2018年10月09日

釜山国際映画祭 2018 ヒョンビン、チャン・ドンゴンら登場に歓声

チャン・ドンゴン ヒョンビン.JPG

 韓国・釜山市で「第23回釜山国際映画祭 2018」が開かれている。4日に同市内の「映画の殿堂」で行われたオープニングセレモニーには多くの映画ファンが詰めかけ、レッドカーペットを歩くスターに歓声を上げた。

 開幕作「ビューティフルデイズ」の主演のイ・ナヨン、司会のキム・ナムギルとハン・ジミン、公開を控えた新作「猖獗(しょうけつ)」のヒョンビンとチャン・ドンゴンらがレッドカーペットを歩いて会場を盛り上げた。日本勢は東出昌大、井浦新、安田顕らが相次ぎ登場。にこやかに手を振って声援に応えた。

イ・ナヨン.JPG 司会のキム・ナムギル ハン・ジミン.JPG 

坂本龍一、平和のメッセージに喝采
 セレモニーは数々の映画音楽を手掛ける坂本龍一のピアノ演奏で幕を開けた。会場を埋めた観客は「戦場のメリークリスマス」に大喝采。坂本は「天命の城」(17)で初めて韓国映画の音楽を担当し、今回の映画祭で「今年のアジア映画人賞」を受賞した。表彰式に続くスピーチでは「いま朝鮮半島に平和が訪れようとしていますが、同じアジア人としてうれしく思います。世界から暴力による支配がなくなることを祈っています」と平和のメッセージを送って会場を感動させた。

坂本龍一.JPG 井浦新.JPG

 13日まで、79か国・地域の323本を上映する。日本映画は合作を含め20本が上映予定だ。

4年ぶり「正常化」への第一歩
 釜山映画祭は、表現の自由をめぐる映画祭と政権の対立で映画人のボイコットが3度にわたり続いていたが、今年はようやく華やかさが戻ってきた。

 2014年、ドキュメンタリー「ダイビング・ベル セウォル号の真実」の上映を阻止しようとした釜山市側と上映を強行した映画祭側の対立から混乱は始まった。行政からの圧力に国内外から批判の声が噴出し、韓国の映画団体の半分ほどが映画祭をボイコット。昨年5月、映画祭を育てたエグゼクティブ・プログラマーのキム・ジソク氏がカンヌ国際映画祭を訪問中に急死するなど、映画祭は求心力を失ったとも評された。

 しかし、革新の文在寅政権が誕生し、釜山市長も革新派に交代。映画祭正常化への期待が高まった。「ダイビング・ベル」問題の後に解任されたイ・ヨングァン執行委員長は、理事長となって映画祭に復帰。これを機に、何ものにもしばられない自由な表現の場としての釜山映画祭が復活するのか、国内外の映画人の注目が集まっている。

(文・芳賀恵、写真・岩渕弘美)

東出昌大.JPG 藤竜也.JPG 柳楽優弥 (2).JPG 
國村準.JPG スエ.JPG ナム・ジュヒョク.JPG
パク・ヘイル.JPG ハン・イェリ.JPG ユ・ヨンソク.JPG 
愛しのアイリーン(安田顕).JPG 左からソ・ヒョヌ、チャン・ドンユン、イ・ユジュン.JPG 
青木崇高 (2).JPG 田中俊介、 チェ・スヨン(少女時代).JPG 唐田えりか.jpg 



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2018年09月08日

「1987、ある闘いの真実」チャン・ジュナン監督に聞く 民主化前夜のうねり「美しく純粋だった時代を振り返ってほしい」

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 韓国民主化闘争を描いた映画「1987、ある闘いの真実」が公開中だ。全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領(当時)率いる軍事政権下の韓国で、当局による大学生の拷問死に端を発した民主化運動のうねりを、キム・ユンソク、ハ・ジョンウら実力派俳優で描く意欲作だ。チャン・ジュナン監督は「作品があの時代を考える鏡になってほしい。美しく純粋だった時代を、振り返ってほしい」と語る。

 1987年1月。ソウル・南営洞警察のパク所長(キム・ユンソク)は、反体制派の取り調べを激化させていた。ある日、尋問の途中でソウル大学生が死亡し、慌てた警察は隠ぺいのため火葬を申請する。しかし、不審に思ったチェ検事(ハ・ジョンウ)が解剖を命令、拷問致死と判明。隠ぺいの動きを知った新聞記者らも真相究明に動き出す。大学生の死を機に民主化の動きが高まり、韓国全土を巻き込む社会運動に発展する。

