2021年11月19日

「モスル あるSWAT部隊の戦い」荒廃したイラク 果てなきISとの死闘

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 イラク第2の都市モスル。かつては文化の中心だったが、長引く紛争ですっかり荒廃していた。21歳の新人警官カーワ(アダム・ベッサ)は、イスラム過激派組織「IS」に襲われているところを、あるSWAT(特殊部隊)に救われる。部隊を率いるジャーセム少佐(スヘール・ダッバーシ)は、ISに身内を殺されたカーワを部隊に引き入れる──。

 原作は米誌「ザ・ニューヨーカー」の記事。「アベンジャーズ」シリーズの「インフィニティ・ウォー」(18)、「エンドゲーム」(19)を監督したルッソ兄弟が製作を担当。「ワールド・ウォーZ」(13)の脚本家、マシュー・マイケル・カーナハンが初メガホンを取った。

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 人気のないモスルの空撮映像で幕を開け、一転、街中でISと銃撃戦するカーワらが映し出される。絶体絶命のカーワを救ったのは、駆け付けたSWATだった。隊員たちはISに家族を奪われ、本部命令を無視して独自に動いていた。カーワはジャーセム少佐にSWATへ入れられるが、任務が何かは教えてもらえなかった。

 荒廃した都市モスルをめぐって、ISとSWATの果てなき市街戦が展開。観客は戦闘地帯となったモスルに放り込まれる。建物に籠城する警官への容赦ないISの攻撃。嵐のような銃撃、爆撃音。観客の心拍数は極限まで跳ね上がる。カーワとともに戦場を駆け抜け、観客はSWATの任務の実態を目撃する。

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 仲間の裏切り、車爆弾、ドローン攻撃、仕掛け爆弾。敵を殺すためには手段を選ばぬISを相手に、SWAT隊員は次々と命を落としていく。部隊の武骨な父親的存在であるジャーセム少佐を追い、最後に隊員たちが知った任務は予想外のものだった。

 カーナハン監督はかつて、サウジアラビアを舞台にテロと戦うFBI(米連邦捜査局)を描いた「キングダム 見えざる敵」(07)で脚本を担当した。骨太なドラマを描いた人だけに、今回も緩急つけた語りと迫力ある戦闘シーンを繰り出し、初監督作品とは思えない仕事ぶりだ。

 監督は脚本で観客の一歩先を行きながら、謎の任務を意外な形で明かしていく。冒頭からの緊張感から解放され、迎えたその答えは思わぬもので、感動が時間とともにじわじわこみ上げる。巧みな演出に大器の片鱗を感じる。世界情勢を垣間見るためにも、見るべき骨太な戦争映画だ。

(文・藤枝正稔)

「モスル あるSWAT部隊の戦い」(2019年、米)

監督:マシュー・マイケル・カーナハン
出演:ヘール・ダッバーシ、アダム・ベッサ、イスハーク・エリヤス、クタイバ・アブデル=ハック

2021年11月19日(金)、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://mosul-movie.jp/

作品写真:(C)2020 Picnic Global LLC. All Rights Reserved.

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2021年11月06日

「ハロウィン KILLS」傑作ホラー・シリーズ最新作 ジェイミー・リー・カーティス40年ごし主演

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 鬼才ジョン・カーペンター監督の傑作ホラー「ハロウィン」シリーズ最新作。前作に続きジェイミー・リー・カーティスが主演し、デビッド・ゴードン・グリーン監督がメガホンを取った。

 ローリー(カーティス)と“ブギーマン”ことマイケル・マイヤーズの40年にわたる戦いは、決着がついたはずだった。しかし、ローリーの仕掛けたわなからマイケルが生還。さらに凶行を重ねていく。

 カーペンター監督「ハロウィン」(78)の40年後を描いた同名続編(18)に続く作品だ。前作に続いてグリーンが監督し、カーペンター監督も原案、製作総指揮、音楽で名を連ねている。製作会社はジェイソン・ブラムが設立したホラー・レーベル「ブラムハウス・プロダクションズ」。

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 「ハロウィン」シリーズの構成は複雑だ。カーペンター監督のオリジナル版の直後を描いた続編「ブギーマン」(81)、番外編「ハロウィンV」(82)、「ハロウィン4 ブギーマン復活」(88)、「ハロウィン5 ブギーマン逆襲」(89)。「ハロウィン6 最後の戦い」(95)ではマイケルの主治医ルーミス(ドナルド・プレザンス)とブギーマンが対決する。続編は量産され続け、プレザンス亡き後に仕切り直しでオリジナル版ローリー役のカーティスが復活。「ハロウィンH20」(98)と「ハロウィン レザレクション」(02)が製作された。一方、ロブ・ゾンビ監督が78年版をリメイクした「ハロウィン」(07)、その続編「ハロウィンU」(09)に、カーペンター監督はかかわっていない。

