イラク第2の都市モスル。かつては文化の中心だったが、長引く紛争ですっかり荒廃していた。21歳の新人警官カーワ(アダム・ベッサ)は、イスラム過激派組織「IS」に襲われているところを、あるSWAT(特殊部隊)に救われる。部隊を率いるジャーセム少佐(スヘール・ダッバーシ)は、ISに身内を殺されたカーワを部隊に引き入れる──。
原作は米誌「ザ・ニューヨーカー」の記事。「アベンジャーズ」シリーズの「インフィニティ・ウォー」(18)、「エンドゲーム」(19)を監督したルッソ兄弟が製作を担当。「ワールド・ウォーZ」(13)の脚本家、マシュー・マイケル・カーナハンが初メガホンを取った。
人気のないモスルの空撮映像で幕を開け、一転、街中でISと銃撃戦するカーワらが映し出される。絶体絶命のカーワを救ったのは、駆け付けたSWATだった。隊員たちはISに家族を奪われ、本部命令を無視して独自に動いていた。カーワはジャーセム少佐にSWATへ入れられるが、任務が何かは教えてもらえなかった。
荒廃した都市モスルをめぐって、ISとSWATの果てなき市街戦が展開。観客は戦闘地帯となったモスルに放り込まれる。建物に籠城する警官への容赦ないISの攻撃。嵐のような銃撃、爆撃音。観客の心拍数は極限まで跳ね上がる。カーワとともに戦場を駆け抜け、観客はSWATの任務の実態を目撃する。
仲間の裏切り、車爆弾、ドローン攻撃、仕掛け爆弾。敵を殺すためには手段を選ばぬISを相手に、SWAT隊員は次々と命を落としていく。部隊の武骨な父親的存在であるジャーセム少佐を追い、最後に隊員たちが知った任務は予想外のものだった。
カーナハン監督はかつて、サウジアラビアを舞台にテロと戦うFBI(米連邦捜査局)を描いた「キングダム 見えざる敵」(07)で脚本を担当した。骨太なドラマを描いた人だけに、今回も緩急つけた語りと迫力ある戦闘シーンを繰り出し、初監督作品とは思えない仕事ぶりだ。
監督は脚本で観客の一歩先を行きながら、謎の任務を意外な形で明かしていく。冒頭からの緊張感から解放され、迎えたその答えは思わぬもので、感動が時間とともにじわじわこみ上げる。巧みな演出に大器の片鱗を感じる。世界情勢を垣間見るためにも、見るべき骨太な戦争映画だ。
(文・藤枝正稔)
「モスル あるSWAT部隊の戦い」(2019年、米)
監督:マシュー・マイケル・カーナハン
出演:ヘール・ダッバーシ、アダム・ベッサ、イスハーク・エリヤス、クタイバ・アブデル=ハック
2021年11月19日(金)、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
https://mosul-movie.jp/
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