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 監督との主なやり取りは次の通り。

 ──韓国では現在も、政治問題や負の歴史を映画で描くのは難しいのでしょうか。

 そうですね。朴槿恵(パク・クネ)前大統領政権下では、脚色を秘密裏に行う必要がありました。この映画の話が広まると、不利益を被る人が出るからです。生存者の話を聞く必要もありましたが、妨害を受けるかもしれないので、紙の資料をたくさん集めました。完成しても「公開できるだろうか」と思っていました。

 製作の過程で奇跡のような出来事がたくさんありました。朴前大統領の友人をめぐる疑惑が起き、政権が交代するまで、政治的にダイナミックな動きが続きました。出演した俳優たちも勇気を出し、一緒に作業する意志を表明してくれました。

 作品を完成させ、観客のもとに届けられたのは奇跡だと思います。私は迷信を信じませんが、上から何かが見守ってくれているのではないか、と思うことがありました。公開後、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は事件の遺族と一緒に作品を観たのですから。

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 ──日本では報道の自由が侵され始めていると言われます。この作品が日本へのメッセージと感じました。

 そうなんですか? 人がそれぞれ置かれた立場で、良心を守ることがいかに重要か、いかに大きな力を発揮するかが分かってもらえたと思います。そのことが歴史をどう作り、変えていくかを、この映画は伝えていると思います。

 ──監督は1970年生まれ。事件当時は高校生で、デモに参加するより、催涙弾が撃たれる中で授業に出ていたと聞きました。肌で民主化運動を知っている世代と立ち位置が違うことが、登場人物を描く時に関係しましたか。

 韓国国民は1987年、大統領を直接選挙で選ぶ権利を勝ち取りました。しかし、(民主派の候補は選挙に出られず)軍事政権をそのまま受け継いだ盧泰愚(ノ・テウ)氏が大統領になった。当時の人たちは、勝利を勝ち取った手ごたえと、敗北感を同時に感じていました。そんな時代に私は大学生活を送ったのです。私の大学にも、催涙弾を浴びて亡くなった学生はいました。不利益の真ん中に自分がいたわけではありませんが、十分にそれを感じていました。

 作品に芸術的な雰囲気が出過ぎなかったことで、うまく時代の空気をつかめたのではないでしょうか。あの時代、過酷な状況を生き抜いた人たちに「私は本当に厳しい中を生きてきたので、今も時代に閉じ込められている。映画はそこから解放してくれた」と感謝されました。ありがたいことです。

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 ──朴前政権でも反対派への圧力がありました。なぜ弾圧は起きるのでしょう。なぜ歴史は繰り返されるのだと思いますか。

 歴史は一歩一歩前へ進む時、多くの足跡を残し、後の人たちに影響を与えます。韓国は分断され、人々は戦争を経験しました。朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の独裁があり、金大中(キム・デジュン)元大統領の拉致事件があり、学生による民主化運動がありました。大きなエネルギーが足跡を残しながら、時代は今に至ります。

 1987年に大統領の直接選挙制が導入され、憲法裁判所が作られました。朴前大統領もここで審判を受け、法的に権利を剥奪されました。脚本を書いている時、市民による「ろうそく革命」が起きました。人々は民主化へ向けてまた半歩進んだのです。遅いかもしれないが踏み出せました。歴史が前に進んだと信じたいです。

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 ──人々は劇中で「あの日がくれば」という歌を歌っています。「あの日」は理不尽なことがない理想的な社会だと思います。監督は実現を前向きにとらえていますか。

 そう信じたいです。1987年当時は純粋でした。過酷な戦いを通して、独裁政権から権利を勝ち取りました。しかし、彼らが歌った「あの日がくれば」は、今も有効でしょうか。彼らはその後どう生きてきたでしょう。現在、マンションの値段が上がっているのは、運動の中心だった世代のせいではないでしょうか。

 私はこの映画が、あの時代について考える鏡のような役割を果たしてほしいと思います。鏡をのぞき込むことで、美しく純粋だった時代を、もう一度振り返ってほしいと思うのです。

