2021年07月23日

「少年の君」優等生少女と不良少年 過酷な境遇を描く青春サスペンス

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 中国。成績優秀な進学校の高校3年生、チェン・ニェン(チョウ・ドンユィ)。大学入試を前に殺伐とする校内で、参考書に向かい息を潜めていた。そんな中、クラスの女子生徒がいじめを苦に校舎から飛び降り自殺する。生徒たちが遺体にスマホを向ける光景に耐えられず、チェンは遺体に自分の上着をかけてやる。しかし、それをきっかけにいじめの矛先はチェンに向かう──。

 出演はチャン・イーモウ監督「サンザシの樹の下で」(10)でデビューしたチョウ・ドンユィ、アイドルグループ「TFBOYS」のイー・ヤンチェンシー。監督は香港の俳優、エリック・ツァンの息子で、「七月の安生」(16)を監督したデレク・ツァン。「少年の君」で香港最大の映画賞・香港電影金像奨で作品賞、監督賞、主演女優賞など8冠を達成した。

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 孤独な優等生の少女と、街頭に生きる不良少年の心を交流を描いた青春映画……と言いたいところだが、壮絶ないじめ、苛烈な受験戦争、ストリートチルドレンなどの社会問題を描いた青春サスペンスといえる。

 優等生と不良少年の設定は、日本の劇画「愛と誠」の思い起こすが、チェンは「愛と誠」の主人公のように金持ちではない。母親は犯罪すれすれの商売をしながら娘を学校に通わせている。ほかに身寄りがなく、母親に頼るしかないチェンは、学校帰りに集団暴行を受けていた少年シャオペイ(イー・ヤンチェンシー)を救い、二人は互いを意識し始める。

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 中国で「13億人の妹」と呼ばれるチョウ・ドンユィが、体当たりで演じている。20代後半でも高校生役に違和感がなく、いじめで髪の毛を切られて坊主頭にまでなる。同調するイーも坊主頭に。いじめは思わぬ方向に進み、衝撃的な展開になる。スリリングで鋭い演出が観客を揺さぶり続ける。孤独な二人の心の引き合う力は次第に強くなり、運命共同体になる後半は圧巻だ。

(文・藤枝正稔)

「少年の君」(2019年、中国・香港)

監督:デレク・ツァン
出演:チョウ・ドンユィ、イー・ヤンチェンシー、イン・ファン、ホアン・ジュ、ウー・ユエ、ジョウ・イエ

2021年7月16日(金)、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://klockworx-asia.com/betterdays/

作品写真:(C)2019 Shooting Pictures Ltd., China (Shenzhen) Wit Media. Co., Ltd., Tianjin XIRON Entertainment Co., Ltd., We Pictures Ltd., Kashi J.Q. Culture and Media Company Limited, The Alliance of Gods Pictures (Tianjin) Co., Ltd., Shanghai Alibaba Pictures Co., Ltd., Tianjin Maoyan Weying Media Co., Ltd., Lianray Pictures, Local Entertainment, Yunyan Pictures, Beijing Jin Yi Jia Yi Film Distribution Co., Ltd., Dadi Century (Beijing) Co., Ltd., Zhejiang Hengdian Films Co., Ltd., Fat Kids Production, Goodfellas Pictures Limited. ALL Rights reserved.

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2020年02月09日

チベット映画「巡礼の約束」ソンタルジャ監督&主演のヨンジョンジャに聞く「国や地域を問わず、人間の情や愛は変わらない」

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 チベットの聖地・ラサ巡礼を目指す家族の道のりを描いた映画「巡礼の約束」が2020年2月8日から公開されている。チベット人監督として初めて日本で作品が劇場公開された「草原の河」のソンタルジャ監督が、チベット人歌手・ヨンジョンジャを主演に迎えた人間ドラマだ。監督は「国や地域を問わず、人間の情や愛は変わらない」と語った。

 チベット文化圏の四川省ギャロン地域。女性ウォマは、夫のロルジェ、義父と暮らしている。病院で医師にあることを告げられたウォマは、ロルジェに「ラサへ五体投地で巡礼する」と宣言する。4反対を押し切り出発したウォマを、ロルジェが追い、前の夫との息子のノルウも会いに来た──。

