2019年07月25日

日本映画も存在感、富川国際ファンタスティック映画祭

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 韓国・京畿道富川市で6月22日から7月7日まで「第23回富川(プチョン)国際ファンタスティック映画祭2019」(BIFAN)が開かれた。期間中に日本の輸出規制強化が報じられたが、日本映画と日本からのゲストは例年と同様、熱い歓迎を受けた。49カ国・地域、284本の上映作の最後を飾ったクロージング作品は、日本映画学校で学んだ韓国人監督の密室サスペンス。例年に増して日本とのつながりを実感した映画祭だった。

 日本映画が3部門で受賞

 BIFANはスリラーやホラー、ファンタジー、アニメーションなどのジャンル映画に特化した映画祭。韓国ではまだ愛好者が多くはないマニアックな映画を集め、例年熱心なファンを呼び込んでいる。こうしたジャンルが得意な日本映画はBIFANの常連で、今年も約30本が招待された。

 日本映画は3部門で受賞。斎藤工が企画・主演した「MANRIKI」(清水康彦監督)が欧州ファンタスティック映画祭連盟アジア映画賞を受賞したほか、同賞のスペシャル・メンションに「いぬむこいり」(片嶋一貴監督)が選出。さらに、子どもたちが選ぶ子ども審査団賞を「パパはわるものチャンピオン」(藤村享平監督)が受賞した。

 長編コンペティション部門の審査委員長を務めた金子俊輔監督の「平成ガメラシリーズ3部作」の上映とトークにも大勢の怪獣映画ファンが集まった。

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 “知日派”監督の密室サスペンス

 クロージング作品は、高命成(コ・ミョンソン)監督の「南山(ナムサン)詩人殺人事件」。高監督は釜山出身で、大学卒業後に日本映画学校(現・日本映画大学)で演出を学んだ。日本で10年ほど生活し、日韓合作映画のコーディネーターや通訳を担当。2012年に在日朝鮮人の帰還事業を扱ったドキュメンタリー「さよなら、アンニョン、再見」を撮った。

 「南山詩人殺人事件」の舞台は朝鮮戦争後の1953年、ソウル明洞にある日本家屋のカフェ。詩人や画家など芸術家のたまり場だ。このカフェに捜査官が現れ、ある事件の「容疑者」たちと息詰まる心理戦を繰り広げる。事件の真相が明らかになるにつれ「イデオロギー対立」や「過去の清算」といった、現在に続く韓国の痛みが浮き彫りにされていく。密室サスペンスに韓国の現在と過去への視線が絡み合う異色の作品だ。

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 捜査官役のキム・サンギョンの鬼気迫る演技はもちろん、新進俳優たちの演技も見どころだ。韓国では今秋、一般公開される予定。

 ジャンル映画の歴史

 今年は朝鮮半島で映画が作られ始めて100周年。1919年、ソウル・鍾路の劇場「団成社」で初のフィルムを使った連鎖劇(舞台劇と映画を組み合わせた演劇)「義理的仇討」が上映されたのが最初とされる。

 各映画祭が100周年を記念したプログラムを組む中、BIFANは過去のジャンル映画を特集した。怪獣映画「宇宙怪人ワンマグィ」(1967)や韓国初のゾンビ映画「怪屍」(1980)、女子高校生のリアルライフを描いたコメディー「ヨンシム」(1990)などを見ると、韓国で多様な映画が製作されてきたことが実感される。まさにBIFANならではのプログラムだった。

(文・芳賀恵)

写真1:富川市役所もファンタスティック=富川市で芳賀撮影
写真2:「南山詩人殺人事件」の舞台挨拶=富川市役所で7月5日、映画祭事務局提供
写真3:観客との質疑応答に参加する「南山詩人殺人事件」の高命成監督(右)=富川市役所で7月5日、芳賀撮影
写真4・5:「南山詩人殺人事件」場面写真=映画祭事務局提供

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2019年05月20日

パク・ヘイルがデビュー秘話、全州国際映画祭で「青春がテーマの詩を読み、演技を続けると決めた」

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 韓国・全羅北道全州市で5月2日から10日間「第20回全州国際映画祭2019」が開かれ、国内外の長短編275本が上映された。今年は韓国映画が作られ始めて100周年。これを記念して映画祭は「100年間の韓国映画」のセクションを設け、過去の映画を上映して監督や出演者をゲストに招いた。映画デビュー作「ワイキキ・ブラザーズ」(01)が上映されたパク・ヘイルはイム・スルレ監督とともに登壇し、撮影時のエピソードを明かした。

