2017年09月16日

「望郷」一つの島、二人の主人公、二つの物語 親子の葛藤と絆 丁寧に掘り下げ

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 「告白」(10)の原作者・湊かなえの短編集「望郷」。一つの島を舞台にした6編の中から、「夢の国」と「光の航路」の2編を交差させ、1本の作品として完成させた。監督は「ハローグッバイ」(17)の菊池健雄。

「夢の国」

 古いしきたりを重んじる家庭に育った夢都子(貫地谷しほり)は、故郷にしばられ生きていた。幼い頃から本土にある遊園地“ドリームランド”を自由の象徴として憧れていたが、祖母(白川和子)や母(木村多江)と暮らす現実とは縁遠かった。

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 しきたりに固執する祖母と、祖母に言いなりの母。二人を見て育った夢都子の憤りが、ある事件を起こしてしまう。事件は人生に重くのしかかり、事件を見過ごした自分を責め、母と修復できない亀裂が生まれる。後に母となった夢都子は、自分を束縛していた内面と向き合う。

「光の航路」

 本土から9年ぶりに島へ転勤してきた教師の航(大東駿介)。ある日、教師だった父(緒形直人)の教え子を名乗る畑野が訪ねてくる。畑野は航が知らない父の姿を語り始める。

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 航の亡き父に対する思いが、航の主観と他者の客観で埋められ、父への誤解が解けていく。父と同じ教職に就いた航だったが、クラスで起きる陰湿ないじめに憔悴していた。畑野は学生時代にいじめられ、航の父に救われたという。畑野が語る話に航は驚き、ある真実を知る。

 一つの島、二人の主人公、二つの物語。成長過程を描きながら、それぞれ親へ抱いた葛藤やトラウマに向き合う。「夢の国」は暗く重苦しい空気で、親子の心のすれ違いと絆を描く。「光の航路」は父と息子のドラマを通じ、ミステリーのように過去と未来をつなぐ家族の絆を描いていく。

 独立する二つの話に連続性を持たせるため、主人公同士を友人に設定し、最初と最後で二人を交差させた。島の一大イベントである豪華客船の進水式。華々しく出航する船に人間の一生を重ねて語る。感動的な描写だ。

 重苦しく始まった物語は、曲折を経て最後は晴れやかに終わる。俳優たちの好演、じっくり練られた脚本。人物の心情も丁寧に掘り下げられ、感動を呼ぶ作品となった。

(文・藤枝正稔)

「望郷」(2017年、日本)

監督:菊地健雄
出演:貫地谷しほり、大東駿介、木村多江、緒形直人、森岡龍

2017年9月16日(土)、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://bokyo.jp/

作品写真:(C)2017 avex digital Inc.
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posted by 映画の森 at 09:00 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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