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 主なやり取りは以下の通り。

 ──ヨンジョンジャさんの故郷・ギャロンの文化の特徴を教えて下さい。

 ソンタルジャ監督:ギャロンは村ではなく、広い地域を指します。四川省所属しており、その地域一帯に住むギャロン語を話す人たちがギャロンと呼ばれています。

 ヨンジョンジャ:私の実家はギャロンにあります。チベット民族として、ギャロンの村からラサへ巡礼に行く風習は古くからありました。全員が行けるわけではなく、仕事や体の具合などの都合で一部の人々しか行けません。

 私の故郷にいた小学校の先生が、五体投地でのラサ巡礼を長い時間をかけて実現しました。その話を監督にしたことが、企画のきっかけです。映画のストーリーとはかなり異なっています。監督が映画的に脚色してくれました。

 ソンタルジャ監督:共通しているのは(途中で巡礼に加わる)ロバの存在ですね。

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 ──映画のキーワードである「約束」「運命」「縁」は、チベットの人たちの生活の中では重要な意味を持つのでしょうか。

 ソンタルジャ監督:はい、その通りです。私たちが信じる仏教の考え方と一致します。漢民族は比較的、縁を宿命的で、悲観的にとらえる傾向がありますが、私たちチベット人は、豊かな人間関係の一つと考えます。「約束」「運命」「縁」は、チベットの人々の普遍的な価値観の象徴と思いますね。

 また、チベット人は、世の中のいろいろな場所に魂が宿ると信じています。人間関係について考える時も、簡単には判断を下しません。「縁」を大事にするのです。

 ──死についてはいかがですか。一般的に日本人は死ぬことに対して悲観的です。チベットの人たちはどうでしょう。

 ソンタルジャ監督:チベット人は死は生まれ変わりと考え、それほど悲観的にはとらえません。北京に一時期に住んでいた時、お年寄りが毎日身体を鍛えるのを見ました。老いへの抵抗ですね。チベットでは歩きながらお経を唱えたりします。都市の人は死にあらがおうとしますが、チベット人は普段の生活から死に向けて準備し、死に向かうことを当たり前と考えますね。

 ──お二人もそうですか。

 ソンタルジャ監督:まだその時期ではないですが、そう死にたいとは思います。その時になってみないと分からないです(笑)。

 ヨンジョンジャ:仏教徒として輪廻を信じています。死は新たな生の始まりだと考えます。

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 ──「巡礼の約束」を見て、チベットの人たちの間にはさまざまな言語、文化があると知りました。ギャロンの特徴はどんなところでしょうか。

 ヨンジョンジャ:宗教や信仰はほかの地域と一緒ですね。

 監督:建築や服飾が独特です。建物は石造りなんですよ。

 ヨンジョンジャ:そう、私もちょうど家を建てている最中で、すべて石で作るギャロン式です。チベットでもラサとギャロンは農耕文化。定住するので石造りの家。アムドやカンバなどは移動する遊牧民の土地で、人々はテントに住んでいます。

 監督:(チベット高原の)アムドやカンバの人たちは、モンゴル草原と同じようにゲルを住んでいます。

 ──映画を見てチベット文化に触れる外国人の観客に、どんな部分に注目してほしいですか。

 監督:「巡礼の約束」はチベットの映画ですが、どこの国であろうと、生きている人間の関係、親子の情は変わらないことを感じてほしいです。

 ヨンジョンジャ:政治的なレッテル、宗教の違いを取り払えば、残るのは人と人の心の通い合いです。「巡礼の約束」はギャロンの話ですが、民族や地域に関係なく、人間は愛が大事だと伝えています。包容力、豊かな広い心で、人を受け入れることや、約束を守ることが、とても大事だと感じてもらえればいいな、と思います。

(文・写真 遠海安)

「巡礼の約束」(2018年、中国)

監督:ソンタルジャ
出演:ヨンジョンジャ、ニマソンソン、スィチョクジャ、ジンバ

2020年2月8日(土)、岩波ホールほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://moviola.jp/junrei_yakusoku/

作品写真:(C)GARUDA FILM
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2018年02月08日

「マンハント」白い鳩、二丁拳銃、スローモーション ジョン・ウー監督、大阪舞台にアクション自在 

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 実直な国際弁護士ドゥ・チウ(チャン・ハンユー)が目を覚ますと、女の死体が横たわっていた。状況証拠はドゥが犯人と示しており、殺人事件に巻き込まれる。何者かに陥れられたと逃走するドゥ。一方、孤高の敏腕刑事の矢村(福山雅治)は独自捜査でドゥを追う──。

