2018年11月27日

「ハード・コア」山田孝之×山下敦弘監督 世渡り下手で社会不適合な男たち

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 都会の片隅で生きる権藤右近(山田孝之)は純粋で、曲がったことが大嫌い。しかし信念を暴力に転嫁させるため、仕事も居場所もなくし、山奥で怪しい活動家の埋蔵金探しを手伝うことになる。共に働く牛山(荒川良々)だけが心を許せる友人だ。そんな二人を右近の弟・権藤左近(佐藤健)が見守る。一流企業のエリートだが、腐った世の中にうんざりしていた──。

 1990年代のコミック「ハード・コア 平成地獄ブラザーズ」を、ドラマ「山田孝之の東京都北区赤羽」(15)、「山田孝之のカンヌ映画祭」(17)コンビの山下敦弘監督、山田主演で送る作品だ。

 純粋すぎて社会に適合できない兄・右近。世間をうまく渡り歩くエリート商社マンの弟・左近。対照的な兄弟と、右近同様社会に居場所がない男たちの物語。結社を組織する怪しい活動家・金城(首くくり栲象)の下で働く右近と牛山。軍隊ばりに厳しい上下関係を貫く番頭・水沼(康すおん)に監視され、埋蔵金発掘に没頭している。

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 女を知らない牛山のため、右近は自宅アパートにデリヘル嬢を呼ぶが、金を持ち逃げされる。厳しい現実に直面しながら生きる彼らに、突然変化が訪れる。牛山が寝床にしている廃工場で古びたロボットを発見したのだ。つまらぬ日常が変化するきっかけだった。

 原作に魅了された山下監督と山田。出会いとなったオムニバス映画「BUNGO ささやかな欲望」(12)の初号試写の時、漠然と「ハード・コア」映画化構想が持ち上がり、ドラマ「山田孝之の東京都北区赤羽」の前から現実味を帯びたという。

 出だしで社会不適合の若者の日常を辛辣に描く。高性能ロボットの出現で空想のエッセンスが加わり、ドロップアウトした男たちの物語は加速を始める。「苦役列車」(12)の山下監督は、はみ出し者を描くのがうまい。右近も融通の利かない強情な奴に見えるが、彼なりの理論と考え方がある。信念を貫き行動しているだけで、生き方に迷いはなく、世に迎合する若者を揶揄しているようにも映る。

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 山田はバリバリ硬派な右近を、ぶれずに演じている。一方、水沼の娘・多恵子(石橋けい)との禁断の愛では、悲しき男の滑稽な性(さが)を見せる。世渡り上手な左近を演じた佐藤が、厳しい現実を突きつけるクールな弟を好演し、俗世間と無縁な牛山を荒川が怪演する。後半の展開は唐突な印象だが、幕引きにほっこりさせられる。浮かれた現代と逆に生きる男たち。山下監督×山田コンビによる風変わりな佳作といえよう。 

(文・藤枝正稔)

「ハード・コア」(2018年、日本)

監督:山下敦弘
出演:山田孝之、佐藤健、荒川良々、石橋けい、首くくり栲象

2019年11月23日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hardcore-movie.jp/

作品写真:(C)2018「ハード・コア」製作委員会
posted by 映画の森 at 19:12 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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