新居を探す若いカップルのトム(ジェシー・アイゼンバーグ)とジェマ(イモージェン・プーツ)は、ふと足を踏み入れた不動産屋で、同じ家が立ち並ぶ住宅地「ヨンダー」を紹介される。内見を終えて帰ろうとすると、案内していた不動産屋が見当たらない。不安を感じて帰ろうと車を走らせるが、どこまで行っても景色は変わらず、住宅地から抜け出せなくなる──。
「ソーシャル・ネットワーク」(10)のジェシー・アイゼンバーグと「グリーンルーム」(15)のイモージェン・ブーツが共演した不条理スリラー。監督はアイルランド出身のロルカン・フィネガン。ブーツは「第52回シッチェス・カタロニア国際映画祭」で最優秀女優賞を受賞した。
幕開けはカッコウの托卵映像だ。ほかの鳥の巣に産卵し、ひなは宿主の卵を巣から落とし、宿主から餌をもらって育つ。意味深な映像に導かれてドラマが始まる。米ドラマ「トワイライト・ゾーン」、日本のドラマ「世にも奇妙な物語」に通じる奇妙な作風。着眼点が面白い。幸せの象徴とされる家族の「マイホーム探し」を逆手に取り、住宅ローンにとらわれる悲劇と考える。展開はどこまでも不条理だ。
住宅地に閉じ込められた二人に、段ボール箱で男の赤ちゃんが届く。赤ちゃんはわずか98日間で7歳ぐらいに成長するが、ひと癖もふた癖にあるとんでもない子なのだ。二人が自分を育てて当たり前と考え、気に入らないことが起きると、超音波のような絶叫で抗議する。ものまねが得意で、二人の言葉や行動をコピー。扉越しに二人を監視し、夜な夜なテレビで不思議な動画を見る。脱出不能の住宅地と謎の男の子。二人は精神的に追い詰められ、トムは「地中に何かある」と玄関横で穴掘りを始める。
「ビバリウム」の意味は「生存環境を再現した空間」。カッコウの托卵映像が暗示した通り、新興住宅地を再現した空間に若い二人が誘い込まれる。何者が地球侵略を計画しているのだが、その正体は描かれず、観客の判断に委ねられる。
住宅地は日常の延長にあるように見えるものの、マグリットの絵画「光の帝国」に触発された人工的建造物に矛盾が見え隠れする。クライマックスの仕掛けは、最近見た作品では抜群の視覚的ショックだ。終わりのない不気味なドラマは独特の後味の悪さが残る。資本主義を皮肉ったブラックな味わいで、長く後を引く不条理スリラーだ。
(文・藤枝正稔)
「ビバリウム」(2019年、ベルギー・デンマーク・アイルランド)
監督:ロルカン・フィネガン
出演:イモージェン・プーツ、ジェシー・アイゼンバーグ、ジェシー・アイゼンバーグ、ジョナサン・アリス
2021年3月12日(金)、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
https://vivarium.jp/
作品写真:(C)Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film