
「第14回大阪アジアン映画祭2019」のコンペティション部門でスペシャル・メンションを授与された韓国映画「アワ・ボディ」は、平凡な30代女性がスポーツに出会ったことで気持ちも変わっていくさまを描く。さまざまなキャラクターの女性が登場する「女性たちの映画」について、ハン・ガラム監督と主演のチェ・ヒソに聞いた。
主人公は30代のジャヨン。公務員試験に落ち続け、恋愛もうまくいかず、閉塞感と将来への不安をかかえて生きている。そんな中、自宅近くを颯爽と走る女性、ヒョンジュに目を奪われる。同じチームに入りランニングを始めるが、ある日、前を走っていたヒョンジュが交通事故で亡くなる。ジャヨンは憧れの女性の死を乗り越え、さらに走ることで自分の生き方を見つけていく。
ハン監督は1985年生まれ。「アワ・ボディ」は韓国映画アカデミーの卒業作品で、昨年の釜山国際映画祭で上映された。チェはイ・ジュニク監督の「空と風と星の詩人 尹東柱の生涯」「金子文子と朴烈(パクヨル)」の鮮烈な印象が記憶に新しい。大阪アジアン映画祭は昨年に続き二度目の参加だ。二人はどのように作品と向き合ったのだろうか。

――30代女性の物語を作った理由は。
ハン:身体の変化を通して、生き方の変化を表現したかった。身体は自分が努力しただけ成果を得られる。物語は自分が20代後半から30代前半にかけて体験し、感じたことをモチーフにしている。自分は映画を仕事にすることを家族に反対され、放送局を志望して試験に落ちたりした。親たちは「試験に受かってほしい、いいところに就職してほしい」と願うものだが、同じ世代の女性たちに、もっと好きなように生きてもいい、楽に生きてほしいというメッセージを込めた。
――最近の韓国のインディペンデント映画は、就職も恋愛もうまくいかない若者の鬱屈をテーマにしたものが非常に多い。
ハン:(学歴社会、就職難など)現実が厳しいので映画もそうなるのだろう。「アワ・ボディ」も、自分は社会的な問題意識があって作ったつもりはなかったが、社会的背景との関係をよく聞かれる。
――シナリオを読んだ印象は。
チェ:一気に読んで、ぜひ演じたいと思った。自分も将来についていろいろと考えてきたので、受動的に生きてきたジャヨンがランニングを始めて変化するプロセスが自然に理解できた。平凡に見える女性だが、ランニングを始めること自体勇気が必要。普通は始めようと思ってもできない。何かを始めて集中する「力強さがある」性格が気に入った。簡単にアプローチできる役ではないが、だからこそ挑戦したかった。
――30代は女性にとってどういう年代だと思うか。
ハン:結婚したりキャリアを積んだりする年代だが、新しいことができると思う。
チェ:日本も同様だが、女性も男性も就職している、結婚している、貯金があるというように、落ち着いているべきだという考えがある。つまり、会社員、母親といったラベルが貼られる。この映画では、それらを突破するものとしてランニングが登場する。
――走るシーンが多いが、撮影中のエピソードは。
ハン:俳優もスタッフも苦労したと思う。一緒に走った助監督は7キロもやせた(笑)。自分は撮影中は座っているので気にしていなかったが、後から申し訳ない気持ちになった。
チェ:長距離を走るのは好きではなく、この映画で初めて走った。途中までは苦しいが、それが過ぎれば楽になるという長距離走の“味”が分かった気がする。夜に走るシーンを取るため、撮影が日暮れから夜明けまでに及んだのが大変だった。
――主なキャラクターがすべて女性だが、最初から意図したのか。
ハン:意図したのではないが、主人公の周囲の重要なキャラクターを考えていくとき母親や姉妹、女友達はとても重要な関係なので、自然にそうなった。
――次はどんな映画に取り組みたいか。
ハン:以前から考えていたストーリーを発展させて新しいシナリオを執筆中。モチーフは「アワ・ボディ」とはまったく違う。毎回違うものを作っていきたいと思っている。
チェ: チャレンジできる役にひかれる。「金子文子と朴烈」もそうだが、主体的な女性に魅力を感じるので、これからも違うタイプの女性のキャラクターに挑戦してみたい。
(文・芳賀恵)
写真1:ハン・ガラム監督(左)と主演のチェ・ヒソ(右)=芳賀撮影
写真2:作品写真=映画祭事務局提供