
1967年、コペンハーゲン。労働者階級の家に生まれた兄弟、13歳のエリック(アルバト・ルズベク・リンハート)と10歳のエルマー(ハーラル・カイサー・ヘアマン)は、病気の母親と引き離され、男児向け養護施設に預けられる。施設ではしつけ名目の体罰が横行していた。エリックたちは環境になじめず、上級生のいじめの標的されてしまう──。
「きっと、いい日が待っている」は、コペンハーゲンの養護施設で起きた実話をもとにしている。子どもに対する暴力、薬物投与が明るみに出て、2000年代半ばに報告書がまとめられた。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(00)のラース・フォン・トリアー監督が率いる製作会社の俊英、イェスパ・W・ネルスンがメガホンを取った。

エリックとエルマーの兄弟が車に乗せられ、人里離れた施設へ送られる。物悲しい幕開けだ。かつて兄弟は元気いっぱいだった。天体望遠鏡を万引きした兄弟は店員に追われ、母親は呼び出されて責められる。宇宙飛行士になりたい天真爛漫なエルマーは、貧しさで手に入らない望遠鏡がほしかったのだ。しかし、シングルマザーの母が入院。兄弟は養護施設に入れられる。
施設の生活は地獄だった。しつけ名目の教師の体罰、上級生のいじめ、過酷な労働。小児性愛嗜好の教師の毒牙。施設を支配していたのは、独裁的な校長(ラース・ミケルセン)だった。施設の仲間は兄弟に、気配を消して「幽霊になれ」と助言する。外界との接触を絶たれ、独自のきまりで運営される施設。

そこへ、新しく女性教師ハマーショイ(ソフィー・グローベル)が赴任してきた。傷の絶えない兄弟を親身になって手当てし「言いつけを守れば、最後は報われる」と諭す。文章が読めるエルマーに郵便係の仕事を与え、重労働から解放する。兄弟は「クリスマスは一緒に過ごせる」という母の言葉を信じ、つらい生活に耐える──。
1960年代、閉ざされた施設に横行する児童虐待を、真正面から告発する。校長役ラース・ミケルセンの迫真の演技に凍り付く。兄弟の母的な立場となるハマーショイ先生の母性、エルマーが抱く宇宙への憧れが癒やしとなる。子役2人の演技が素晴らしく、幕引きにも救われる作品だ。
(文・藤枝正稔)
「きっと、いい日が待っている」(2016年、デンマーク)
監督:イェスパ・W・ネルスン
出演:ラース・ミケルセン、ソフィー・グロベル、アルバト・ルズベク・リンハート、ハーラル・カイサー・ヘアマン
2017年8月5日(土)、YEBISU GARDEN CINEMAほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.kittoiihigamatteiru.ayapro.ne.jp/
作品写真:(C)2016 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa International Sweden AB.
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