2019年04月05日

「バイス」ブッシュ政権を陰で操った男、チェイニー副大統領の野望と横暴

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 1960年代半ば。酒癖の悪い青年チェイニー(クリスチャン・ベール)が後の妻となる恋人リン(エイミー・アダムス)に尻を叩かれ、政界を目指す。型破りな下院議員ドナルド・ラムズフェルドのもとで政治の表裏を学んだチェイニーは、次第に権力の虜になっていく。ジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領に就任し、入念な準備のもと“影の大統領”として振る舞い始める──。

 ブッシュ政権(2001〜09年)で“影の大統領”と呼ばれた副大統領ディック・チェイニーの実話を描いた「バイス」。「ダークナイト」(08)のクリスチャン・ベールが特殊メイクと体重20キロ増で演じた社会派作品だ。監督、脚本、製作は「マネー・ショート華麗なる大逆転」(15)のアダム・マッケイ、製作はブラッド・ピットら。「バイス」は、副大統領(バイス・プレジデント)と、「悪徳」や「邪悪」の意味を込めた。

 米国ではこれまでオリバー・ストーン監督の「ニクソン」(95)と「ブッシュ」(08)、スティーブン・スピルバーグ監督の「リンカーン」(12)など、大統領を描いた作品が多く作られているが、今回のように副大統領が主人公の作品は珍しい。しかも、俗物の黒歴史をシニカルに描いている。

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 監督自ら「何も知らなかった」と語るように、影の男だったチェイニーを、なじみのない観客にも分かるよう作っている。記録映像を交えてチェイニーの物語が進む一方、一般人のカート(ジェシー・プレモンス)の別の人生が、並行して描かれる。スクリーンから「第4の壁」を越え、観客に向かって語り掛ける謎の存在だが、カートとチェイニーの人生が交差する意外な仕掛けが隠されている。

 チェイニーの歩み、政治家としての経歴、大統領の陰で権力を振りかざした行為の数々が描かれる。堅苦しさはなく、演出は軽妙で編集は巧みだ。キャストの成り切り演技が相乗効果を生み、再現ドラマの域を越えた娯楽作になっている。

 ベールにの特殊メイクは「ミセス・ダウト」(94)、「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」(08)の巨匠グレッグ・キャノン。20代の青年期から70代の老年期まで、違和感なく仕上げた。ベールは米ゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞したが、陰の功労者はキャノンの特殊メイクだろう。

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 ブッシュ大統領役のサム・ロックウェル、ラムズフェルド国防長官役のスティーヴ・カレル、パウエル国務長官役のタイラー・ペリーら、実在の政治家を特殊メイクでそっくりに再現。副大統領の生き様に鋭く切り込み、皮肉たっぷりに描いた社会派の快作だ。

(文・藤枝正稔)

「バイス」(2018年、米)

監督:アダム・マッケイ
出演:クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、スティーブ・カレル、サム・ロックウェル、タイラー・ペリー

2019年4月5日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://longride.jp/vice/

作品写真:(C)2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All rights reserved.
posted by 映画の森 at 23:40 | Comment(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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