2021年08月03日

「元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件」小型機の2人が絶体絶命、痛快サバイバル劇

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 インド洋上空、3人乗り小型機、パイロット死亡。GPS(全地球測位システム)、通信機は故障、燃料は残りわずか。もちろん操縦はしたことがない。同乗者は元カレ。すぐそこに巨大乱気流。絶体絶命の窮地に立たされ、2人が生き残るために取った行動は──。

 人食いザメと女性サーファーの死闘を描いた「ロスト・バケーション」(16)のジャウム・コレット=セラ監督が製作したサバイバル作品。スリラー映画「ゲット・アウト」(17)のアリソン・ウィリアムズ、ドラマ「ラスト・キングダム」のアレクサンダー・ドレイマンが主演。「コール・ガール」(12)のスウェーデン出身監督、ミカエル・マルシメーンがメガホンを取った。

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 原題は「HORIZON LINE(地平線)」だが、邦題は「元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件」と説明的なタイトルが付けられてしまった。冒頭こそ浮ついた描写が続くが、パイロットが心臓発作で亡くなって以降、テレビの「奇跡の生還」番組を拡大したような映像で、スリルとサスペンスの連続となる。亡くなるパイロットを演じたキース・デビッドは「遊星からの物体X」(82)で映画デビューしたベテラン俳優だ。

 メーンの舞台は飛行中の小型機のコクピット。究極のワン・シチュエーションで、サラとジャクソンの2人で物語が展開する。GPSもダメ、通信装置はつながるものの不安定、自動操縦装置は故障。乱気流に巻き込まれ、燃料漏れで、海に墜落寸前の絶体絶命状態だ。サラは操縦かんを握って陸地を目指すが、思いもよらぬ危機が次々襲いかかる。

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 墜落の恐怖を描いた作品で、主演2人の熱演と撮影技術が物を言った。小型機の飛行実写シーン、コクピット内の演技をスタジオ撮影したシーン。飛行中に機外に出て修理や燃料補給するシーンでは、CG(コンピューター・グラフィックス)に頼らず、俳優たちが危険な演技に挑んでいる。邦題は軽い感じだが、実は痛快なサバイバル劇。予期せぬアクシデントを回避し、生きようと奮闘する作品だ。

(文・藤枝正稔)

「元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件」(2020年、スウェーデン・米)

監督:ミカエル・マルシメーン
出演:アリソン・ウィリアムズ、アレクサンダー・ドレイマン、キース・デビッド

2021年8月6日(金)、TOHO シネマズ日比谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://gaga.ne.jp/motokare-no-ken/

作品写真:(C)2020 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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2016年09月15日

「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」公開記念シンポ「女性の生き方、模範示した」

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 往年の名女優イングリッド・バーグマン生誕100年を祝し、2015年にカンヌ国際映画祭でプレミア上映された「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」。日本公開記念シンポジウム「女優イングリッド・バーグマンの生涯からみる男女役割の変化」がこのほど東京都内で開かれた。基調講演を行ったジャーナリストのウルリカ・クヌートソン氏は「バーグマンはフェミニストの象徴的存在だった」と語った。

 米アカデミー賞主演女優賞を3度も受賞した名女優であるとともに、“恋多き女”として奔放な人生を送ったバーグマン。「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」は波乱万丈の生涯を、バーグマン自身が撮影したホームムービーや日記、手紙、家族や関係者へのインタビューなどを通して浮き彫りにしたドキュメンタリー映画だ。

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 クヌートソン氏は、同作の内容を踏まえた上で、女優として、また女性としてバーグマンが歩んだ道を振り返り、彼女が映画界や社会に与えた影響について話した。

 母国スウェーデンで女優デビューしたバーグマン。「女の顔」(38)では顔にやけどを負った女性、ハリウッドに招かれて撮った「ジキル博士とハイド氏」(41)では酒場の女と、イメージにそぐわない役に敢えて挑戦し、役柄の幅を広げていった。「誰が為に鐘は鳴る」(43)では、自慢の長い髪を切り、戦うヒロインを熱演。「この作品を認めなかった原作者のヘミングウェイも、バーグマンの演技には絶賛を惜しみませんでした」

 その後、「白い恐怖」(45)や「汚名」(46)などのヒッチコック作品で全盛を極めるが、イタリア映画「ストロンボリ 神の土地」(49)への出演をきっかけに、監督のロベルト・ロッセリーニと恋に落ち、妊娠。歯科医の夫と離婚し、ロッセリーニと再婚したバーグマンは、非難轟々の末にハリウッドから追放される。