 中国で大ヒットした高倉健主演の「君よ憤怒(ふんど)の河を渉れ」(佐藤純彌監督、76)。西村寿行の原作小説を再映画化したのが「マンハント」だ。日本版のリメイクではなく、ジョン・ウー監督が原作を現代流に大胆に解釈。日中韓のキャスト、大阪など日本でロケ撮影した中国アクション映画だ。

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 高倉健版の「君よ憤怒の河を渉れ」と物語の骨格は同じだが、全体像はかなり違う。日本版では、高倉演じる罪を着せられた検事が、真犯人を探して日本中を逃げ回る。一方、「マンハント」は派手なアクション満載で、ウー監督のカラーを前面に押し出した。大阪ロケはリドリー・スコット監督で高倉も出演した「ブラック・レイン」(89)に通じる。

 幕開けは港町の小料理屋。女将(ハ・ジウォン)とドゥが談笑している。二人のひと時の心の交流は、のちの展開で重要になる。意外な仕掛けであっと驚くアクションシーンへ。二丁拳銃にスローモーション、ウー監督得意のアクションが素晴らしい。バックには「君よ憤怒の河を渉れ」のテーマ曲が流れる。しびれるような演出で、観客の心をわしづかみにし、日本版との方向性の違いをはっきり提示する。

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 ドゥは陰謀に巻き込まれ、逃亡を始める。長尺だった日本版と違い、構成がかなり簡略化されている。日本版で男くさい原田芳雄が演じた矢村は、福山雅治がスマートで洗練された刑事に変えた。矢村の登場シーンは、テロリストを相手に「ダーティハリー」(71)ばりに男気あふれている。

 香港からハリウッドへ、そして中国へ。トム・クルーズ主演の「ミッション・インポッシブル2」(00)、中国の歴史二部作「レッドクリフ」と大作が続いたが、「マンハント」はフットワークの軽さが際立つ。監督のシンボルでもある白い鳩、二丁拳銃、スローモーション。ヒッチコックばりの推理劇。手腕健在でうれしく、荒唐無稽さも圧巻だ。

 音楽・岩代太郎、美術・種田陽平に加え、國村隼、池内博之、竹中直人、桜庭ななみ、倉田保昭ら日本人キャストも大活躍する。アジアの才能が集結した注目の中国アクション映画だ。

(文・藤枝正稔 写真・岩渕弘美)

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「マンハント」(2018年、中国)

監督:ジョン・ウー
出演:チャン・ハンユー、福山雅治、チー・ウェイ、ハ・ジウォン、國村隼

2018年2月9日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/manhunt/

作品写真:(C)2017 Media Asia Film International Ltd. All rights Reserved

タグ:レビュー
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2018年02月02日

「苦い銭」中国ドキュメンタリー監督ワン・ビン最新作 急発展支える底辺の人々

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 中国・雲南省出身の少女シャオミンは15歳。縫製工場で働くため、バスと列車を乗り継ぎ、遠く離れた浙江省湖州へ向かう。出稼ぎ労働者が80%を占める街にも、胸に響く一瞬がある。初めて街で働き始める少女たちのみずみずしさ。稼げず酒に逃げる男。仕事がうまくいかず、ヤケになって工場を移る青年──。

 「三姉妹 雲南の子」(12)、「収容病棟」(13)などの中国ドキュメンタリー映画監督、ワン・ビンの「苦い銭」は2016年、第73回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門で脚本賞、人権の重要性を問う最も優れた作品に与えられる「ヒューマンライツ賞」を受賞した。

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 故郷・雲南省を離れて出稼ぎに向かうシャオミンら3人の若者たち。約2200キロ離れた浙江省の省都・杭州まで列車で20時間。カメラは縫製工場に着いたシャオミンを追いながら、同じ工場で働く他の出稼ぎ労働者を、枝分かれするように並行して写し始める。

 子供を故郷に置き、夫と出稼ぎに来た25歳のリンリン。夫のアルゾは工場で右手を切断してしまい、今はインターネットや麻雀ができる雑貨店を経営しているが、商売は芳しくない。そこへリンリンが「金を入れてほしい」と言い出し、店内で壮絶な夫婦喧嘩が始まる。

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 真っ当な妻の言葉を、夫は頭ごなしに否定。怒りを露わに反論を続けた挙句、暴力をふるう。店の外から監督は撮影を続ける。仲間が仲裁に入るが、アルゾの怒りは収まらない。ほかにも出稼ぎの低賃金に嫌気がさし、マルチ商法に興味を示す者。酒やギャンブルに溺れる者。カメラは出稼ぎ労働者の人間模様を収め続ける。

