
クラスに気になる子がいる。その子は自分のことなんか眼中にない。あたりまえだ。彼女は美人で派手で、女王様的存在。それに対して、こっちは空気が読めずオタクっぽく、浮いた存在。そもそも住む世界が違うのだ。
14歳の“イケてない”男の子、マイク。父親は不動産ビジネスで財を築き、プール付きの豪邸を建てたが、母親がアル中の治療で家を空けるや途端に愛人と旅行に出てしまう。
夏休み。一人残されたマイクのもとに、ロシアから転校してきたばかりのチックが、どこかで盗んだオンボロ車を駆ってやってくる。子供が車を運転している時点でアウトなのに、盗難車。でもそんなの気にもかけない。少年だから刑罰の対象にあらずと涼しい顔なのだ。内気なマイクとは対照的にブッ飛んだ奴。

その日は、マイクが恋する女王様の誕生日。何とクラスで招待されなかったのは、マイクとチックだけだった。それならば、こっちから押しかけるまで。チックはためらうマイクを助手席に乗せ、誕生パーティに乱入する。マイクは心を込めて描いた彼女の似顔絵をプレゼントすることに成功。ささやかな達成感を胸に、二人はあてどないドライブに出るのだった――。
性格も素性も異なる2人の少年。シャイなマイクは大胆不敵なチックにリードされながら、これまでに味わったことのいない、めくるめく出来事に身を委ねていく。
ドライブが始まるや、GPS(全地球測位システム)で居場所がばれるからと、チックがマイクのスマホを窓から放り捨てる。「イージー・ライダー」(69)の冒頭、ピーター・フォンダが腕時計を外して投げ捨てる場面を思い出す人もいるだろう。体制からの決別宣言。

便利なスマホと引き換えに、少年たちが手に入れたとびきりの自由。とうもろこし畑に描く即興アート、風力発電所での野宿、廃墟の少女との出会い、貯水池での水浴び……。14歳の少年たちが、濃密な体験を重ねながら、人間的に成長していく。
何か何まで管理され、もはや自由など存在しないかに見える現代っ子の世界。ところがスマホを取り上げるだけで、これだけ伸び伸びと生きることができるのだ。もしスマホを捨てさせなければ、こんなにワクワクするロードムービーなんか撮れなかったに違いない。加えて盗難車を運転させる設定。広大なドイツの国土を駆け抜ける姿が、少年たちの生命力、躍動感とよくマッチしている。
監督はドイツの名匠ファティ・アキン。初期作「太陽に恋して」(00)を貫いていたダイナミズムとロマンチズムが、今回も力強く脈打っており、見る者の胸を熱くさせるとともに、爽やかな後味を残す。
(文・沢宮亘理)
「50年後のボクたちは」(2016年、ドイツ)
監督:ファティ・アキン
出演:トリスタン・ゲーベル、アナンド・バトビレグ・チョローンバータル、メルセデス・ミュラー
2017年9月16日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.bitters.co.jp/50nengo/
作品写真:(c)2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH
タグ:レビュー