2015年08月31日

「SOUND OF SILENCE 中国無声映画と音楽の会」最古の現存作品など8本 阮玲玉、凌波ら人気女優も生き生き

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 特集上映「SOUND OF SILENCE 中国無声映画と音楽の会」が2015年9月7、8日の2日間、東京・阿佐ケ谷で開かれる。現存する中国最古の映画を含め、1920〜30年代に製作された8作品を一挙紹介。中国映画の歴史に触れる貴重な機会となりそうだ。

 上映されるのは「漁光曲」、「八百屋の恋」、「西廂記」、「盤絲洞」、「紅い剣士」、「女神」、「桃花泣血記」、「おもちゃ」の8作品。中国最古の現存映画「八百屋の恋」は、下町の八百屋の男と医者の娘による身分違いの恋がテーマ。当時の庶民生活に触れられるラブコメディー調短編だ。

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 また、人気女優・阮玲玉(ロアン・リンユー)主演作も。代表作「女神」は娼婦に身を落としたシングルマザー役。仕事がばれて息子が学校から追放され、新天地での再出発に挑む。「桃花泣血記」もやはり身分違いの恋物語。小作人の娘を襲う不幸、悲恋を描く。

 同じく人気女優の凌波(リン・ポー)主演作「西廂記」は、元代の同名戯曲の映画化。アクション、恋愛、コメディーと盛りだくさんな作品。「盤絲洞」は「西遊記」のエピソードを抜粋。三蔵法師が旅の途中、洞窟でクモの妖怪にとらえられる。

 中国武侠映画の誕生を告げた「紅い剣士」。ならず者に家族を殺された村娘が、復讐を誓い白猿老人に弟子入り。武術を習得して反撃ののろしを上げる。「漁光曲」は貧しい兄妹の奮闘記。主題歌も大ヒットした作品だ。

 上映には活動弁士の片岡一郎のほか、大友良英、上屋安由美(ピアノ)、藤高理恵子(筑前琵琶)らの音楽が華を添える。特集上映「SOUND OF SILENCE 中国無声映画と音楽の会」は9月7日(月)、8日(火)、東京・ザムザ阿佐谷で。作品の詳細、上映スケジュールは公式サイトまで。

http://www.laputa-jp.com/zdata/data/samsa/150907.html

作品写真:中国電影資料館提供

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2014年09月13日

「So Young 過ぎ去りし青春に捧ぐ」 中国の懐かしき時代描き大ヒット ヴィッキー・チャオ初監督作 

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 ジョン・ウー(呉宇森)監督の「レッドクリフ」(08)2部作、チャウ・シンチー(周星馳)主演の「少林サッカー」(01)などに出演した中国の人気女優、ヴィッキー・チャオ(趙薇)。初監督作となったのが「So Young 過ぎ去りし青春に捧ぐ」だ。

 1990年代の中国。18歳の女子学生チョン・ウェイ(ヤン・ズーシャン=楊子[女冊])は、期待に胸をふくらませてキャンパスに足を踏み入れた。好きだった先輩を追い、同じ町の別の大学に進学したのだ。ところが、先輩はすでに米国留学に旅立っていた。はしごを外され落ち込む彼女を、優しい友人や先輩が元気づける。

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 持ち前の明るさで大学生活を謳歌するチョン・ウェイはある日、真面目で無口な男子学生シアオチョン(マーク・チャオ=趙又廷)と出会う。性格は正反対、顔を合わせればけんかの二人だったが、チョン・ウェイの気持ちは次第に恋心に変わる。やがて二人は恋人同士となり、幸せな大学生活は瞬く間に過ぎる。卒業の季節。二人は人生の転換点に差しかかる──。

 ヴィッキー・チャオの北京電影学院監督科修士課程卒業作品。同学院で過去最高の評価を得たという。中国の若者世代、いわゆる「七十後」「八十後」(70、80年代生まれ)の青春をみずみずしく描き、興行収入7億元(約120億円)を突破する大ヒット。ハリウッド大作がひしめく13年の中国興収番付で3位に食い込んだ。

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 舞台となった90年代、中国は改革開放の波にもまれ、社会的価値観や市民生活が急激に変化していた。香港スターの写真、英国バンドのヒット曲。海外から流れ込む文化に、若者たちは心躍らせていた。ロケ撮影は当時の雰囲気が残る場所を探し、中国各地の大学10カ所以上で行われたという。

