
元軍人のジョー(ホアキン・フェニックス)は行方不明者探しのスペシャリストだ。ある時、議員の娘・ニーナ(エカテリーナ・サムソノフ)を売春組織から救い出すが、彼女はあらゆる感情が欠落したかのように無反応だった。そして2人はニュースで依頼したニーナの父が飛び降り自殺したと知る──。
ジョナサン・エイムスの犯罪小説を、「少年は残酷な弓を射る」(11)のリン・ラムジーが監督、脚本、製作を担当して映画化した。カンヌ国際映画祭で主演男優賞(フェニックス)、脚本賞を受賞した。

ジョーの仕事道具はハンマーだけ。「闇の仕事人」の雰囲気だが、過去は一切説明されない。しかし、今も苦しめられるトラウマ、フラッシュバックから、つらい記憶が読み取れる。幼い頃に父に受けた虐待。海兵隊時代の砂漠の風景。FBI(米連邦捜査局)捜査官として見た少女の死体の山。ジョーの心はむしばまれ、常に自殺願望にとわわれていた。
フェニックスの役作りは尋常ではない。体重をかなり増やして巨漢になり、白髪交じりのぼさぼさした髪を後ろでたばね、ひげづらで最初は本人と分からない変貌ぶりだ。上半身裸のシーンでは、無数の傷と刺青がさらされる。過酷な闇仕事をしてきた証だろう。仕事の時は感情を殺すが、同居する母の前では少年のようにふざける。母は息子の仕事を知らないのかもしれない。

売春組織からニーナを救い出したが、ジョーは逆に殺し屋に狙われる。ニーナは再びさらわれてしまい、ジョーの母も狙われるが、ジョーの心にはニーナがおり、再び救い出すために動き出す。監督の演出は計算されており、幕引きは観客にゆだねられている。暴力と死が支配する物語の中で、ジョーとニーナのつながりが救いになる。
売春組織から少女を救う設定に、ポール・シュレイダーが脚本を書いた「タクシードライバー」(76)、ポルノ業界に娘をとられた父を描くシュレイダー監督作品「ハードコアの夜」(79)を思い出した。少女を食い物にする米国社会の闇の深さを、改めて感じさせる衝撃作だ。
(文・藤枝正稔)
「ビューティフル・デイ」(2017年、英国)
監督:リン・ラムジー
出演:ホアキン・フェニックス、ジュディス・ロバーツ、エカテリーナ・サムソノフ、ジョン・ドーマン、アレックス・マネット
2018年6月1日(金)、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://beautifulday-movie.com/
作品写真:Copyright (C) Why Not Productions, Channel Four Television Corporation, and The British Film Institute 2017. All Rights Reserved. (C) Alison Cohen Rosa / Why Not Productions
タグ:レビュー