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高校生の安藤純(神尾楓珠)はゲイであることを隠している。ある日、書店で同級生の三浦紗枝(山田杏奈)が、男同士の恋愛をテーマとしたBL(ボーイズラブ)漫画を購入しているところに遭遇。紗枝からBL好きを「誰にも言わないで」と口止めされ、そこから2人は急接近。しばらくして純は紗枝から告白される──。
2019年に「腐女子、うっかりゲイに告(こく)る。」のタイトルでテレビドラマ化された、浅原ナオトの小説「彼女か好きなものはホモであって僕ではない」を映画化した。監督・脚本は「からっぽ」(12)、「にがくてあまい」(16)の草野翔吾。
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世界は今、多様性を高める流れにある。最近のLGBTQ(性的マイノリティー)を描いた映画には、英ロックバンド「クイーン」のボーカリスト、フレディ・マーキュリーに焦点を当てた「ボヘミアン・ラプソディー」(18)、草g剛主演の「ミッドナイトスワン」(20)などがある。時代の流れに乗るような「彼女が好きなものは」は、ゲイの男子とBLを愛する女子の交際で生まれる波紋を描く。
純は同性愛者であることを母親、幼なじみ、友人らに隠し、妻子ある年上の誠(今井翼)と付き合っている。一方、紗枝は「ゲイはファンタジー」と考える腐女子だ。交わるはずのない二人が出会い、起きたさざ波は大きくなり、学校全体を巻き込む大騒動に発展する。
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純と誠の男同士のなまめかしいラブシーンから始まり、面食らう観客も多いかもしれない。しかし、性的アイデンティティーをめぐり悩み苦しむ純に、一度は拒否反応を見せた紗枝が、ある出来事を通して理解しようと変わる姿を見るうち、偏見は共感へ変化していく。監督は微妙な部分を丁寧に掘り下げ、問題から真正面から取り組んだ。
映画初主演の神尾は、難役を繊細に演じ切った。喜怒哀楽豊かな山田の演技もいい。アイドル出身の今井が、大人になった様子も感慨深かった。青春映画らしい軽いタッチで幕を開け、次第にデリケートなテーマに移行。問題を提起しつつ観客の理解を引き出した。純がSNSで知り合った友人のせつないサイドストーリーも秀逸。難しいテーマながら、バランス感覚に優れた秀作だ。
(文・藤枝正稔)
「彼女が好きなものは」(2021年、日本)
監督:草野翔吾
出演:神尾楓珠、山田杏奈、前田旺志郎、三浦りょう太、池田朱那、渡辺大知、三浦透子、磯村勇斗、山口紗弥加、今井翼
2021年12月3日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
https://kanosuki.jp/
作品写真:(C)2021「彼女が好きなものは」製作委員会