
集団リンチ殺人の加害者の現在が暴かれ、もう一つの殺人が明るみに出る「クロス」。人間が過去と向き合い、思わぬ運命に対峙する様子を描く。映画プロデューサーで監督の奥山和由、撮影監督の釘宮慎治が共同でメガホンを取った。
集団リンチ殺人を追っていたジャーナリストの柳田(斎藤工)は、加害者の知佳(Sharo)の居場所を突き止める。知佳の夫の孝史(山中聡)は柳田に事実を知らされ動揺。夫婦関係に亀裂が入る。知佳の過去は記事になり、孝史が経営する会社は倒産。愛犬の里親を募集したところ、真理子(紺野千春)が名乗り出る。

孝史の娘・聖羅(前野えま)は愛犬と離されてふさぎ込む。娘思いの孝史は真理子に頼み、犬を通じた交流が始まった。しかし、知佳は夫と真理子の仲を疑う。集団リンチ殺人が起きた同じ時期に発生した不倫殺人事件に、真理子が絡んでいるのではないか──疑った知佳は柳田を呼び出し、告げ口をする。
過去に起きた二つの殺人が交差する。着眼点とアイデアは優れている。しかし、全体に掘り下げが浅い。不倫殺人は理解できるところまで描かれるが、集団リンチ殺人は背景説明にとどまった感がある。土台となるべき「過去」が安定しないため、描かれる「現在」が説得力を欠く。
重点が置かれているのが、真理子の心情だ。もう人を会いしてはいけないのに、内に眠る女の部分と葛藤する。そんな姿に知佳は嫉妬するが、演じるSharoが表面的な演技に終始している。一方、柳田役の斎藤は短い出演ながら、ふてぶてしくしたたかな記者役で存在感を見せている。
(文・藤枝正稔)
「クロス」(2017年、日本)
監督:奥山和由、釘宮慎治
出演:紺野千春、山中聡、Sharo、前野えま、那波隆史
2017年7月1日(土)、ユーロスペースほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.cross2017.com/
作品写真:(C)2017「クロス」製作委員会
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