マレーシアを代表する映画監督、ヤスミン・アフマド監督の没後10年に合わせた特別上映「伝説の監督 ヤスミン・アフマド特集」が、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで開かれている。2009年、51歳の若さで急逝して10年。遺作となった「タレンタイム」(09)など長編6作品と、短編オムニバス映画「15マレーシア」(09)が上映されている。
多民族、多宗教、多言語国家のマレーシアを舞台に、さまざまな壁を軽やかに乗り越え、互いを尊重し共存する人々を描いたヤスミン監督。開幕に合わせて「細い目」(04)、「グブラ」(05)などに主演し、ヤスミン作品の「顔」ともいえる女優のシャリファ・アマニほか四姉妹、「タレンタイム」の音楽を担当したミュージシャンのピート・テオが来日。記者会見や観客との質疑応答、トークイベントに参加した。
会見でシャリファ・アマニは「東京で繰り返し監督の作品が上映されていることをうれしく思う。監督の遺したもの、魂が日本で生き続けている。私の大好きな監督がこの世を去って10年になるが、今も作品を愛し続けてくれてうれしい」と話した。
また、ピート・テオは「ヤスミンの作品が日本で生き続けているのは光栄で、栄誉あること。今後も上映の機会があればいいと思う」と語った。
(文・遠海安)
2019年8月23日(金)まで、渋谷のシアター・イメージフォーラムで開催。上映スケジュールなど詳細は公式サイトまで。
http://moviola.jp/yasmin10years/
主な上映作品の詳細は以下の通り。
<1>「ラブン」(03)
出演:M・ラジョリ カルティナ・アジズ
MVA最優秀アセアン映画賞受賞
定年を迎えた父、母、就職したばかりの娘オーキッド。父は定年を機に田舎の実家を改築して暮らそうとするが、近隣の住人とうまくいかず…。家族の肖像をコミカルに描く。「ラブン」とは、目がかすむことの意味。次作から主役となる“オーキッド”が登場した記念すべきデビュー長編。
<2>「細い目」(04)
出演:ン・チューシオン シャリファ・アマニ
マレーシア・アカデミー賞グランプリ、東京国際映画祭最優秀アジア映画賞
香港の映画スター(金城武)が大好きなマレー系少女オーキッドは、露店で海賊版の香港映画ビデオを売る中国系の少年ジェイソンと出会い恋に落ちる。民族や宗教が異なろうと、彼らの家族は2人の恋を理解するが……。細い目とは、中国系の目が細いことをからかうマレーシアの言い方。
<3>「グブラ」(05)
出演:シャリファ・アマニ アドリン・ラムリ
マレーシア・アカデミー賞グランプリ
「細い目」の数年後。結婚したオーキッドは、父の入院をきっかけに、夫の裏切りに気づく。一方、町の反対側にある低所得者の地域では、イスラム教聖職者とその妻が、近隣者の困難に向き合う。2つの世界をパラレルに描く意欲作。
提供:Nusanbakti Corporation Sdn Bhd 協力:一般社団法人コミュニティシネマセンター
<4>「ムクシン」(06)
出演:モハマド・シャフィー・ナスウィプ シャリファ・アルヤナ シャリファ・アマニ
ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門審査員グランプリ
オーキッドは10歳、ムクシンは12歳。夏休みに出会った二人はすぐに仲良くなる。ムクシンは、オーキッドに恋心を抱くが…。それぞれの抱える家族や近隣者の悩みを浮かび上がらせながら、幼い2人の思春期の入口の輝きを描き出す。
<5>「ムアラフ 改心」(07)
出演:ブライアン・ヤップ シャリファ・アマニ
東京国際映画祭アジア映画賞スペシャル・メンション
父を嫌って家出したマレー系の姉妹。叔母の所有する空き家に暮らす2人は、中国系のキリスト教徒の青年教師と出会う。彼は子供時代のつらい記憶から宗教を憎悪していたが、信仰を大事にする姉妹に惹かれるうち、自分を前向きに変えて行く。
<6>「タレンタイム 優しい歌」(09)
出演:パメラ・チョン マヘシュ・ジュガル・キショール
音楽:ピート・テオ
マレーシア・アカデミー賞最優秀監督賞含む主要4賞、シネマニラ国際映画祭最優秀東南アジア映画賞
ピアノの上手なムルーは、耳の聞こえないマヘシュと恋に落ちる。二胡を演奏する優等生カーホウはギターがうまい転入生ハフィズに嫉妬する。たくさんの民族が暮らす街で、音楽コンクール“タレンタイム”に挑戦する高校生たちのかけがえのない青春とその家族を描くヤスミンの遺作長編。