(文・阿部陽子 写真・岩渕弘美)

「1987、ある闘いの真実」(2017年、韓国)

監督:チャン・ジュナン
出演:キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ユ・ヘジン、キム・テリ、ソル・ギョング

2018年9月8日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://1987arutatakai-movie.com/

作品写真:(C)2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED
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2018年06月21日

「天命の城」ファン・ドンヒョク監督に聞く 清に攻められ苦悩する朝鮮「韓国の現状によく似ている」

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 韓国映画「天命の城」が2018年6月22日公開される。17世紀、清が朝鮮半島に攻め入った「丙子の役」を題材に、朝鮮の王と家臣の苦悩を描く。「トガニ 幼き瞳の告発」(11)、「怪しい彼女」(14)と一作ごとに異なる作風を打ち出すファン・ドンヒョク監督。「今の韓国によく似た状況だった。しっかり時代考証し、当時の様子を忠実に再現した」と語った。

 1636年12月。清が12万の大軍で朝鮮半島に攻め込む「丙子の役」が勃発した。李氏朝鮮の王・仁祖(パク・ヘイル)は南漢山城(現在のソウル南東部)に籠城するが、極寒の中で包囲され、窮地に陥る。物資調達もままならず、民と兵の苦しみは募り、朝廷内の意見は二分。和平交渉を求める大臣(イ・ビョンホン)と、徹底抗戦を主張する大臣(キム・ユンソク)の間で、王の苦悩は深まる。

 韓国でベストセラーとなったキム・フンの小説を映画化。イ・ビョンホン、キム・ユンソク、パク・ヘイルら実力派俳優の演技合戦も見ごたえある作品だ。

 ファン監督との主なやり取りは次の通り。

 ──当時の状況は、韓国の現状によく似ているということです。具体的にどんな点が似ていますか。

 「丙子の役」の当時 朝鮮は明の「家臣」でした。さらに清という新勢力が現れ、明との対立が激化したため、朝鮮は明を重視し、清を野蛮な国として排除しようとしました。間に立たされて大変な立場だったのです。

 一方、現代では朝鮮戦争後、韓国は米国と同盟関係を維持していますが、中国が大国に成長して力を付けました。米国からは高高度防衛ミサイル(THAAD)ミサイルを配備しろと圧力をかけられ、中国は配備を受けるなら経済的な報復をするといってきます。当時と今はよく似ているでしょう。

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イ・ビョンホンは生まれながらの俳優
 ──主演俳優3人、イ・ビョンホン、キム・ユンソク、パク・ヘイルについて、それぞれの魅力はどんな点にありますか。

 イ・ビョンホンは生まれながらの俳優。天賦の才があり、頭脳も明晰です。両方持ち合わせている人はあまりいません。彼は持っているものが多く、どう引き出せばいいか、自分なりに頭で判断し、しっかり計算できます。まさにプロの俳優で、隣で見ていてもたびたび驚かされました。どんな役にも合わせて変身できる人ですね。

 キム・ユンソクは本能的な俳優です。内に秘めたエネルギーがものすごい。じーっと何かを待っている野獣、虎のような印象です。いつエネルギーがあふれ出すか分からないのですが、あふれた時は大変な力を発揮します。

 パク・ヘイルはミステリアス。顔立ちや眼差し、声。かよわい少年のようで、優しい印象もあるけれど、見方によっては悪の部分も持っている。多様な側面があり、一つの姿に限定できない俳優です。

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 ──イ・ビョンホン、キム・ユンソクの二人が掛け合うクライマックスは見ごたえ十分でした。

 二人は演出の指示必要としない俳優なので、大きな介入はしませんでした。直前に論争するシーンをたくさん撮っており、二人は役になりきり、完ぺきに解釈してくれました。私はできるだけ何も言わず、自由に、気楽に演じてもらえるようにしました。カメラを数台用意し、ワンテイクで切らずに流れを大事に撮りました。

寒さを見せる必要があった
 ──極寒の時期のロケでした。苦労はありましたか。

 寒さを見せる必要があり、常に寒くなければなりませんでした。雪、つらら、氷、白い息。視覚的なものが必要だったので、寒い方がありがたかったんです。逆に寒くならず困ったことの方が多かった。雪のシーンで雨が降ったり、川を渡るシーンで氷が薄かったり。撮ろうとしたら氷が割れる音がして、消防隊に「落ちたら遺体も探せない。流されて春になってやっと見つかることになりますよ」と言われました。氷が厚く張るまで、はらはらしながら1カ月待ちました。韓国も温暖化のせいで、気温の変化が激しくなりました。急に温かくなったり、寒くなったりするんです。

