
第二次世界大戦末期の1945年4月。敗色濃厚なドイツでは兵士の規律違反が相次いでいた。部隊を脱走したへロルト(マックス・フーバッヒャー)は、道ばたに捨てられた車の中に軍服を発見し、身に着けて大尉に成りすます。架空の任務である「ヒトラー総統からの命令」をでっちあげ、言葉巧みに嘘をつき、道中出会った兵士たちを次々と服従させていく──。
「ちいさな独裁者」は、実在したドイツ人兵士ヴィリー・へロルトをモデルにしている。監督、脚本は西ドイツ出身のロベルト・シュベンケ。ドイツ映画「タトゥー」(02)で長編デビューした後、ジョディ・フォスター主演「フライトプラン」(05)でハリウッド進出。「RED レッド」(10)、「ダイバージェント NEO」(15)などヒット作を手掛けた。「ちいさな独裁者」は15年ぶりに故国ドイツで手掛けた作品だ。

終戦まで1カ月。混とんとしたドイツで、「軍服」の魔力にとりつかれた男の狂気が描かれる。ヘロルトはナチス将校の軍服を手にしたことで、大尉の権力も入手する。大き過ぎる軍服を着た小柄なヘロルトは、部隊からはぐれた一人の上等兵と出会う。上等兵はヘロルトの身なりで大尉と思い込み、同行を願い出る。ヘロルトは偽りの大尉になりすまし、道々で出会ったならず者の兵士たちを寄せ集め、「ヘロルト親衛隊」と称する。集団は権力を振りかざし、残酷な狂気へ突き進む。
ドイツ映画「es エス」(02)を思い出す内容だ。「es エス」では、新聞広告で集められた被験者が疑似刑務所で看守と囚人に分けられ、2週間の実験が行われる。権力を手に入れた看守役は囚人役をいたぶり始め、死者を出す。1971年に米スタンフォード大学で行われた監獄実験をモチーフにしたもので、ヘロルトの行動もそれにつながる印象だ。

軍服姿のヘロルトは、兵士たちに「ヒトラー総統直々の任務だ」と宣言。高圧的な態度、巧みな言葉で兵士たちを支配する。疑われながらも数々の修羅場をくぐり抜け、最後は残忍に収容所の囚人たちを処刑し始める。
戦時中の実話をもとに、人間の内部に潜む支配欲、残虐性をあぶり出した。軍服だけで盲従する兵士たちは、判断力を失った現代人への警鐘にみえる。ヘロルトの残虐行為は、ナチスが実際に行ったおぞましい犯罪の数々を思い起こさせるだろう。負の欲望にとらわれた凶器の物語は、毒気あふれるエンドロールへ続く。ナチスの悪夢に震え上がる作品だ。
(文・藤枝正稔)
「ちいさな独裁者」(2017年、独・仏・ポーランド合作)
監督:ロベルト・シュベンケ
出演:マックス・フーバッヒャー、ミラン・ペシェル、フレデリック・ラウ、ベルント・ヘルシャー、ワルデマー・コブス
2019年2月8日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。。
http://dokusaisha-movie.jp/
作品写真:(C)2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film