思い込みが激しく、負けん気の強いシングルマザーのニーナ(シャルロット・ゲンズブール)。息子のロマン(ピエール・ニエ)はいずれ「仏軍勲章を受けて外交官、大作家になる」と信じて、才能を引き出すことに命をかけていた。母とロシア、ポーランド、フランスに移り住んだロマンは、溺愛の重圧にあえぎながらも、幼い頃に母と結んだ約束を果たすべく、努力を惜しまぬようになっていく──。
映画「勝手にしやがれ」(59)の主演女優ジーン・セバーグの元夫で、仏の作家ロマン・ガリの自伝小説「夜明けの約束」を映画化した。1970年以来2度目、47年ぶりの映画化。監督、脚本は「赤と黒の接吻」(91)、「蛇男」(08)、「ラスト・ダイヤモンド 華麗なる罠」(14)のエリック・バルビエ。
幕開けは1950年代半ば。米ロサンゼルスの仏総領事になったロマンは、旅先のメキシコで頭痛を抱えつつ「夜明けの約束」を書いていた。やがて幼少期の記憶がよみがえり、ロマンは母との20年間を回想し、1924年のポーランドから時系列でエピソードがつづられる。
フランスを理想化するユダヤ系ポーランド人移民の母ニーナは、ロマンに「将来お前はフランス大使、大作家になる」と暗示をかけている。母の言葉を信じ、実現しようとする息子。親子の根底には壮大な思い込みが横たわっている。
「有限実行」の母は、他人の前で堂々と理想を話して行動に移す。高級服飾店を開いた時は、俳優をデザイナーに仕立てて話題づくり。店を堂々と開店し、繁盛店にしてしまう。計算高く神経が図太い。
母と息子は擬似恋人のようだ。ニーナはロマンが愛する女性をことごとく否定し、関係をぶち壊す。母との距離が近すぎて、ロマンも苦しむが、裏切れずに理想の姿になるべく努力する。仏軍に従軍し、第二次世界大戦でロンドン、アフリカと場所が移るたび、母は息子に手紙を書く。手紙は二人をつなぐ重要なコミュニケーションの道具となる。
ロマンの数奇な運命の裏に、叱咤を続けた母がいた。母を演じたゲンズブールが強烈だ。父は歌手セルジュ・ゲンズブール、母に女優ジェーン・バーキン。少女の頃から歌手や女優としてキャリアを積み、繊細なイメージだったが、今回は激しく極端な母親役だ。
ロマン役のニエは、実在のデザイナーを演じた「イヴ・サンローラン」(14)から一転、人間味あふれる主人公を好演した。131分の長尺作品だが、テンポ良くメリハリの利いた演出。ロマン・ガリを知らない観客も、自叙伝として十分に楽しめる。
(文・藤枝正稔)
「母との約束、250通の手紙」(2017年、仏)
監督:エリック・バルビエ
出演:ピエール・ニネ、シャルロット・ゲンズブール、ディディエ・ブルドン、ジャン=ピエール・ダルッサン
2020年1月31日(金)、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
https://250letters.jp/
作品写真:(C)2017 - JERICO-PATHE PRODUCTION - TF1 FILMS PRODUCTION - NEXUS FACTORY - UMEDIA