
地方テレビ局のチャリティー番組に出演する19歳の柏倉リン(小野莉奈)。ハート型のかぶりものを着けて「世界平和」を訴え、募金を呼び掛けるものの、職場では疎外感を感じていた。周りの大人たちと打ち解けられず、一人暮らしの話し相手はAI(人工知能)スピーカー。社会に対する違和感に気づいたリンのモヤモヤは蓄積する──。
インディーズ(独立系)映画のミューズ・小野莉奈主演、監督、脚本、編集に新鋭・小村昌士、音楽はAru-2が務めたシニカル・コメディー。第16回大阪アジアン映画祭に出品された。

孤独な19歳が、大人と子どもの狭間で感じる複雑な思いを、極端な形で描いている。映画はリンが17歳で受けたオーディションで幕を開ける。拳銃で撃たれ、なかなか死なない粘った演技をするが、審査員はそのしつこさに激怒する。見た目は大人、中身は子どものリンの疎外感と孤独をうまく表現している。
馬鹿正直でピュア、融通のきかないリンは、周りに溶け込めずにいる。野外駐車場で監視員のバイトをする時は、誰もいないのにルールに従い声を張り上げたり、ガラガラなのに客に停める場所を支持して困らせたり。はたから見るとかなり「痛い」のだが、本人は真面目に働いているだけなのだ。

そんなある日、リンは地元を騒がせる連続爆弾魔を目撃する。しかし、なぜか爆弾魔の手書きマスク、付けひげにシンパシーを感じるリン。過去の爆破場所を確認すると、ある秘密が隠されていることに気づく。
インディーズ映画らしい着眼点と、シュールな演出がうまく合わさり、Aru-2の軽快なビートに乗ってシニカルな世界が広がる。リン役の小野は計算された演技で、存在感が際立つ。大人になり切れない「大きな子どもたち」も納得する楽しい作品だ。
(文・藤枝正稔)
「POP!」(2021年、日本)
監督:小村昌士
出演:小野莉奈、三河悠冴、小林且弥、野村麻純、菊田倫行、木口健太、成瀬美希、中川晴樹
2021年12月17日(金)、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
https://idod.jp/
作品写真:(C)2G FILM