
韓国国家情報院の元工作員・インナム(ファン・ジョンミン)は、東京での任務を最後に引退を決意する。ところが、元恋人がバンコクで暗殺され、その娘が行方不明と知る。インナムはバンコクに飛び、関係者を次々拷問にかけて娘の居所を突き止める。しかし、インナムに兄を殺された殺し屋のレイ(イ・ジョンジェ)も、復讐のためバンコクに降り立ち、死体の山を築きながらインナムを追っていた──。
「アシュラ」(16)、「哭声 コクソン」(16)のファン・ジョンミンと、「新しき世界」(13)でジョンミンと義兄弟を演じたイ・ジョンジェが7年ぶりに共演。殺し屋同士が死闘を繰り広げる犯罪アクションだ。監督・脚本は「チェイサー」(08)、「悲しき獣」(10)、「殺人の告白」(12)の脚本を手掛け、「オフィス 織の中の群狼」(15)で監督デビューしたホン・ウォンチャン。監督2作目となる。

東京から怒涛の負の連鎖が展開する。暴力団幹部・コレエダ(豊原功補)暗殺を最後の仕事と考えていたインナムだったが、コレエダを殺したことで弟のレイに狙われる。一方、バンコクではインナムの元恋人が殺され、二人の間にできた娘・ユミンが行方不明に。東京、韓国、バンコクと舞台を移しながら、インナムとレイの壮絶な戦いが描かれる。
二人の死闘は「ターミネーター2」(91)に登場する正義と悪のターミネーターの戦いを思い出させる。目的達成に手段を選ばない正義のインナム。復讐のためタイ警察も巻き込み市街戦を起こす悪のレイ。二人は初めて出会った狭い廊下で、人間離れした戦いを見せる。「ターミネーター2」を見るような既視感がある。

それにしても今も韓国犯罪アクションは凄い。完全にリミッターが外れた状態だ。格闘や暴力、銃にカーアクション。すべて超一流で予測の一歩先を行く演出にしびれる。
主演の二人の演技も素晴らしい。ファン・ジョンミンは「国際市場で逢いましょう」(14)の優しい父親役、「アシュラ」の極悪市長、今回のアクションを多用した暗殺者まで柔軟に演じてしまう。対するイ・ジョンジェも凄い。スマートな二枚目の印象をかなぐり捨て、血しぶきを浴び、狂った殺し屋に成り切った。二人の役作りに圧倒される。バンコクでインナムを手助けするトランスジェンダーのユイを演じたパク・ジョンミンも、物語の重要なアクセントとなった。日本から豊原功補と白竜が少ない出演ながら、存在感ある演技で魅了する。
インナムの娘は子供を狙った人身売買組織に捕えられ、最終的に臓器売買の標的になる。アジア社会の闇が取り入れられてた点もポイントだ。東京とバンコクの大々的なロケ撮影も見どころ。切れ味鋭い秀作だ。
(文・藤枝正稔)
「ただ悪より救いたまえ」(2020年、韓国)
監督:ホン・ウォンチャン
出演:ファン・ジョンミン、イ・ジョンジェ、パク・ジョンミン、オ・デファン、チェ・ヒソ、白竜、豊原功補
2021年12月24日(金)、シネマート新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで、
https://tadaaku.com/
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