 ──原作小説を映像として再現するにあたり、苦労したことはありましたか。

 世界遺産(に指定された史跡・南漢山城)で撮影できたことが助けになりました。当時着ていた服の色、道具、武器など、しっかり時代考証して作ることにこだわりました。当時の服の色も、これまでの時代劇のようにカラフルではなく、資料に忠実に再現しました。

 特に「鳥銃」舞台が登場する作品は初めてだと思います。(16世紀に豊臣秀吉が朝鮮と戦った)文禄・慶長の役の時、日本側が残していったもので、そのまま朝鮮軍がもらい受けて使っていました。これもしっかり考証して再現しました。

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 ──3作品まったく異なるタイプが続いています。次はどんなものを撮りたいですか。

 今は何も決まっていません。休んでいます。製作を務める作品のため、シナリオを書いていますが、コミカルな作品なので、セリフを書いていて楽しい。次はコミカルな作品もいいですね。

(文・写真 遠海安)

「天命の城」(2017年、韓国)

監督:ファン・ドンヒョク
出演:イ・ビョンホン、キム・ユンソク、パク・ヘイル、コ・ス、パク・ヒスン

2018年6月22日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://tenmeinoshiro.com/

作品写真:(C)2017 CJ E&M CORPORATION and SIREN PICTURESALL RIGHTS RESERVED
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2018年05月06日

全州国際映画祭2018 韓国インディペンデント作品を発信 現代人の閉塞感や不安、内面掘り下げる傾向

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 韓国の全州市で5月3日から「全州国際映画祭2018」が開かれている。長短編246本を上映し、日本映画は19本がラインアップ入り。開幕作にも日本映画「焼肉ドラゴン」(鄭義信監督)が選ばれ、6月22日の日本封切りを前にワールドプレミア上映された。「焼肉ドラゴン」は高度経済成長期の関西で生きる在日コリアン一家の喜怒哀楽を描いた作品。セレモニーには鄭監督のほか、父親役の韓国俳優キム・サンホらが登場した。

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開幕作品「焼肉ドラゴン」 「在日コリアンの歴史を知ってほしい」

 映画「焼肉ドラゴン」は、「月はどっちに出ている」の脚本などで知られる鄭監督が脚本・演出を手掛けた同名の演劇(2008年初演)を原作にしている。演劇は日本で各種の演劇賞を受賞したほか、ソウルでも2度にわたり日韓合同公演が行われて好評を博した。

 関西の集落にある小さな焼肉店が舞台。戦後、さまざまな事情で祖国に戻ることができず日本に定住することになった夫婦と三人の娘、一人息子の一家が織りなす物語だ。

 上映に先立つ記者会見で、鄭監督は「(初演から)10年たったいま、映画が韓国の映画祭の開幕作に選ばれたのは光栄。多くの韓国の人に見てもらいたい」と話した。日本では忘れられかけ、韓国ではほとんど知られていない在日コリアンの物語を記録しなければ、という使命感が強かったという。

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 焼肉店を経営する夫婦役は、韓国のテレビドラマや映画でおなじみのキム・サンホとイ・ジョンウンが務めた。二人とも日本語は話せないが、関西弁のせりふ回しを見事にこなしている。鄭監督は在日コリアンの心理について説明しただけで、日本語指導は専門家に任せたという。

 三女が結婚したいといって連れてきた男は日本人。猛反対する母に、父は結婚を許してやろうと言う。このあと父が三女と日本人男性に向かって、苦労の連続だった半生を静かに語る。ワンテイクで撮られたこの長いせりふが圧巻だ。監督は「サンホは日本語のせりふを完璧に覚え、さらにそこに感情をのせてきて、スタッフみんなが大感激した」と振り返った。技術的な問題もあってテイクを重ね、このシーンの撮影は8時間に及んだという。

