
戦前、台湾から沖縄県石垣島に移り住んだ人々を追ったドキュメンタリー映画「海の彼方」。日本に統治されていた1930年代、台湾から八重山諸島に農家約60世帯が移り住んだ。「海の彼方」に登場する玉木家の人々も含まれていた。
2015年、88歳になった玉木玉代おばあは、娘や孫に連れられ、台湾の埔里へ最後の里帰りをする。長年の思いを胸にたどり着くが、70年の歳月がもたらした変化は大きかった。

玉代おばあの孫である玉木慎吾がナレーションを務める。慎吾はヘビメタバンドのメンバーとして活動している。東京から石垣島へ慎吾が帰るところから、カメラは追っていく。慎吾を迎える家族の中に、玉代おばあの姿も。再会を喜ぶ家族の幸せの向こうには、おばあが歩んだ苦難の歴史があるのだ。
日本の敗戦後、石垣島に残った台湾の人々は無国籍状態に置かれた。おばあも沖縄が本土に復帰する1972年、日本国籍となった。沖縄の台湾人は、台湾の戦後教育を受けていないため、台湾語と日本語しか話せない。孫の代になると台湾語ができなくなる。台湾と日本の間にいる移民のアイデンティティーに迫りながら、おばあの里帰りを追っていく。

台湾人移民の苦難の歴史、玉木家の家族史がうまく合わさっている。日本と台湾の歴史も分かりやすく入ってくる。黄インイク監督のドキュメンタリー・シリーズ「狂山之海(くるいやまのうみ)」第1弾作品。
(文・藤枝正稔)
「海の彼方」(2016年、台湾・日本)
監督:黄インイク
出演:玉木玉代、玉木慎吾、玉木茂治、玉木美枝子、登野城美奈子
2017年8月12日(土)、ポレポレ東中野ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
https://uminokanata.com/
作品写真:(C)2016 Moolin Films, Ltd.
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