 人気、実力とも中国を代表する女優の一人、ヴィッキー・チャオの初監督作だけに、俳優やスタッフも豪華だ。製作は「ルージュ」(88)、「藍宇 情熱の嵐」(01)などの香港出身スタンリー・クワン(關錦鵬)監督。シアオチョン役には「モンガに散る」(12)で注目を集めた台湾のマーク・チャオを起用した。

 中国経済が上昇気流に乗り始め、誰もが未来に夢を抱いていた時代。急速に変わる中国社会では、90年代も懐かしむべき古き良き「あのころ」のようだ。シンプルでストレートな青春恋愛映画が、なぜ今中国で大ヒットしたのか。背景を考えつつ観ても面白い。

(文・遠海安)

「So Young 過ぎ去りし青春に捧ぐ」(2013年、中国)

監督:ヴィッキー・チャオ
出演:マーク・チャオ、ハンギョン、ヤン・ズーシャン、ジャン・シューイン、チャン・ヤオ、リウ・ヤーソー、ジョン・カイ、バオ・ベイアル

2014年9月13日(土)、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.alcine-terran.com/soyoung
 
作品写真:(C)2013 HS Media (Beijing) Investment Co., Ltd. China Film Co., Ltd. Enlight Pictures. PULIN production limited. Beijing Ruyi Xinxin Film Investment Co., Ltd. Beijing MaxTimes Cultural Development Co., Ltd. TIK FILMS. Dook Publishing Co., Ltd. Tianjin Yuehua Music Culture Communication Co., Ltd. All rights reserved.

タグ:レビュー
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2014年07月27日

「ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪」 ツイ・ハーク監督 「誰も見たことのないもの作りたい」

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 香港のヒットメーカー、ツイ・ハーク(徐克)監督の怪奇冒険アクション「ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪」が、2014年8月2日公開される。監督は公式インタビューで「誰も見たことのないものを作りたかった」と語った。

 アンディ・ラウ主演「王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件」(10)の前日譚。知力・体力兼ね備えた判事・ディーが、海の神・龍王(シードラゴン)の謎に挑む物語。中国映画史上最高の製作費2億元(約32億円)を費やし、興行収入6億元(約96億円)を稼ぎ出した大作だ。

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 前作でアンディ・ラウが演じたディーの若き日を、台湾映画「モンガに散る」(10)のマーク・チャオ、ドラマの鍵の握る悲劇の男・ユエンを若手韓流スターのキム・ボムが演じている。中国で人気上昇中のウィリアム・フォン(ドラマ『蘭陵王』)、ケニー・リン(ドラマ『宮廷女官 ジャクギ』)ら、アジアの若手俳優が競演する作品となった。

 ──個性的な武器が魅力的です。どこからアイデアを得るのですか。

 物語や人物の必要性によってデザインしました。登場人物が自身の重要性を強調するために必要なのです。たとえば悪人は棒を使いますが、役柄に合わせて力強さをイメージしました。武器をデザインした理由は二つ。一つ目は登場人物の行動で観客に性格を印象付けること。二つ目はアクションシーンで、武器によって人柄を表すこと。通常の私の映画にはないかもしれません。

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 ──今回は過去最高のセット数で、新たな街を建設するように大規模な撮影だったそうですね。監督の世界観を作るため、特にこだわった点は。

 実は新しい街を作ったのではなく、古いセットを使いました。ほとんど一つの地方か小さな街のように大きいもので、装飾して作品の背景に合わせ、壮大なイメージを作りました。

 ──監督にとってディーの魅力は。

 最も大きいのは背景です。ディーがいた7世紀の唐王朝は、後の時代と大きく異なります。唐は東西文化が入り交じり国際色豊か。さまざまな人が首都に住んでいました。女性と学者は現代よりも自由だったぐらいです。それがこの時代に関心を持った点です。

 ディーはほぼこの時代(唐王朝)にいたので、私は中国の7世紀を探索する必要がありました。私にとって最も魅力的な点でした。シリーズ化で重要なポイントは時代背景と文化。誰も思いつかない、観客を驚かせる、誰も見たことのないもの。それらが現実となり、製作につながることを望んでいます。

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 ──中国、台湾、韓国とアジア圏の俳優が集結しました。次回作に日本の俳優が出演する可能性は。気になる日本の俳優はいますか。

