2020年01月07日

「マザーレス・ブルックリン」NYの闇、フィルムノワールの香り エドワード・ノートン19年ぶり監督作

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 1957年、米ニューヨーク。私立探偵のライオネル・エスログ(エドワード・ノートン)は、障害を抱えながら、驚異の記憶力を持っていた。恩人であり唯一の友人でもあるボスのフランク・ミナ(ブルース・ウィリス)が殺され、フランクは事件の真相を追い始める。ウイスキーの香り漂うハーレムのジャズ・クラブから、マイノリティーが集うブルックリンのスラム街へ。わずかな手がかりと勘、行動力で大都会の闇に迫っていく──。

 ジョナサン・レセムの原作を「真実の行方」(96)、「ファイト・クラブ」(99)のエドワード・ノートンが監督した。脚本、製作、主演も兼ねた犯罪劇だ。共演に「ダイ・ハード」(88)のブルース・ウィリス、「美女と野獣」(2017)のググ・バサ=ロー、「レッド・オクトーバーを追え!」(90)のアレック・ボールドウィン、「永遠の門 ゴッホの見た未来」(18)のウィレム・デフォー。豪華な顔ぶれだ。

 孤児のライオネルを拾い、父親のような存在だった探偵事務所の主・フランクが殺される。残された探偵たちは、フランクを陥れた犯人を探そうと動き出す。しかし、街の暗部に触れてしまったライオネルの前に、巨大な権力が立ちはだかる。

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 原作の時代設定である1999年が1957年に変更され、フィルムノワールの香り漂う探偵ものに仕上がった。主演のノートンがいい。ライオネルはトゥレット症候群(字幕で「チック症」)を持ち、時おり感情が抑えきれず、大声でさまざまな単語を発してしまう。同僚には「フリークショー(見世物小屋)」と揶揄される始末だ。一方で、異常なまでに記憶力が良い。チック症でくせの強い話し方だが、脳内の独白は冷静で滑らか。頭脳明晰ぶりがうかがえる。

 フランクを亡くしたライオネルの良き理解者になるのが、捜査中に知り合った黒人女性ローラ(ググ・バサ=ロー)だ。父親がジャズクラブを経営しており、ライオネルの心はローラの存在と熱いジャズの響きに解放させる。音楽を担当したダニエル・ペンバートンがうまい。モダンジャズ、ビバップ、ビッグバンド、ジャズオーケストラなど、シーンによって使い分けて盛り上げる。

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 1957年のジャズ界は、ビバップ全盛だった。トランぺッターのマイルス・デイビスがパリに招かれ、ルイ・マル監督「死刑台のエレベーター」(58)のサントラを手掛けた。「マザーレス・ブルックリン」に登場するトランぺッターは、マイルスがモデルだろう。吹き替え演奏したのは、米の大御所ウィントン・マルサリス。マイルスが「モード奏法」を生み出す前夜、57年当時の熱いジャズシーンを再現している。監督こだわりのシーンに注目してほしい。

 ノートンにとって「僕たちのアナ・バナナ」(00)以来の19年ぶり監督2作目。自身が演じた特異なキャラクター、ライオネルが物語をかみ砕き、バランスの取れた良作になった。

(文・藤枝正稔)

「マザーレス・ブルックリン」(2019年、米国)

監督:エドワード・ノートン
出演:エドワード・ノートン、アレック・ボールドウィン、ブルース・ウィリス、ググ・バサ=ロー、ウィレム・デフォー

2020年1月10日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://wwws.warnerbros.co.jp/motherlessbrooklyn/index.html

作品写真:(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

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2019年11月29日

「ゾンビ」日本初公開復元版 ホラー映画の金字塔、40年経て蘇る幻のバージョン

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 ジョージ・A・ロメロ監督の傑作ホラー「ゾンビ」日本公開から40年に合わせ、日本初公開復元版が11月29日に公開された。死人が蘇り生きた人間を襲うゾンビは、今や知らない人はいないホラーの金字塔だ。映画「バイオハザード」シリーズ、ドラマ「ウォーキング・デッド」など、影響を受けたさまざまな作品が製作されてきた。

