2017年02月21日

「百日告別」最愛の人を突然失った痛み 台湾トム・リン監督、実体験を映画化

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 最愛の妻を突然亡くした実体験を、台湾青春映画「九月に降る風」(08)のトム・リン監督が映画化した。

 台湾の路上で多重事故が起きた。平和な日常が一瞬で非日常に変わる。シンミン(カリーナ・ラム)は婚約者レンヨウを亡くした。ユーウェイ(シー・チンハン)は妊娠中の妻シャオエンを失った。最愛の相手の死を受け入れられない二人は、喪失感に押しつぶされそうになりながら、初七日を迎える──。

 初七日、三十五日、四十九日と行われる合同の法事。縁のなかった他人同士が、事故に巻き込まれた共通点で山の上の寺に集まる。何度か顔を合わせるうち、奇妙な連帯感が生まれていく。しかし、法事が終われば再び、それぞれ孤独な喪失感と向き合わなければならない。

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 シンミンは調理師のレンヨウと、レストランを開く夢があった。メニューの開発を兼ねて新婚旅行する予定だった沖縄に、シンミンは一人旅立ち、孤独を改めてかみ締める。一方、ユーウェイはピアノ教師だった妻の教え子の家を訪ね歩き、レッスン料を返していく。そして二人は、法事の節目である「百日」を迎える。

 「百日告別」は悲惨な事故シーンで幕を開ける。それぞれ事故車に乗り合わせ、一命をとりとめた二人。もうろうとする意識の中、病院で初めて現実を知る。怒りと悲しみが入り乱れ、我を失うユーウェイに、親族たちは理解を示さない。その姿は監督自身の体験から生まれたのではないだろうか。

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 心に穴の開いた二人をよそに、時は無情に、刻々と過ぎていく。合同の法事を節目にしながら、二人は喪失感を埋めるため動き出す。一人向かった沖縄。島の人々の優しさや風景が、言葉の通じないシンミンの心を癒やしていく。

 残された人が亡き人を思う気持ちは、日を追うごとに募るものだろうか。監督自身が亡き妻への思いを整理し、映画にすることが、癒やしの儀式だったのかもしれない。監督の痛みがダイレクトに伝わり、観客も言い知れぬ痛みと悲しみを共有する。

(文・藤枝正稔)

「百日告別」(2015年、台湾)

監督:トム・リン
出演:カリーナ・ラム、シー・チンハン、チャン・シューハオ、リー・チエンナ、ツァイ・ガンユエン

2017年2月25日(土)、渋谷ユーロスペースほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.kokubetsu.com/

作品写真:(C)2015 Atom Cinema Taipei Postproduction Corp. B'in Music International Ltd. All Rights Reserved
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posted by 映画の森 at 17:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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