 会見では、撮影現場で日韓のキャストやスタッフがスマートフォンの翻訳機を片手に交流し、家族のように過ごしたエピソードも紹介された。

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韓国の若手映画人、問題意識に変化

 全州映画祭は例年、社会風潮や権力を批判する先鋭的なドキュメンタリーが多く上映されるが、今年は劇映画中心のラインアップとなった。

 韓国インディペンデント映画のトレンドを垣間見られるのが、韓国コンペティション部門だ。今年は深刻な就職難と熾烈(しれつ)な競争にさらされる若者の閉塞感を描く作品や、事情をかかえた人間の内面を掘り下げた作品が目立った。直接的な社会批判ではなく、現代人の不安を多様な方法で描こうとする視点に、若手映画人の問題意識の変化を感じる。

 映画祭は12日まで、全州中心部で開催される。

(文・写真 芳賀恵)

写真:
1.レッドカーペットに登場した「焼肉ドラゴン」の鄭義信監督(右から2人目)
2.「焼肉ドラゴン」の(右から)イ・ジョンウン、イム・ヒチョル、キム・サンホ
3.開幕式で舞台あいさつする「焼肉ドラゴン」の(右から)イ・ジョンウン、キム・サンホ、鄭義信監督=全州国際映画祭事務局提供 
4.「焼肉ドラゴン」=同
5.メーン会場「映画の通り」

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2018年04月20日

「タクシー運転手 約束は海を越えて」韓国民主化運動弾圧・光州事件 名優ソン・ガンホが再現

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 1980年5月。韓国・ソウルのタクシー運転手マンソプ(ソン・ガンホ)は、ドイツ人記者ピーター(トーマス・クレッチマン)を乗せ、一路光州を目指していた。「通行禁止時間前に着きたい」と言われ、何としてもタクシー代を受け取りたいマンソプは、機転を利かせて検問を切り抜け光州に入る──。

 韓国光州市で起きた民主化運動弾圧「光州事件」を、ドイツ人記者とタクシー運転手の視線で描く「タクシー運転手 約束は海を越えて」。出演は「殺人の記憶」(03)のソン・ガンホ、「戦場のピアニスト」(02)のトーマス・クレッチマン。監督は「義兄弟 SECRET REUNION」(10)、「高地戦」(11)のチャン・フン。記者の身分を隠したドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーターと、タクシー運転手キム・サボク。2人の実在した人物をモデルに、改めて光州事件をひも解いていく。

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 幕開けでマンソプの人物像と背景が軽妙な語り口で描かれる。平和なソウル。11歳の娘を男手ひとつで育てるマンソプは、滞納した家賃も払えぬほど困窮している。ある日、大金がもらえる光州行きチャーター運転の話を聞き、後先を考えずに引き受けてしまう。

 大金目当てのマンソプは「光州行き」の意味を理解していなかった。片言の英語を駆使してドイツ人記者を乗せ、ソウルを出るが、進めば進むほど雲行きがあやしくなる。裏道を走ると軍の検問所が待ち構えている。得意の口八丁と強運で難所をかいくぐり、戒厳令下の光州へ到着。待っていたのは想像を絶する光景だった。

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 韓国の負の歴史である光州事件に、いわば部外者のタクシー運転手とドイツ人記者が巻き込まれ、目撃者となった経緯が明確に描かれる。通訳をかって出た大学生、地元光州のタクシー運転手たちの協力。胸を熱くするエピソードも盛り込まれる。

 光州事件を内から描くのではない。ソウルから来たマンソプと、東京から来たピーター、外から来た2人の視点で描いたことで、改めて全世界の観客に事件を検証してもらおうとしているようだ。

 デモ参加者を暴徒とみなし、軍が人民に向けて浴びせる銃弾。ピーターの潜入取材に気付いた公安警察の執拗な追跡。光州の惨状を明確に伝えぬ国内の実情。マンソプの心の葛藤やピーターとの友情。実話をベースに物語として脚色し、観客を光州事件の目撃者にしていく。映画的な醍醐味も合わせ持ち、韓国映画の底力を感じた。

(文・藤枝正稔)

「タクシー運転手 約束は海を越えて」(2017年、韓国)

監督:チャン・フン
出演:ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、ユ・ヘジン、リュ・ジュンヨル

2018年4月21日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://klockworx-asia.com/taxi-driver/

作品写真:(C)2017 SHOWBOX AND THE LAMP. ALL RIGHTS RESERVED.
posted by 映画の森 at 23:47 | Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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