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デビュー作「ワイキキ・ブラザーズ」18年ぶり凱旋
 「100年間の韓国映画」セクションは1990年代以前の「20世紀」部門と2000年代以降の「21世紀」部門からなる。「21世紀」部門では2000年から2010年までに製作された14本が紹介された。その1本が、ナイトクラブでの演奏で生計を立てる中年バンドマンの悲哀を描いた「ワイキキ・ブラザーズ」(01)。第2回全州映画祭のオープニング作品で、今回は18年ぶりの「凱旋」となった。

 パク・ヘイルはこの作品でイ・オル演じる主人公ソンウの高校時代を演じた。イム監督によると、高校生のソンウ役のキャスティングに悩んでいた時、事務所のスタッフがソウルの演劇街・大学路の舞台に立つパクを“発掘”した。当時パクは23〜24歳。監督は「演劇ならともかく、カメラの前では年齢はごまかせないだろうと思った。しかし演技はうまいし、実際に会ってみると肌がとてもきれいだった(笑)」と起用の経緯を回想した。

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 パクは監督の話に照れ笑いしながら、「音楽が大好きだった高校時代を思い出し、バンドメンバー役の他の俳優と一緒に2カ月間スタジオにこもって練習した。この映画は今も常に(俳優としての自分の)土台になっている」と懐かしそうに振り返った。


「演劇を始めたけれど、お金にならない。やめようと思うこともあった」
 また、観客から若い頃の夢について尋ねられると「音楽が好きだったが才能がなかった。演劇を始めたけれど、まったくお金にならない。やめようと思うこともあった。ある時、青春をテーマにした詩を読んで、演技を続けることを決めた。それが今につながっている」と、悩み多き日々があったことを告白した。

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 イム監督が「理想と現実のギャップについて語ろうとした映画」と話すように、作品のテーマは社会のレールから外れたアウトサイダーの人生。何もかも思い通りにいかない人の焦りと諦念を淡々と描きながらも、生活に追われて夢と輝きを失ってしまう人に向ける視線は温かい。俳優の熱演も見どころで、無名時代のファン・ジョンミンやリュ・スンボムも現在の活躍を予告する演技を見せている。

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 「ワイキキ・ブラザーズ」は興行的に成功したとは言えないが、観客や評論家からは高い評価を受けた。1990年代までの多くの韓国映画が強いメッセージ性を備えていたのとは対照的な、作家主義的な感性が人々の心をつかんだのだ。韓国映画の歴史において2000年代前半という時代は「多様なジャンル映画が花開いた時代」といえる。この時期は教育機関で映画を学んだ人や芸術家、作家といったさまざまな人材が映画界に参入した。同時期に製作システムが確立してきたこともあり、韓国の映画産業は急激な広がりをみせた。

 今回、映画祭でこの時代の映画を再見し、発想力の豊かさに改めて驚かされた。特定のジャンルに偏りがちな商業映画へのアンチテーゼとしての映画祭の力を再認識した。

(写真・文 芳賀恵)

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1〜3:上映後の質疑応答に参加する(右から)イム・スルレ監督、パク・ヘイル=5月3日
4:映画祭メーン会場
5:「ワイキキ・ブラザーズ」場面写真=映画祭事務局提供

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2019年03月24日

第14回大阪アジアン映画祭 韓国映画「アワ・ボディ」主演のチェ・ヒソ、ハン・ガラム監督に聞く 30代女性の心と身体描く「女性たちよ、もっと自由に」

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 「第14回大阪アジアン映画祭2019」のコンペティション部門でスペシャル・メンションを授与された韓国映画「アワ・ボディ」は、平凡な30代女性がスポーツに出会ったことで気持ちも変わっていくさまを描く。さまざまなキャラクターの女性が登場する「女性たちの映画」について、ハン・ガラム監督と主演のチェ・ヒソに聞いた。

 主人公は30代のジャヨン。公務員試験に落ち続け、恋愛もうまくいかず、閉塞感と将来への不安をかかえて生きている。そんな中、自宅近くを颯爽と走る女性、ヒョンジュに目を奪われる。同じチームに入りランニングを始めるが、ある日、前を走っていたヒョンジュが交通事故で亡くなる。ジャヨンは憧れの女性の死を乗り越え、さらに走ることで自分の生き方を見つけていく。

