2016年12月10日

映画祭を振り返る(4)第17回東京フィルメックス エドワード・ヤン監督「タイペイ・ストーリー」ホウ・シャオシェン主演 台湾ニューシネマの盟友集結

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 第17回東京フィルメックス(2016年11月19〜27日)。特別招待作品「フィルメックス・クラシック」で、台湾エドワード・ヤン(楊徳昌)監督の「タイペイ・ストーリー」(1985)が上映された。

 ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督とともに台湾ニューシネマを牽引したヤン監督。日本では「クーリンチェ少年殺人事件」(91)以降の全作品と「恐怖分子」(86)が劇場公開されているが、長編2作目にあたる「タイペイ・ストーリー」はなかなか見るチャンスが少なく、ファンにとって貴重な上映となった。

 主たる登場人物は、30代とおぼしき幼なじみのカップル。マンションで同棲生活を送っているが、蜜月期はとうに過ぎているようで、甘いムードはかけらもない。実は2人とも、ほかの異性とひそかに関係を持っている。

 男は兄のビジネスを手伝うため、たびたび米国に出張しているが、今ひとつ何をやりたいかがはっきりしない。かつて少年野球の花形選手だったようで、今もたまに子どもたちをコーチしている。野球選手になりたかった過去から解放されていないのだろう。

 一方、女は建築設計会社で働いていたが、大企業との合併を機にリストラされてしまう。失業したことで生活基盤が揺るぎ、2人の関係はますます先が見えなくなっている。

 ある日、男が出張から持ち帰ったビデオから、男が隠していた密会の事実が発覚。女が男を問い詰めると、男は逆ギレして家を出ていく。女は男との関係を修復しようと、男の行きつけのカラオケ店に電話するが――。

 急速に発展する台北を舞台に、男女の不安定な関係をスタイリッシュな映像で描いた作品。男を演じたのはホウ・シャオシェン、女を演じたのは当時ヤン監督夫人だったツァイ・チン(蔡琴)。ほかにも「多桑 父さん」(94)のウー・ニェンチェン(呉念真)、「光陰的故事」(82)のクー・イーチェン(柯一正)など、ヤン監督の盟友だった映画作家たちが俳優として参加。ホウ監督は脚本、製作も手がけている。

 仏ヌーヴェルヴァーグに比肩する大きなうねりを引き起こした台湾ニューシネマ。斬新な映像スタイルもさることながら、盟友同士がスクラムを組んで製作した点でも、まさにヌーヴェルヴァーグ的な1本といえる。

 プロ野球や石原裕次郎のテレビCM、日本語カラオケ、日本企業のネオンサイン、さらには少女が口にする渋谷や原宿という名前まで、全編に散りばめられた“日本”も印象的である。

(文・沢宮亘理)

「タイペイ・ストーリー」(1985年、台湾)

監督:エドワード・ヤン
出演:ツァイ・チン、ホウ・シャオシェン、クー・イーチェン
posted by 映画の森 at 19:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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