 説明的な描写は一切ない。観客は映像から判断する。長回しを多用した撮影スタイルで、低賃金で働く人たちの過酷な労働環境や人間関係が見えてくる。低賃金でも黙々と縫製作業を続ける少女たちと対照的に、嫌気がさしてぼやく男たち。歯に衣着せぬ出稼ぎ労働者の正直な姿。長回しでの夫婦喧嘩の映像。外から聞こえる鳴りやまない車のクラクション。観客も劣悪な労働環境を疑似体験させられ、相当なストレスと忍耐を強いられる。

 急速に発展する中国を、底辺で支える出稼ぎ労働者たち。富裕層の夢の生活とは無縁の人々の人生を、映像として明確にとらえたことに感心する。

(文・藤枝正稔)

「苦い銭」(2016年、仏・香港)

監督:ワン・ビン

2018年2月3日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.moviola.jp/nigai-zeni/

作品写真:(C)016 Gladys Glover-House on Fire-Chinese Shadows-WIL Productions

タグ:レビュー
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2017年12月23日

「カンフー・ヨガ」63歳ジャッキー・チェン、サービス精神満点の娯楽アクション

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 約1000年前の古代インドと中国で、争乱の末に伝統の秘宝が消えた。考古学者のジャック(ジャッキー・チェン)は秘宝を探すため、同じ考古学者でヨガの達人のインド人美女アスミタ(ディシャ・パタニ)らと旅に出る。まずは秘宝へ導く“シヴァの目”を探さすが、手がかりは古い地図だけ。しかも謎の一味が秘宝を奪おうと迫る──。

 ジャッキー・チェン主演の中印合作冒険活劇「カンフー・ヨガ」。監督、脚本、製作、アクション指導は「ポリス・ストーリー3」(92)、「レッド・ブロンクス」(95)など、ジャッキーとは何度も組んだ実績のあるベテラン、スタンリー・トンだ。

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 インパクト絶大のタイトルが示す通り、最近のヒット作を徹底的に研究している。出だしは中印が秘宝をめぐって争う様子を、フルバージョンのCG(コンピューター・グラフィックス)アニメで描く。巨大な象が暴れまわる中、アクロバティックに展開する騎馬戦。「ロード・オブ・ザ・リング」(01)のようにファンタジックだ。

 舞台は中国、インド、ドバイに広がる。スティーブン・スピルバーグ監督作「インディ・ジョーンズ」シリーズさながらに、ジャッキーは大学教授で冒険家。さらに自宅では「木人」を相手に体を鍛えている。そんなお茶目な学者が、秘宝探しの冒険に出る。

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 ジャッキー作品らしく、コミカルな描写をちりばめながら、随所にアクションと投入していく。中盤のドバイでは高級スポーツカーをぜいたくに壊し、「ワイルド・スピード」さながらの展開。ライオンを乗せた車をジャッキーが運転するなど、予想を超える楽しさだ。僧院を舞台にしたり、大道芸人を巻き込んだり、ジャッキーが自虐的に言う通り「インディ・ジョーンズ」顔負けの活躍。

 今年63歳になったジャッキー。「レイルロード・タイガー」、「スキップ・トレース」、「カンフー・ヨガ」と今年だけで主演作が3本、日本で公開された。中でも「カンフー・ヨガ」はノンストップで繰り広げられる冒険アクションで、老若男女楽しめるはずだ。若い俳優たちのアクションもふんだんに盛り込まれた。敵役ランドル(ソーヌー・スード)の冷酷で二枚目な悪役ぶりも物語を盛り上げる。

 エンドロールはまるでインドのボリウッド映画。敵味方が一緒に締めくくるダンスシーンだ。スタッフと俳優たちが一体になり、いいものを作り出すサービス精神。全体にやや荒削りで大味だが、エンタメ要素は満載で、屈託のない、楽しい娯楽作品だ。

(文・藤枝正稔)

「カンフー・ヨガ」(中国・インド、2017年)

監督:スタンリー・トン
出演:ジャッキー・チェン、アーリフ・リー、レイ、ソーヌー・スード、ディシャ・パタニ

2017年12月22日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kungfuyoga.jp/

作品写真:(C)2017 SR MEDIA KHORGOS TAIHE SHINEWORK PICTURES SR CULTURE &
ENTERTAINMENT. ALL RIGHTS RESERVED.

タグ:レビュー
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