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 今回の「ハロウィン KILLS」は、オリジナル版の直後から幕を開ける「ブギーマン」と良く似ているが、別の道へ進化しながら突き進む。舞台はマイケルの生まれ育ったハドンフィールド。カーティスは脇に回り、オリジナル版でローリーがベビーシッターをしていたトミーとリンジーが大人になり、娘を殺された警官ブラケットも登場。ルーミスの助手の看護師マリオンも復活。リンジー、マリオン、ブラケットはオリジナル版キャストというこだわりぶりだ。

 精神病院に40年閉じ込められたマイケルが解き放たれ、ハドンフィールドに舞い戻り、殺人を繰り返す。いつものパターンだが、今回は住民たちが立ち上がり、諸悪の根源マイケルを葬ろうと動き出す。平常心を失い暴走する集団心理の危うさが描かれる。

 表向きは暴力性と狂暴性が増したマイケルの殺人鬼ぶり、神秘性が融合したスプラッターホラー映画の王道。しかし、ホラー映画の形を取りながら、社会性を感じさせる作品となった。

(文・藤枝正稔)

「ハロウィン KILLS」(2021年、米)

監督:デビッド・ゴードン・グリーン
出演:ジェイミー・リー・カーティス、ジュディ・グリア、アンディ・マティチャック

2021年10月29日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://halloween-movie.jp/

作品写真:(C)UNIVERSAL STUDIOS

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2021年10月10日

「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」ニコラス・ケイジ×園子温監督 奇想天外の無国籍アクション

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 米俳優ニコラス・ケイジを主演に迎え、園子温監督がハリウッド・デビューを果たした「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」。西部劇と時代劇を合わせたような痛快エンターテインメント・アクションだ。「悪魔のいけにえ2」(86)のビル・モーズリー、「キングスマン」(14)のソフィア・ブテラらが出演している。

 悪名高き銀行強盗ヒーロー(ニコラス・ケイジ)は、相棒のサイコ(ニック・カサベテス)と「サムライタウン」の銀行を襲撃する。しかしあえなく捕まってしまい、フンドシ一丁で手錠をかけられるはめになる。

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 投獄されたヒーローは、街を牛耳るガバナー(ビル・モーズリー)の孫娘バーニス(ソフィア・プテラ)を連れ戻す約束で釈放される。しかし、ヒーローが着せられた特殊なボディスーツには、「5日以内に娘を連れ戻さないと爆発する」爆弾がしかけられていた。

 「ルールを守らないと装着物で爆死」する設定は、「ニューヨーク1997」(81)で始まったアクション映画の定番だ。荒廃した近未来で主人公が救世主に祭り上げられるのは、「マッドマックス サンダーストーム」(85)を思い出させる。往年のB級アクションの定番ネタが随所に盛り込まれている。

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 しかし、期待のケイジは全体に体が重く、精悍さに欠ける。園監督もハリウッドの枠にとらわれたか、切れのよさが感じられない。そんな中、園監督作品でアクションを担当するTAK∴(坂口拓)が目を引く。ガバナーの用心棒・ヤスジロウ(小津安二郎監督へのオマージュか)として登場。監督とともにデビューしたハリウッドで、ケイジを相手に殺陣まで披露する。

 ケイジと園監督が組んだことで、期待値が高くなりがちだ。西部劇スタイルの俳優、派手な着物の女達、鎧かぶとの侍まで入り乱れ、まるでテーマパークを見るよう。日本人なら首をかしげる描写もあるが、監督は妄想のような世界を確信的に描いたのかもしれない。日米の才能が融合した奇想天外なアクション映画だ。

(文・藤枝正稔)

「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」(2021年、米)

監督:園子温
出演:ニコラス・ケイジ、ソフィア・ブテラ、ビル・モーズリー、ニック・カサベテス、TAK∴(坂口拓)、中屋柚香

2021年10月8日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://bitters.co.jp/POTG/

作品写真:(C)2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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2020年04月02日

「ポップスター」ナタリー・ポートマン主演 輝ける歌姫の栄光、転落、再起

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 2000年、米国。同級生による銃乱射事件で、生死のふちをさまよったセレステ(ラフィー・キャシディ)。姉のエリー(ステイシー・マーティン)と作った犠牲者の追悼曲が異例の大ヒットとなり、敏腕マネージャー(ジュード・ロウ)の手で一気にスターダムを駆け上がる。

 18年後。人気の絶頂を極めたセレステ(ナタリー・ポートマン)だったが、アルコールとスキャンダルにつまずき、活動休止に追いやられる。悪魔に魂を売ってでも再びステージで輝きたい歌姫は、再起をかけたツアーを企画する──。監督、脚本は「シークレット・オブ・モンスター」(2015)で長編監督デビューした俳優のブラディ・コーベット。

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 作品は2部構成だ。幕開けは1999年。銃乱射に巻き込まれた14歳のセレステは、ショービジネス界に入り、スターの階段を上っていく。しかし、マネージャーとエリーが男女の関係となり、姉妹の関係にひびが入る。少女時代をラフィー・キャシディが演じる。2017年からの後半では、ポップス歌手として大スターとなった31歳のセレステ役を「レオン」(94)、「ブラックスワン」(10)のナタリー・ポートマンが演じる。

