2020年09月21日

「ブリング・ミー・ホーム 尋ね人」“チャングム”ことイ・ヨンエ、14年ぶり復帰映画 息子を捜す孤独な戦い

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 大ヒットドラマ「宮廷女官 チャングムの誓い」(03)、映画「親切なクムジャさん」(05)主演のイ・ヨンエが、14年ぶりにスクリーンに復帰した。看護師のジョンヨン(イ・ヨンエ)と夫のミョングク(パク・ヘジュン)は、6年前に行方不明になった息子のユンスを探し続けていた。そこへ「ユンスに似た子を漁村で見た」との情報が寄せられる。しかし、漁村を訪れたジョンヨンの前に、釣り場を営む怪しげな一家が立ちはだかる。口を閉ざす村人、非協力的な警察。ジョンヨンは村への疑念をふくらませる──。

 初メガホンを取ったのは、イ・チャンドン監督の「シークレット・サンシャイン」(07)にプロダクション・アシスタントとして参加したキム・スンウ。自身が書いた脚本がイ・ヨンエの目に止まり、映画化が実現した。

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 夫妻は息子を捜し、韓国中を自家用車で走り回っている。助けを求めた「行方不明家族 捜索の会」の小屋の壁には、いなくなった無数の子どもの写真が貼られている。説明的な描写はないが、子どもの数の多さが観客にインパクトを与える。

 そんな中、ミョングクは教員として再就職が決まるが、不運にも事故に巻き込まれてしまう。落ち込むジョンヨンに怪しい男から息子に似た少年の情報が入る。大金を払って情報を得たジョンヨンは、少年がいるという漁村の釣り場へ向かう。 

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 韓国社会の闇が凝縮されたようなドラマだ。息子を捜す夫妻は、わずかな手がかりも逃さず追っていくが、心ないいたずらに振り回される。人生のほとんどを息子捜しに奪われ、負のスパイラルを断ち切ることはできない。たどり着いた釣り場の家族の不気味さも際立つ。地元の警察官(ユ・ジェミョン)はこの家族と親密で、まったくあてにならない。あまりの不条理に嫌悪感が湧き上がる。ホラー映画「悪魔のいけにえ」(73)の狂人家族を見た時のようだ。

 韓国映画らしく暴力描写も容赦がない。邦画なら躊躇するところだが、殴る蹴るや奴隷扱いなど痛々しい。ジョンヨンの格闘シーンは「タクシードライバー」(76)のクライマックスを彷彿させる。生々しい痛みを伴う戦いだ。

 救いのない暴力の幕引きには甘さも感じたが、デビュー作とは思えぬ監督の演出に感服した。饒舌な語り口、緊張感あふれる推理劇、深い人物造形、巧みな伏線回収、ショッキングな暴力描写。わずかな情報に一縷の望みを託す母親の深い愛、強さと行動力。イ・ヨンエら俳優陣の好演も光る衝撃作だ。

(文・藤枝正稔)

「ブリング・ミー・ホーム 尋ね人」(2019年、韓国)

監督:キム・スンウ
出演:イ・ヨンエ、ユ・ジェミョン、イ・ウォングン、パク・ヘジュン

2020年9月18日(金)、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://www.maxam.jp/bringmehome/

作品写真:(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

posted by 映画の森 at 10:05 | Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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