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 しかし、1956年にハリウッドに復帰するや、「追想」(56)で2度目のオスカーを獲得。たちまちトップスターに返り咲く。その後も順調にキャリアを重ね、晩年は母国の巨匠イングマル・ベルイマン監督の「秋のソナタ」(78)で大女優の貫禄と輝きを見せた。

 「教師、看護師、ピアニスト、アーティスト、宣教師……。50年以上にわたるキャリアを通して、バーグマンは多様なキャラクターを演じ、女性の生き方の模範を示しました。さまざまな意味でフェミニストの象徴的存在でした」

 男性の人生に付き従うのではなく、自らの意思で人生を切り開く――。スクリーンの中でも、実人生においても、バーグマンは女性の模範であり、憧れであり続けた。

 そんなバーグマンの魅力を余すところなくとらえたドキュメンタリー「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」。女性の自立と活躍が強く求められる今こそ見ておきたい、先駆的女性の貴重な記録だ。

(文・沢宮亘理)

「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」(2015年、スウェーデン)

監督:スティーグ・ビョークマン
出演:イザベラ・ロッセリーニ、イングリッド・ロッセリーニ、ロベルト・ロッセリーニ、ピア・リンドストローム、リヴ・ウルマン、シガニー・ウィーバー

渋谷Bunkamuraル・シネマほかで公開中。作品の詳細は公式サイトまで。

http://ingridbergman.jp/


作品写真:(c)Mantaray Film AB. All rights reserved. Photo: The Harry Ransom Center, Austin
タグ:イベント
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2014年07月14日

「なまいきチョルベンと水夫さん」 北欧の島、子どもたちのひと夏 リンドグレーンの児童文学 半世紀後の今も生き生き

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 スウェーデンが生んだ世界的女性児童文学家、アストリッド・リンドグレーン。「長くつ下のピッピ」、「やかまし村の子どもたち」、「ロッタちゃん」など、日本でも読んだ人は多いだろう。自然豊かなスウェーデンで、伸び伸びと暮らす子どもたち。1964年製作の「なまいきチョルベンと水夫さん」は、原作「わたしたちの島で」の映画化作品。今回デジタル修正版として日本公開される。

 緑豊かな避暑地のウミガラス島。ぽっちゃり体型で愛嬌たっぷりのチョルベン(マリア・ヨハンソン)は、両親や愛犬の「水夫さん」と一緒に過ごしている。ある日チョルベンは、漁師からアザラシの赤ちゃんをもらい「モーセ」と名づけて飼い始める。友人たちとかいがいしく世話をしていたが、漁師はモーセが高値で売れると知り、取り戻そうとする。一方、水夫さんもトラブルに巻き込まれて窮地に。チョルベンと友人たちは、モーセと水夫さんを守れるのか──。

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 日本ではあまりなじみのないスウェーデンの避暑地。「ウミガラス島」は実在のリゾート地、ヴァックスホルム島がモデルだ。美しい海辺には色とりどりのサマーハウスが並び、人々は北欧の短い夏を楽しみにやってくる。さんさんと降り注ぐ太陽、美しい白夜、家族で楽しむバーベキュー。大人も子どももバカンスを満喫している。

 主人公のチョルベンは、リンドグレーン作品のほかの主人公同様、茶目っ気がありちょっと破天荒だ。まるまるした笑顔、物おじしない性格で、時には大人もやり込めてしまう。原作「わたしたちの島で」はもともとリンドグレーンがテレビ番組の脚本として書き、大ヒットを受けて小説にしたもの。テレビから本へ、本から映画へ。製作から半世紀たった今も魅力はあせていない。リンドグレーンが時代を超えて愛された証拠だろう。

 遠い北欧のシンプルな暮らしぶりも垣間見え、大人も子どもも楽しめる。チョルベンのひと夏の冒険に、心がほんのり温かくなる作品だ。

(文・遠海安)

「なまいきチョルベンと水夫さん」(1964年、スウェーデン)

監督:オッレ・ヘルボム
出演:マリア・ヨハンソン、クリスティーナ・イェムトマルク、ステフェン・リンドホルム、トシュテン・リリエクローナ、ルイーズ・エドリンド、ベングド・エクルンド

2014年7月19日(土)、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.suifusan.com/

作品写真:(C)1964 AB SVENSK FILMINDUSTRI ALL RIGHTS RESERVED
タグ:レビュー
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