 ハン監督は1985年生まれ。「アワ・ボディ」は韓国映画アカデミーの卒業作品で、昨年の釜山国際映画祭で上映された。チェはイ・ジュニク監督の「空と風と星の詩人 尹東柱の生涯」「金子文子と朴烈(パクヨル)」の鮮烈な印象が記憶に新しい。大阪アジアン映画祭は昨年に続き二度目の参加だ。二人はどのように作品と向き合ったのだろうか。

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 ――30代女性の物語を作った理由は。

 ハン:身体の変化を通して、生き方の変化を表現したかった。身体は自分が努力しただけ成果を得られる。物語は自分が20代後半から30代前半にかけて体験し、感じたことをモチーフにしている。自分は映画を仕事にすることを家族に反対され、放送局を志望して試験に落ちたりした。親たちは「試験に受かってほしい、いいところに就職してほしい」と願うものだが、同じ世代の女性たちに、もっと好きなように生きてもいい、楽に生きてほしいというメッセージを込めた。

 ――最近の韓国のインディペンデント映画は、就職も恋愛もうまくいかない若者の鬱屈をテーマにしたものが非常に多い。

 ハン:(学歴社会、就職難など)現実が厳しいので映画もそうなるのだろう。「アワ・ボディ」も、自分は社会的な問題意識があって作ったつもりはなかったが、社会的背景との関係をよく聞かれる。

 ――シナリオを読んだ印象は。

 チェ:一気に読んで、ぜひ演じたいと思った。自分も将来についていろいろと考えてきたので、受動的に生きてきたジャヨンがランニングを始めて変化するプロセスが自然に理解できた。平凡に見える女性だが、ランニングを始めること自体勇気が必要。普通は始めようと思ってもできない。何かを始めて集中する「力強さがある」性格が気に入った。簡単にアプローチできる役ではないが、だからこそ挑戦したかった。

 ――30代は女性にとってどういう年代だと思うか。

 ハン:結婚したりキャリアを積んだりする年代だが、新しいことができると思う。

 チェ:日本も同様だが、女性も男性も就職している、結婚している、貯金があるというように、落ち着いているべきだという考えがある。つまり、会社員、母親といったラベルが貼られる。この映画では、それらを突破するものとしてランニングが登場する。

 ――走るシーンが多いが、撮影中のエピソードは。

 ハン:俳優もスタッフも苦労したと思う。一緒に走った助監督は7キロもやせた(笑)。自分は撮影中は座っているので気にしていなかったが、後から申し訳ない気持ちになった。

 チェ:長距離を走るのは好きではなく、この映画で初めて走った。途中までは苦しいが、それが過ぎれば楽になるという長距離走の“味”が分かった気がする。夜に走るシーンを取るため、撮影が日暮れから夜明けまでに及んだのが大変だった。

 ――主なキャラクターがすべて女性だが、最初から意図したのか。

 ハン:意図したのではないが、主人公の周囲の重要なキャラクターを考えていくとき母親や姉妹、女友達はとても重要な関係なので、自然にそうなった。

 ――次はどんな映画に取り組みたいか。

 ハン:以前から考えていたストーリーを発展させて新しいシナリオを執筆中。モチーフは「アワ・ボディ」とはまったく違う。毎回違うものを作っていきたいと思っている。

 チェ: チャレンジできる役にひかれる。「金子文子と朴烈」もそうだが、主体的な女性に魅力を感じるので、これからも違うタイプの女性のキャラクターに挑戦してみたい。

(文・芳賀恵)

写真1:ハン・ガラム監督(左)と主演のチェ・ヒソ(右)=芳賀撮影
写真2:作品写真=映画祭事務局提供

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2019年03月17日

「探偵なふたり リターンズ」推理オタクとベテラン刑事、難事件に挑戦 人気シリーズ第2弾

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 英の名探偵シャーロックホームズに憧れ、優れた推理力を持ちながら、しがない漫画喫茶の店主で恐妻家のカン・デマン(クォン・サンウ)が、ベテラン刑事ノ・テス(ソン・ドンイル)と難事件を解決していく。