 起用する可能性は十分にあります。実は以前、日本人俳優をキャスティングしたことがあるのですが、うまくいきませんでした。日本映画をたくさん観て、日本人俳優の演技も観ているので、彼らを起用することに興味があります。

 気になる日本人俳優は大勢います。が、一緒に仕事をするチャンスがあるか分からないので、今言うのは難しいです。好きな俳優はたくさんいます。経験のある俳優にも、若くて新しい俳優にも興味を持っています。

「ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪」(2013年、中国・香港)

監督:ツイ・ハーク(徐克)
出演:マーク・チャオ(趙又廷)、キム・ボム、ウィリアム・フォン(馮紹峰)、ケニー・リン(林更新)、アンジェラベイビー(楊穎)、カリーナ・ラウ(劉嘉玲)

2014年8月2日(土)、シネマート六本木ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.u-picc.com/SEADRAGON/

作品写真:(C)2013 HUAYI BROTHERS MEDIA CORPORATION ALL RIGHTS RESFRVED.

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2014年07月16日

「収容病棟」 原一男監督トーク 中国精神病院に密着「私たちが生きる世界の写し絵」

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 中国の精神病院に密着したドキュメンタリー映画「収容病棟」(ワン・ビン=王兵監督)の公開に合わせ、ドキュメンタリー作家の原一男監督がこのほど、東京・渋谷で開かれたトークイベントに参加した。原監督は「ワン・ビンが描いたのは、私たちが生きる世界の写し絵だ」と語った。

 天皇の戦争責任を追及する過激なアナーキスト・奥崎謙三を追ったドキュメンタリー「ゆきゆきて、神軍」(87)で世界に衝撃を与えた原監督。「収容病棟」について「中国という国家が収容病棟のようともいえる。権力に抑圧された空間はどの国にもある。だから『収容病棟』は、私たちが現実に生きている世界の写し絵ではないか」と語った。

 また、ワン監督との共通点について「ぼくも彼も写真から入り、映画に転身した。写真の経験があると、被写体にどうカメラを向けるか具体的に考える。ワン・ビンの画(え)を見て、ぼくと似ているなと思った」と話した。

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 今年2月には来日したワン監督と対談した原監督。本人の印象を「風貌もあか抜けなくて、まるで田舎のあんちゃんのよう。私も都会的ではないので親近感が湧いた(笑)」と振り返った。

 さらに過去に対談した米のマイケル・ムーア監督(『ボウリング・フォー・コロンバイン』)、ジョシュア・オッペンハイマー監督(『アクト・オブ・キリング』)との比較も。米国の闇に迫る作品を数々発表してきたムーア監督は「ただの典型的なアメリカ人。アホちゃうかと思った」とばっさり。

 インドネシア大虐殺を描き、今年日本でも大きな話題を呼んだオッペンハイマー監督も「やはり典型的なアメリカ人。だからあのような発想が出る。大した映画じゃない」と一刀両断。「観客が圧倒されるおぞましさは、虐殺の数の多さ、虐殺した側が英雄視されている現実。作品のすごさではない」と持論を展開し、会場を笑いの渦に包んだ。

 最後に「ワン・ビンとはまた話したいなあ。実に気持ちのよい男でした」と締めくくり、再会への期待を示した。「収容病棟」は全国順次公開中。

(文・遠海安)
タグ:イベント
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2014年06月27日

「収容病棟」ワン・ビン監督に聞く 中国精神病院に密着 「心を病んだ人々の人間的な愛描きたかった」

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 精神病患者が1億人を超えるとされる中国。その精神病院にカメラが入った。記録されたのは社会から見放されてもなお愛を求めてやまない、実に人間的な人々の姿だ。「無言歌」(10)、「三姉妹 雲南の子」(12)のワン・ビン(王兵)監督が、社会のタブーに踏み込み、人間の本性をつかみ出したドキュメンタリー映画「収容病棟」。監督は「精神を病んだ人たち同士の人間的な愛を表現したかった」と語った。

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“生きているか死んでいるか”なんてどうでもいい

 精神病院をテーマにドキュメンタリーを撮ろうと思い立ったのは2003年。北京郊外の精神病院を訪れた時だった。精神病患者に会ったのは初めて。20年も30年も入院している患者がいることを知り、衝撃を受けた。

