬ人となってしまった。深い喪失感に苦しむジュリエッタ。精神を患い「娘こそすべて」と生きるが、18歳のアンティアは旅に出たまま行方知れずに。夫も娘も失い、ジュリエッタはすべてを忘れて生きようとする。

一人の女性の波乱に満ちた生涯を、過去と現在を交差させてミステリアスに描く。女性描写が得意なアルモドバル監督らしく情熱的な作品となった。ジュリエッタは旅先で出会ったショアンを追い、妻の座に収まる。娘の消息を聞けば恋人と別れ、再会に全力を尽くす。生命力あふれる女性だ。逆に男性は総じて生命力が弱い。ショアンは漁で命を落とし、中年ジュリエッタの恋人も捨てられる。
展開は皮肉だが幕引きに余韻が残る。離れ離れの母娘を通し、女性の悲しい性を掘り下げた作品だ。
(文・藤枝正稔)
「ジュリエッタ」(2016年、スペイン)
監督:ペドロ・アルモドバル
出演:エマ・スアレス、アドリアーナ・ウガルテ、ダニエル・グラオ、インマ・クエスタ、ダリオ・グランディネッティ
2016年11月5日(土)、新宿ピカデリーほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://julieta.jp/
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