
最愛の娘が殺されて数カ月。犯人逮捕の気配がなく憤る母親のミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、捜査の遅れに抗議するため、町はずれに巨大な広告看板を設置し、警察と激しく対立する──。
昨年のベネチア国際映画祭で脚本賞、トロント国際映画祭観客賞、先日の第75回ゴールデン・グローブ賞でも作品賞など主要4部門を獲得。3月の第90回米アカデミー賞も作品賞ほか7部門で候補となっている話題作「スリー・ビルボード」。監督・脚本・製作は「セブン・サイコパス」(12)のマーティン・マクドナー。

米ミズーリ州の田舎町エビング。さびれた道路脇に立つ朽ちかけた広告看板を、車の運転席から中年女性が見つめている。女性はミルドレッド。7カ月前、娘がレイプされて殺されたのだ。その足で看板を管理するエビング広告社に出向き、前金で1年間の広告契約を結ぶ。
ミルドレッドは警察に不満をぶつけるように、赤地に黒文字で掲げる。「レイプされて死亡」、「なぜ? ウィロビー署長」、「犯人逮捕はまだ?」。すべて警察署長のウィロビー(ウディ・ハレルソン)に向けていた。パトロール中のディクソン巡査(サム・ロックウェル)が看板に気づき、ウィロビー署長に報告する。

看板をめぐる出来事をシリアスに描きつつ、黒い笑いを塗したクライム・サスペンスだ。静かだった田舎町に波紋が広がり、町全体を揺るがす一大事へ発展する。信念だけ警察と戦う母親を演じたマクドーマンド。筋が通ったぶれない姿勢がポイントだ。
対照的にぶれまくるのが、暴力巡査を演じたロックウェル。母親と2人暮らしの単細胞で、ことごとくミルドレッドの挑発に乗り、事を大きくする。ハレルソン演じる署長は、ミルドレッドとディクソン巡査、事件の板挟みとなる。穏健派で町の人々の信頼も厚く、父性を持った存在で、揺れる町の均衡をかろうじて保つ。
後を絶たないレイプ事件を、当事者ではなく、遺族と警察の視点で描く。きっかけとなる事件そのものは描かない。被害者が死亡したため、犯人は闇へと消えた。
ミルドレッドと警察の対立から始まる物語は、犯人探しの推理劇に発展する。孤軍奮闘するミルドレッドは、西部劇の主人公のごとく、自力で決着を付けようとする。先の見えない運命を暗示する極上の幕引きが、力強く、深い余韻をもたらした。
(文・藤枝正稔)
「スリー・ビルボード」(2017年、英)
監督:マーティン・マクドナー
出演:フランシス・マクドーマンド、ウッディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、アビー・コーニッシュ、ジョン・ホークス
2018年2月1日(木)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.foxmovies-jp.com/threebillboards/
作品写真:(C)2017 Twentieth Century Fox
タグ:レビュー