1957年、米ニューヨーク。私立探偵のライオネル・エスログ(エドワード・ノートン)は、障害を抱えながら、驚異の記憶力を持っていた。恩人であり唯一の友人でもあるボスのフランク・ミナ(ブルース・ウィリス)が殺され、フランクは事件の真相を追い始める。ウイスキーの香り漂うハーレムのジャズ・クラブから、マイノリティーが集うブルックリンのスラム街へ。わずかな手がかりと勘、行動力で大都会の闇に迫っていく──。
ジョナサン・レセムの原作を「真実の行方」(96)、「ファイト・クラブ」(99)のエドワード・ノートンが監督した。脚本、製作、主演も兼ねた犯罪劇だ。共演に「ダイ・ハード」(88)のブルース・ウィリス、「美女と野獣」(2017)のググ・バサ=ロー、「レッド・オクトーバーを追え!」(90)のアレック・ボールドウィン、「永遠の門 ゴッホの見た未来」(18)のウィレム・デフォー。豪華な顔ぶれだ。
孤児のライオネルを拾い、父親のような存在だった探偵事務所の主・フランクが殺される。残された探偵たちは、フランクを陥れた犯人を探そうと動き出す。しかし、街の暗部に触れてしまったライオネルの前に、巨大な権力が立ちはだかる。
原作の時代設定である1999年が1957年に変更され、フィルムノワールの香り漂う探偵ものに仕上がった。主演のノートンがいい。ライオネルはトゥレット症候群(字幕で「チック症」)を持ち、時おり感情が抑えきれず、大声でさまざまな単語を発してしまう。同僚には「フリークショー(見世物小屋)」と揶揄される始末だ。一方で、異常なまでに記憶力が良い。チック症でくせの強い話し方だが、脳内の独白は冷静で滑らか。頭脳明晰ぶりがうかがえる。
フランクを亡くしたライオネルの良き理解者になるのが、捜査中に知り合った黒人女性ローラ(ググ・バサ=ロー)だ。父親がジャズクラブを経営しており、ライオネルの心はローラの存在と熱いジャズの響きに解放させる。音楽を担当したダニエル・ペンバートンがうまい。モダンジャズ、ビバップ、ビッグバンド、ジャズオーケストラなど、シーンによって使い分けて盛り上げる。
1957年のジャズ界は、ビバップ全盛だった。トランぺッターのマイルス・デイビスがパリに招かれ、ルイ・マル監督「死刑台のエレベーター」(58)のサントラを手掛けた。「マザーレス・ブルックリン」に登場するトランぺッターは、マイルスがモデルだろう。吹き替え演奏したのは、米の大御所ウィントン・マルサリス。マイルスが「モード奏法」を生み出す前夜、57年当時の熱いジャズシーンを再現している。監督こだわりのシーンに注目してほしい。
ノートンにとって「僕たちのアナ・バナナ」(00)以来の19年ぶり監督2作目。自身が演じた特異なキャラクター、ライオネルが物語をかみ砕き、バランスの取れた良作になった。
(文・藤枝正稔)
「マザーレス・ブルックリン」(2019年、米国)
監督:エドワード・ノートン
出演:エドワード・ノートン、アレック・ボールドウィン、ブルース・ウィリス、ググ・バサ=ロー、ウィレム・デフォー
2020年1月10日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://wwws.warnerbros.co.jp/motherlessbrooklyn/index.html
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