
英国の田舎町に父と暮らす高校生のアナ(エラ・ハント)は、さえない同級生とパッとしない毎日を送っていた。ところがクリスマス、町にゾンビがやってきた。アナたちは、日頃の鬱屈した想いを発散するかのように、高らかな歌声と軽快なリズムにのってゾンビに立ち向かう──。
青春とゾンビとミュージカル。交わるはずのないジャンルが見事に融合した「アナと世界の終わり」。ジョン・マクフェール監督の長編2本目で、スペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭を皮切りに各国のファンタスティック映画祭で話題を呼んだ作品だ。
ゾンビ映画の原点は、ジョージ・A・ロメロ監督「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(68)である。死者が蘇って人間を襲い、噛みつかれた人間は死に、ゾンビとなって人間を襲う。ロメロ監督が生んだルールは、その後のゾンビ映画の定型になり、日本でも最近「カメラを止めるな!」が話題になった。

一方、1960年代に世界的なブームとなったミュージカル映画は、「ラ・ラ・ランド」(16)や「グレイテスト・ショーマン」(17)が大ヒットするなど、21世紀に入って復活の兆しを見せている。
映画業界の二つのキーワード、ゾンビとミュージカルを掛け合わせたのが「アナと世界の終わり」だ。米国から派生した英国のゾンビ映画は秀作ぞろい。「28日後...」(02)や「ショーン・オブ・ザ・デッド」(04)など、数こそ少ないが良質だ。
「アナと世界の終わり」は、ゾンビ映画には珍しく高校生が主人公。ミュージカル形式にすることで、米国映画をパロディーにしているようだ。クリスマスの高校で、突然生徒が秘めた思いを歌で吐露する。食堂で歌い踊るシーンや、オタクを体育会系がいじめる表現などは、米国製の青春映画を英国のフィルターを通して戯画化したようだ。

ゾンビ映画にはお約束のえげつないスプラッター描写、終末的な世界観。対照的で不釣り合いなクリスマスの背景がポイントになる。青春学園ものならではの友情と恋、親子愛、英国流の黒い笑い、歌と踊り。斬新なアイデアが抜群のバランスで配分されている。
(文・藤枝正稔)
「アナと世界の終わり」(2017年、米・英)
監督:ジョン・マクフェール
出演:エラ・ハント、マルコム・カミングス、サラ・スワイヤー、クリストファー・レボー、マルリ・シウ
2019年5月31日(金)、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://anaseka-movie.jp/
作品写真:(C)2017 ANNA AND THE APOCALYPSE LTD.