 2016年に公開された「探偵な二人」のシリーズ第2弾。テスはかつて「広域捜査隊のレジェンド」と呼ばれたベテランだが、左遷されてヒラ刑事に降格。性格は水と油の推理オタク、デマンとコンビを組み、探偵事務所を開く。

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 しかし、事務所は順風満帆とはいかず、開店休業状態。恐妻家のため、仕事を辞めて探偵になったと妻に打ち明けられず、焦りは募るばかり。そこへ最初の依頼主がやってくる。巨額の報酬を目当てに引き受けたものの、関係者が次々と不可解な死を遂げる難事件に。新たに元サイバー捜査隊のヨチ(イ・グァンス)が加わり、3人は持ち前の能力を発揮して事件の核心へ迫る。

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 前作に引き続き恐妻家ふたりのダメ夫ぶりに加え、バラエティーでも活躍するイ・グァンスも加わり、面白さもパワーアップした。個性豊かな3人の軽妙なやりとり、思わぬ展開が絶妙に絡み合う。凄惨な事件を扱いながら、個性あふれるキャラクターとユーモアで見応えのある娯楽作品となった。

(文・岩渕弘美)

「探偵なふたり リターンズ」(2018年、韓国)

監督:イ・オンヒ
出演:クォン・サンウ、ソン・ドンイル、イ・グァンス

2019年3月16日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://tantei-movie2.com/

作品写真:(C)2018 CJ E&M CORPORATION, CREE PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED

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2019年01月31日

「バーニング 劇場版」村上春樹の原作、韓国イ・チャンドン監督が映画化 探究心くすぐる濃密推理劇

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 運送会社アルバイトのジョンス(ユ・アイン)はある日、幼なじみのへミ(チョン・ジョンソ)と再会した。二人は一度だけ肉体関係を持ち、へミはアフリカへ旅行に行き、ジョンスは猫の世話を頼まれる。帰国したヘミは青年ベン(スティーブン・ユァン)を連れていた。裕福で日々遊んでいるとうそぶくベンは、ジョンスに秘密の趣味を打ち明ける──。

 村上春樹の短編小説「納屋を焼く」を脚色し、映画化した「バーニング 劇場版」。韓国の巨匠、イ・チャンドン監督が「ポエトリー アグネスの詩」(10)以来、8年ぶりにメガホンを取った。昨年末、NHKで95分版の「ドラマ バーニング」が放送され、今回の「劇場版」は148分に拡大されている。地方から小説家を夢見て都会に出たジョンス、幼なじみのヘミ、謎多きベンの奇妙な関係を、ジョンスの視点で描いた。

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 非常にミステリアスで難解な話だ。いくつかのセリフや小道具が伏線のように散りばめられている。ジョンスとヘミが再会した時に景品としてもらった「女物のチープなピンク腕時計」。ヘミがジョンスに見せる「見えないミカンを食べるパントマイム」。ヘミが飼っている「姿を見せない猫」。ほかにも多くのキーワードが配置されている。

 後半に最も重要なキーワード「ビニールハウス」が登場する。原作の「納屋」が「ビニールハウス」へ変えられ、話は核心に近づく。ジョンスの実家を訪れたベンとヘミは、ワインと大麻を楽しみ、開放的な夕暮れのベンチでまったり過ごす。ベンはジョンスに秘めた趣味を語り出す。それは「他人の古いビニールハウスを、2カ月に1度焼く」ことだった。ベンは「下見に来た」と言い、それを境にヘミが姿を消す。

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 ジョンスの心理と行動をもてあそぶように、ベンは謎かけをする。ヘミのアパートの部屋は主を失い、ジョンスの想像と創作の場所となる。ジョンスの妄想は膨らみ続け、衝撃のラストが導かれる。テレビ版ではヒントを投げただけで終わったが、劇場版は行く末をきっちりと描いた。

 思わせぶりな描写とセリフが積み重ねられ、観客の探究心と好奇心がくすられる。映画ファンをうならせる濃密なミステリーだ。

(文・藤枝正稔)

「バーニング 劇場版」(2018年、韓国)

監督:イ・チャンドン
出演:ユ・アイン、スティーブン・ユァン、チョン・ジョンソ

2019年2月1日(金)、TOHO シネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://burning-movie.jp/

作品写真:(C)2018 PinehouseFilm Co., Ltd. All Rights Reserved

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