
冒頭、オーディションのシーンに目を見張る。体を激しく揺らしながら、大きなテーブルを両手でつかみ、何が何でも離さぬと、必死のパフォーマンス。主人公マリリンヌの非凡な演技センスと、エキセントリックな性格を強烈に印象づける、鮮やかなオープニングだ。観客は、この時点で早くもヒロインの一挙一動から目が離せなくなるだろう。
片田舎の出身。母親以外に心を許す人間はなく、父親の葬儀でもほとんど無感情。都会に出て女優になることだけを夢見て生きてきたのだろうか。卓越した才能はすぐに見出される。ただし、あまりに繊細すぎるがゆえに、プレッシャーに弱い。何度もダメ出しされ、罵倒され、放り出される。
酒浸りの荒れた生活。女優の夢はとうに捨ててしまったか。と思って見ていると、有力な映画監督からオファーが入る。再起のチャンスだ。しかし、ここでも精神的弱さを露呈。NGを連発し、窮地に追い込まれる。だが、諦めかけたそのとき、共演者であるベテラン女優から救いの手が伸びる。彼女の的を射たアドバイスは功を奏し、マリリンヌは才能を開花させる。
これで吹っ切れた。女優としての運命は決定づけられた。確信をいだく。ところが、続くシーンで描かれる私生活の不調に、漠然とした悪い予感を抱かされる――。
はたしてマリリンヌはこのまま成功への道を進むのか、再び挫折してしまうのか。場面転換するたびに、境遇が変わっており、先がまったく読めない。綿密に設計された脚本が見事。ヒロインの不安定な人物造形と相まって、予断を許さない展開が続いていく。
マリリンヌ役は、これが映画初主演のアデリーヌ・デルミー。意表をつくラストで観客をまんまと欺く演技は圧巻だ。第30回東京国際映画祭の最優秀女優賞を獲得した。
(文・沢宮亘理)
「マリリンヌ」(2017年、仏)
監督:ギヨーム・ガリエンヌ
出演:アデリーヌ・デルミー、ヴァネッサ・パラディ、エリック・リュフ、ラーズ・エディンガー
作品写真:(c)Photo Thierry
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