 「さっそく撮影を申し入れたが断られた。09年まで何度も訪れたが、結局撮影許可は下りなかった」

 最後に訪れた時、何人かの患者が姿を消していることに気付く。看護師に尋ねると「亡くなった」という。

 「看護師たちは、私がそんな質問をしたことに驚いていた。それまでそんなことを聞いてくる人はいなかったからだ。入院している患者たちは家族に見捨てられた人たちが多かった。だから“生きているか死んでいるか”なんてどうでもいいことだった」

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歩いてくる患者を巧みによけながら撮影

 北京の病院は断念。しかし3年後の12年、吉報が舞い込む。ある友人が雲南省の精神病院で撮影許可を取ってくれたのだ。撮影には一切制限もなく、自由にカメラを回していいという。さっそく準備を整え、数カ月後には撮影開始。問題は精神病院という閉鎖的な空間で、独自の撮影スタイルが保てるかだった。
 
 「ほどよい距離を保ちながら撮るのが私のスタイル。あまり近付き過ぎるのは好きではない。しかし、病院は空間が非常に限られていた。廊下は回廊状で、幅は1メートルくらいしかない。画面では広く見えるかもしれないが、とても狭い。カメラを回すと誰かにぶつかる。最初の10日くらいは、自分の好きではない近距離で撮らざるを得ないこともあった。しかし、15日目くらいからは、歩いてくる人を巧みによけて撮る方法を習得し、いつものスタイルで撮れるようになった」

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 撮影は順調に進んだ。患者からの妨害や抵抗もほとんどなかった。

 「一度だけカメラマンが顔を殴られた。患者が発作を起こしたのだ。彼は2、3日たってから謝りにきてくれた。以来、彼とはいい関係を保つことができた。撮影中のアクシデントはその1回だけ」

精神病患者とはいえない人も収容

 カメラを回している以外の時間は、廊下に座って患者たちと話をすることも多かった。

 「よくタバコをねだられた。私のことを“タバコをくれる人”とみていたようだ(笑)。お茶や日用品を求められたこともある。彼らは、病院内で起きたことを話してくれた」

 タイトルの「収容病棟」は、なんとなく暗く非人間的なものを感じさせるが、患者たちには明るく人なつこい人も少なくない。

 「この映画を撮影するまでは、精神病院や患者の実態についてほとんど知らなかった。撮影に入って毎日患者たちと一緒に過ごすと、一人ひとりの性格や病状が、少しずつ把握できるようになった。彼らが入ってきた理由、家庭環境もだんだん分かってきた」

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 多種多様な人々が収容されていた。中には精神病患者とはいえない人もいた。

 「ある若い男性は“少し頑なで、他人とちょっと違う”という理由だけで収容されていた。そういう人たちを見ていると、自分たちもいつ同じようにこういう病院に閉じ込められるか分からないと思う」

社会から見放されても愛を求めてやまない人々

 終盤に印象的なラブシーンがある。鉄格子越しに男性と女性の患者が抱き合いキスをする。逆光の中に浮かび上がるシルエットが美しい。

 「女性は一人っ子政策に違反して病になった。二人が恋愛関係にあることは、いろいろな人から話を聞いて知っていた。二人のシーンはかなり撮ったが、最もシンプルなシーンだけを編集段階で残した。あれは春節の大みそかから元日にかけて。逆光なのはあの場所にトイレがあり、人がくると電気がつくようになっているせい。あそこに行けば逆光で撮れることは分かっていた。二人はもっと直接的な触れ合いもしていたが、撮影するのは遠慮した」

 作品の原題は「瘋愛」。瘋の意味は「狂った」だ。「精神を病んだ人たち同士の人間的な愛をタイトルで表現したかった」そうだが、“鉄格子越しの愛”は、象徴的なシーンだろう。

 社会から見放されてもなお、愛を求めてやまない人々。「収容病棟」は、そんな人々の日常をありのままに切り取った渾身のドキュメンタリーだ。前・後編合わせて4時間の長尺。しかし、濃密な映像からは一瞬たりとも目を離すことができない。ワン・ビン監督の面目躍如である。

(文・写真 沢宮亘理)

「収容病棟」(2013年、香港・仏・日本)

監督:王兵(ワン・ビン)

2014年6月28日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://moviola.jp/shuuyou/

作品写真:(c)Wang Bing and Y. Production

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