2016年12月04日

映画祭を振り返る(1)第29回東京国際映画祭最高賞「ブルーム・オヴ・イエスタディ」ホロコーストから60年 被害者と加害者の孫が過去に向き合う

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 今年も残すところ1カ月を切りました。秋の映画祭シーズンを振り返り、レビューやレポートを連載でお送りします。まずは第29回東京国際映画祭(2016年10月25日〜11月3日)東京グランプリ(最高賞)受賞作ブルーム・オヴ・イエスタディ」のレビューです。

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 「ブルーム・オヴ・イエスタディ」は、ドイツ人男性とユダヤ人女性が、ホロコーストをテーマとするイベントの準備を進める中で、ぶつかり合ったり、ひかれ合ったりする姿を、ときにユーモラスに、ときにシリアスに描いた作品だ。

 ホロコーストの研究機関に勤めるトトは、頑固な性格が災いして担当を外される。だが、トトは引き下がらない。面倒を見るよう命じられたフランス人研修生のザジを巻き込み、独自にイベントの準備を進めるのだが――。

 エキセントリックなザジが、ナチに対する敵意丸出しで、いくぶん無神経なトトを悩ませる。トトの乗るメルセデスベンツを「ユダヤ人移送に使ったのと同種だ」とケチをつけたり、激高してトトの愛犬を走行中の車から放り投げたり――。序盤はドタバタの連続で大いに笑わせるが、中盤からトーンが変わってくる。

 実はザジはユダヤ人犠牲者の孫であり、トトはナチスの孫。2人が歴史とどう向き合い、過去の因縁にどう決着を付けるかが中盤以降の見どころだ。2人がそれぞれに抱える私生活の秘密。新たに発見される真実。物語は急展開に次ぐ急展開で、先の流れを読ませない。

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 メガホンをとったのは、「4分間のピアニスト」(07)で注目されたドイツ人監督クリス・クラウス。自身の家族の過去について調べる中で、見聞きしたドイツ人とユダヤ人のエピソードに着想を得て、脚本を執筆したという。

 過去を決して水に流すことなく、未来への希望を示唆するエンディングの演出が心に沁みる。

(文・沢宮亘理)

「ブルーム・オヴ・イエスタディ」(2016年、ドイツ・オーストリア)

監督:クリス・クラウス
出演:ラース・アイディンガー、アデル・エネル、ヤン=ヨーゼフ・リーファース

作品写真:映画祭事務局提供 (C)2016 Edith Held / DOR FILM-WEST, Four Minutes Filmproduktion
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 08:14 | Comment(0) | TrackBack(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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