 銃乱射の悲劇をばねに、スター街道を走る少女を描いており、前半が秀逸だ。まず乱射事件の描写がショッキングで凍りつく。重傷のセレステはベッドの上で歌を作り、人々の共感を得てショービジネスの世界へ。普通の少女が芸能界に入ったことで、自堕落な生活に陥る過程が生々しい。キャシディが素人っぽいセレステを魅力的に演じている。

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 しかし、後半のセレステは貫禄の大スターになっており「17年の間に何があったのか」と思うほど変貌している。恐らく米ポップ界の大スター、マドンナを参考にしたのだろう。精神的に追い詰められる歌姫の舞台裏ドラマが、前半とかみ合わずバランス悪く感じた。

 前半は銃乱射事件に揺れる少女の心を丁寧に掘り下げたが、後半はショービジネスの裏側が楽屋落ち的に明かされる。セレステの家族のドラマに加え、ポートマンの夫のバンジャマン・ミルピエが振り付けたクライマックスのステージ。全体に欲張りすぎた印象だ。完ぺきだった前半の足を凡庸な後半が引っ張ってしまい、惜しい作品となった。

(文・藤枝正稔)

「ポップスター」(2018年、米)

監督:ブラディ・コーベット
出演:ナタリー・ポートマン、ジュード・ロウ、ラフィー・キャシディ、ステイシー・マーティン、ジェニファー・イーリー

2020年公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://gaga.ne.jp/popstar/

作品写真:(C)2018 BOLD FILMS PRODUCTIONS, LLC
posted by 映画の森 at 23:40 | Comment(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月26日

「地獄の黙示録 ファイナル・カット」ベトナム戦争の狂気 コッポラ不朽の名作、デジタル修復で再登場

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 1960年代、ベトナム戦争が激化する中、米陸軍のウィラード大尉(マーティン・シーン)に特殊任務が命じられる。軍規にそむき、カンボジア奥地のジャングルで王国を築くカーツ大佐(マーロン・ブランド)の暗殺指令だった。ウィラードは4人の部下と哨戒艇でヌン川をさかのぼる──。

 フランシス・フォード・コッポラ監督のカンヌ国際映画祭のパルムドール(最高賞)受賞作「地獄の黙示録」(79)が製作40周年を記念し、監督自身の手で再編集、デジタル修復された。

 「地獄の黙示録」は現在、大きく分けて2つのバージョンが存在する。オリジナルである79年の劇場公開版、上映時間は153分。オリジナルには2つのバージョンがあり、一部の劇場で先行上映された70ミリ版はエンドロールがない。通常上映された35ミリ版は、ラストに村の爆破シーンとエンドロールがある。

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 さらに、2001年に公開された「地獄の黙示録 特別完全版」は、上映時間が最長の202分。劇場公開版より30分長く、ウィラードたちがヌン川をさかのぼる途中でフランス人入植者たちに出会うエピソードなどが追加された。35ミリ劇場公開版同様、村の爆破とエンドロールがある。今回IMAX上映される「地獄の黙示録 ファイナル・カット版」は、「特別完全版」より20分短く、デジタル修復されている。

 「地獄の黙示録」が描くのは戦争の狂気だ。カーツ大佐暗殺の任務を負ったウィランドたちが、川をさかのぼる途中で見たのは、戦争で狂った米兵たちだった。サーフィンをするため村ごと焼き払うギルゴア中佐(ロバート・デュバル)。慰問に訪れたプレイメイトに熱狂する兵士。ドラッグに溺れ正気を失っていく乗務員。それまで米映画が描いた英雄とは正反対の米軍兵士が登場する。

 ヘリコプターがベトナムの村を襲撃する戦闘シーンに始まり、中盤から後半にかけて登場人物の狂気は加速する。カーツ大佐のいる秘境は、さまざまな人種と死体の放つ死臭漂うカオスな場所だ。

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 王国に君臨するマーロン・ブランドは、スキンヘッドの異様な出で立ち。登場シーンは影や逆光を多用した映像で、怪物と化したカーツ大佐を象徴する。CG(コンピューター・グラフィクス)のない時代、物量作戦でベトナム戦争を再現したコッポラの破壊力もさることながら、米アカデミー賞を受賞した撮影監督、ヴィットリオ・ストラーロの映像美を再確認できる。

 ドアーズの「ジ・エンド」、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」など、既存の音楽の使いた方が非常にうまく、作品と切っても切れない印象を残した。40年を超えて復活した「ファイナル・カット版」は、IMAXの迫力映像と音響により、改めて作品世界にどっぷりひたれるだろう。

(文・藤枝正稔)

「地獄の黙示録 ファイナル・カット」(2019年、米国)

監督:フランシス・フォード・コッポラ
出演:マーロン・ブランド、マーティン・シーン、ロバート・デュバル、ローレンス・フィッシュバーン、ハリソン・フォード、デニス・ホッパー

2020年2月28日(金)、IMAX全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://cinemakadokawa.jp/anfc/

作品写真:(C)2019 ZOETROPE CORP. ALL RIGHTS RESERVED.
posted by 映画の森 at 23:49 | Comment(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする