
1960年代、ベトナム戦争が激化する中、米陸軍のウィラード大尉(マーティン・シーン)に特殊任務が命じられる。軍規にそむき、カンボジア奥地のジャングルで王国を築くカーツ大佐(マーロン・ブランド)の暗殺指令だった。ウィラードは4人の部下と哨戒艇でヌン川をさかのぼる──。
フランシス・フォード・コッポラ監督のカンヌ国際映画祭のパルムドール(最高賞)受賞作「地獄の黙示録」(79)が製作40周年を記念し、監督自身の手で再編集、デジタル修復された。
「地獄の黙示録」は現在、大きく分けて2つのバージョンが存在する。オリジナルである79年の劇場公開版、上映時間は153分。オリジナルには2つのバージョンがあり、一部の劇場で先行上映された70ミリ版はエンドロールがない。通常上映された35ミリ版は、ラストに村の爆破シーンとエンドロールがある。

さらに、2001年に公開された「地獄の黙示録 特別完全版」は、上映時間が最長の202分。劇場公開版より30分長く、ウィラードたちがヌン川をさかのぼる途中でフランス人入植者たちに出会うエピソードなどが追加された。35ミリ劇場公開版同様、村の爆破とエンドロールがある。今回IMAX上映される「地獄の黙示録 ファイナル・カット版」は、「特別完全版」より20分短く、デジタル修復されている。
「地獄の黙示録」が描くのは戦争の狂気だ。カーツ大佐暗殺の任務を負ったウィランドたちが、川をさかのぼる途中で見たのは、戦争で狂った米兵たちだった。サーフィンをするため村ごと焼き払うギルゴア中佐(ロバート・デュバル)。慰問に訪れたプレイメイトに熱狂する兵士。ドラッグに溺れ正気を失っていく乗務員。それまで米映画が描いた英雄とは正反対の米軍兵士が登場する。
ヘリコプターがベトナムの村を襲撃する戦闘シーンに始まり、中盤から後半にかけて登場人物の狂気は加速する。カーツ大佐のいる秘境は、さまざまな人種と死体の放つ死臭漂うカオスな場所だ。

王国に君臨するマーロン・ブランドは、スキンヘッドの異様な出で立ち。登場シーンは影や逆光を多用した映像で、怪物と化したカーツ大佐を象徴する。CG(コンピューター・グラフィクス)のない時代、物量作戦でベトナム戦争を再現したコッポラの破壊力もさることながら、米アカデミー賞を受賞した撮影監督、ヴィットリオ・ストラーロの映像美を再確認できる。
ドアーズの「ジ・エンド」、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」など、既存の音楽の使いた方が非常にうまく、作品と切っても切れない印象を残した。40年を超えて復活した「ファイナル・カット版」は、IMAXの迫力映像と音響により、改めて作品世界にどっぷりひたれるだろう。
(文・藤枝正稔)
「地獄の黙示録 ファイナル・カット」(2019年、米国)
監督:フランシス・フォード・コッポラ
出演:マーロン・ブランド、マーティン・シーン、ロバート・デュバル、ローレンス・フィッシュバーン、ハリソン・フォード、デニス・ホッパー
2020年2月28日(金)、IMAX全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://cinemakadokawa.jp/anfc/
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