2022年01月22日

「さがす」父の失踪と三つの視点 巧みな脚本で観客を翻弄

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  大阪の下町で平穏に暮らす原田智(佐藤二朗)と中学生の娘・楓(伊藤蒼)。「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万円もらえるで」。父のいつもの冗談だと思い、相手にしない楓。しかし翌朝、智は煙のように姿を消した──。

 「岬の兄妹」(18)で監督デビューした片山慎三監督の長編2作目。個性派俳優の佐藤二朗、「湯を沸かすほどの熱い愛」(16)の伊藤蒼、「東京リベンジャーズ」(21)の清水尋也、Netflixドラマ「全裸監督」(19)の森田望智らが出演している。

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 大阪の父娘と連続殺人が絡み合い、3つの視点で物語が展開する。第一の視点は楓。母を亡くした楓は、万引きで捕まった父を迎えに店に走る。だらしないが憎めない父は「連続殺人犯を見た」と言い残して失踪する。楓は警察に相手にされず、中学の担任と街頭でチラシを配っていたところ、日雇い工事現場に父の名があると知る。

 第二は連続殺人犯・名無しの視点だ。SNSで自殺者を募り、連絡してきた人から金を取って殺す冷酷な男。第三の視点が失踪した智だ。監督の実父が過去に「電車の中で逃げる指名手配犯を見た」エピソードが物語の骨格になっているという。フィクションに真実を紛れ込ませ、物語をいつの間にか真実のように錯覚させる。犯人の設定に実際のいくつかの事件の犯人像を投影させ、観客を混乱させながら最終地点へ向かう。

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 着眼点の面白さと練りに練った脚本のうまさ。情報を小出しにしながら観客を迷わせ、予想外の場所へ着地させた演出にうなった。俳優たちの好演も光る。くせのある個性派・佐藤のシリアスな役者ぶり、難しい役を堂々と演じ切った伊藤蒼。連続殺人犯を演じた清水の冷酷なたたずまいが際立った。失踪者、自殺ほう助、SNS、指名手配犯、連続殺人など、現代社会の闇を盛り込んだ作品だ。

(文・藤枝正稔)

「さがす」(2022年、日本)

監督:片山慎三
出演:佐藤二朗、伊東蒼、清水尋也、森田望智、石井正太朗、松岡依都美、成嶋瞳子、品川徹

2022年1月21日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://sagasu-movie.asmik-ace.co.jp/

作品写真:(C)2022「さがす」製作委員会

posted by 映画の森 at 14:38 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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