 「ゾンビ」には大きく分けて3つのバージョンが存在し、音楽や上映時間が異なる。アジアと欧州で公開された「ダリオ・アルジェント監修版」(119分)は、ライブラリ音楽を使ったほかのバージョンと違い、イタリアのプログレバンド「ゴブリン」が新たに作曲した音楽で、サバイバルホラー的な面が濃厚だ。このほか、1985年に北米で公開された「米国劇場公開版」(127分)、94年に日本で世界初公開された「ディレクターズカット版」(139分)が存在する。

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 今回の「ゾンビ」日本初公開復元版は、「ダリオ・アルジェント監修版」をベースに、ゾンビを知らない日本人のため、当時の配給会社が独自に編集に手を加えた幻のバージョンを復元したものだ。

 米国でゾンビが発生して3週間後、カオスと化したテレビ局のスタジオで物語は幕を開ける。ゾンビの発生になすすべなく、堂々巡りの対話をする解説者、放送を続けるいらだつスタッフ。舞台はゾンビの巣と化したプエリトリコ人のアパートへ。住民とSWAT(警察特殊部隊)との銃撃戦の途中、ゾンビが出現。SWAT隊員とゾンビの対決となる。

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 しかし、当時の日本の配給会社は、独自の判断で設定を変えてしまった。冒頭に別の映画の映像を借用。タイプ打ちした「爆発した惑星から光線が降り注ぎ死者が蘇った」との英文を表示したのだ。さらに、残酷シーンを静止画で処理し、本来は満載だったスプラッター描写を減らしている。本編の一部もカッとし、エンドロールは黒地に音楽が流れるだけ。観客を突き放した形の幻のバージョンだった。

 40年前に作られたこの「日本初公開版」は、原盤が廃棄されてしまい、今は見られない。そこで今回は冒頭の惑星爆発映像とタイプ打ちの英文をCGで再現。当時のファンが書き留めていた日本語字幕を参考に、動画サイトにアップされたテレビ放送映像を頼りに、忠実に編集して蘇らせたという。

 消費社会の象徴である巨大ショッピングモールを舞台に、ゾンビと死闘を繰り広げる男女4人。さらに戦闘のプロであるSWAT隊員2人を配置した。モールに侵入してきた暴走族を、物欲と独占欲にかられた主人公が迎える。果てしなく消費する現代社会への警鐘だろう。ベトナム戦争に参戦したトム・サビーニが担当した特殊メークは、後のスプラッター・ホラーの指針となるクオリティーだ。

 40年前にリアルタイムで見たファン、まだ未見の最近のファン。「ゾンビ」好きなら必見のマニアックな作品だ。

(文・藤枝正稔)

「ゾンビ」日本初公開復元版(1978年、米・伊)

監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:デビッド・エムゲ、ケン・フォリー、スコット・H・ライニガー、ゲイラン・ロス、トム・サビーニ

作品写真:(C)1978 THE MKR GROUP INC. All Rights Reserved.
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2019年09月27日

「ヘルボーイ」異色のアメコミ・ダークヒーロー 血しぶき多めで刺激的に

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 紀元517年、暗黒時代のイングランド。“ブラッドクイーン”こと、魔女ニムエ(ミラ・ジョボビッチ)は疫病を拡散させ、世界を手に入れようとしたが、アーサー王の聖剣エクスカリバーに野望を断たれる。バラバラにされたニムエの死体は、人里離れた地に封印された──。

 マイク・ミニョーラ原作のコミック「ヘルボーイ」は、ギレルモ・デル・トロ監督の手により「ヘルボーイ」(04)と「ヘルボーイ ゴールデン・アーミー」(08)の2作品として映画化された。監督はニール・マーシャル。「ドッグ・ソルジャー」(02)の鬼才が「ヘルボーイ」を現代に復活させた。原作者ミニョーラが製作総指揮、脚本にも参加したという。

 ハリウッドのアメコミ・ヒーロー映画は、一つのジャンルとして確立している。「スーパーマン」や「バットマン」で知られる“D.C.コミックス”と、「アベンジャーズ」で知られる“マーベル・コミック”が、しのぎを削りあうように大ヒット作を立て続けに製作してきた。

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 そんな2強ブランドと一線を画す異色の存在が“ダークホースコミックス”の「ヘルボーイ」だ。地獄の悪魔の子として生まれ、人間に育てられたダークヒーローは、善にかえったものの、体に流れる悪の血に苦しみ、何かの拍子に悪魔に戻る。極秘の超常現象調査防衛局(B.P.R.D.)のエージェントとして、悪魔の力を駆使して人間界を守っている。

 ヘルボーイの敵が魔女ニムエだ。人間への復讐心に突き動かされて、1500年の時を超えて復活し、疫病をまき散らし、世界征服を目論む。イノシシのような獣人グルアガッハを従え、地球の女王として君臨しようとする。「女王には王が必要」と、白羽の矢を立てられたヘルボーイは、魔女ニムエと戦い始める。

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 騎士道物語「アーサー王と円卓の騎士」を巧みに取り入れながら、地球を守る悪魔の子と、地球征服を狙う魔女の戦いを、VFX満載で描いたダークファンタジーだ。一方、見たこともない様な巨大モンスターやクリーチャーが登場。モンスター映画の一面も持っている。

 デル・トロ版でヘルボーイを演じたロン・パールマンも凄い存在感だったが、今回のハーバーもいい。善と悪の間で揺れる新生ヘルボーイとして、申し分のない役作り。魔女ニムエには「バイオハザード」シリーズのミラ・ジョボビッチ。適役である。悪魔と対等に戦える最強の女優で、最高のキャスティングだ。

 監督のニール・マーシャルはホラー映画「ディセント」(05)、「マッドマックス」に通じる荒廃した近未来アクション映画「ドゥームズデイ」(08)というジャンル映画で頭角を現した。ダークヒーローとクリーチャーとの戦いをえげつなく描いた。D.C.コミックスやマーベルコミックとはまた一味違う、血しぶき多めで刺激的なアメコミ・ヒーローの快作だ。

(文・藤枝正稔)

「ヘルボーイ」(2019年、米)

監督:ニール・マーシャル
出演:デビッド・ハーパー、ミラ・ジョボビッチ、イアン・マクシェーン、サッシャ・レイン

2019年9月27日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hellboy-movie.jp/

作品写真:(C)2019 HB PRODUCTIONS, INC.

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2019年09月18日

「アナベル 死霊博物館」恐怖の人形巡るシリーズ第3弾 原点に返りシンプルに

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 超常現象研究家のウォーレン夫妻の家に、強烈な呪いを持つ人形「アナベル」が運び込まれ、地下の博物館に他の呪われた品々と一緒に厳重に封印された。夫妻が仕事で家を空けた日。娘のジュディ(マッケナ・グレイナ)は年上の少女メアリー(マディソン・アイズマン)、ダニエラ(ケイティ・サリフ)と3で一夜にを過ごす。しかし、ダニエラが博物館に勝手に入り込み、アナベルの封印を解いてしまう──。

 「アナベル 死霊博物館」は、「死霊館」(13)に登場した人形アナベルを主人公としたシリーズ第3弾だ。パトリック・ウィルソンとベラ・ファーミガが、ウォーレン夫妻として再登場する。原案、製作は「死霊館」シリーズを生んだジェームズ・ワン、監督、脚本は「アナベル」シリーズ、「IT イット “それ”が見えたら、終わり」(17)のゲイリー・ドーベルマン。今回が長編デビューとなる。

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 「死霊館」シリーズから派生した「アナベル」シリーズ第3弾だが、前2作が「死霊館」の前日譚だったのに対し、今回は後日談を描いている。つまり「死霊館」の後なので、物語をある程度自由に創作できる。人形の恐怖に焦点を絞り、ジュディら少女たち、さらに男友達の話を中心とした。夫妻の家で一夜を過ごし、彼らはさまざまな恐怖を味わう。観客を怖がらせることに特化し、ホラーの原点に立ち返った構成と演出が潔い。

 ドーベルマン監督の演出は、緩急をつけつつ、非常にシンプルだ。アナベルを預かったことで発生する墓地での超常現象。ジュディが学校で見てしまう神父の亡霊。ダニエラが過去に犯した父を巡る過ち。アナベル以外のエピソードをうまくふくらませ、伏線を張りめぐらせる。クライマックスでは恐怖をたたみかけながら、伏線をうまく回収していく。

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 シリーズ前2作は「死霊館」につながるよう整合性が求められたが、今回は人形と博物館の品々が巻き起こす恐怖に特化した。「お化け屋敷」的な恐ろしさを押し出し成功している。対象年齢を引き下げたようにシンプルで、計算されたショック演出。シリーズを知らない観客も十分楽しめるだろう。

(文・藤枝正稔)

「アナベル 死霊博物館」(2019年、米)

監督:ゲイリー・ドーベルマン
出演:マッケンナ・グレイス、マディソン・アイスマン、ケイティ・サリフ、パトリック・ウィルソン、ベラ・ファーミガ

2019年9月20日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://wwws.warnerbros.co.jp/annabelle-museumjp/

作品写真:(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
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2019年09月08日

「荒野の誓い」開拓時代の終わりと変わる西部 騎兵隊大尉の心情に重ね クリスチャン・ベール好演

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 1892年、米西部。騎兵隊大尉ジョー(クリスチャン・ベール)はかつての宿敵でシャイアン族の長、イエロー・ホーク(ウェス・ステューディ)とその家族を、居留地へ送り返すよう命じられる。ニューメキシコからコロラド、モンタナへ。途中、コマンチ族に家族を殺されたロザリー(ロザムンド・パイク)も加わり、一行は北を目指す。ジョーとロザリーは危険に満ちた旅を通じ、互いに協力せずには生きてはいけないとを知る──。

 監督、脚本、製作は「クレイジー・ハート」(09)で長編デビューしたスコット・クーパー。ベールとは「ファーナス 訣別の朝」(13)に続くタッグで、4本目の長編だ。

 西部開拓時代が終わり、産業革命で新時代が始まった米国が舞台の西部劇。荒野で平和に暮らしていたクウェイド家を、コマンチ族が襲う。夫と子ども3人は殺され、ロザリーだけがかろうじて生き延びた。一方、騎兵隊はインディアンの家族を捕らえ、刑務所に強制連行していた。白人から見たインディアン、インディアンから見た騎兵隊の蛮行が、対比するように描かれる。

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 騎兵隊のジョーはかつて、インディアンとの戦争で英雄になった。たび重なる戦いで仲間を失い、インディアンを嫌っている。しかし、上官から命じられたのは、皮肉にもがんに冒されたインディアンの長、イエロー・ホーク一家の護送だった。

 インディアンとの融和をアピールし、出世を目論む上官は、インディアンの言葉が話せるジョーに白羽の矢を立てたのだ。ジョーは任務を拒むが、上官は軍法会議をたてに受け入れない。ジョーは仕方なく引き受け、小隊を組織して馬に乗り、モンタナへ向かう。道中、焼け跡で放心状態だったメアリーを見かけ、安全な場所に連れて行くため同行させる。

 かつての敵を護送するジョーの心境の変化が物語の鍵になる。職業軍人として任務に取り組むが、コマンチ族や野盗に襲われ、騎兵隊5人だけでは手に負えない。護送するインディアンの手を借りずにいられなくなり、かつての敵であるイエロー・ホークの意志を尊重し、理解しようとする。さらに、家族を失い自暴自棄のロザリーと心を通わせるうち、ジョーの中に自尊心が芽生え始める。

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 開拓時代が終わり、時代も移る転換期に、騎兵隊の心情も変わっていく。ジョーを演じるベールがいい。職業軍人として感情を殺し、ストイックに任務をこなす男が、行動をともにすることで、嫌っていたインディアンを認め、考えを変えていく。非常に複雑な感情のせめぎあいを、ベールが繊細かつ力強く演じている。ロザリーを演じるパイクも、傷心で破壊行動を見せる女性が、次第に人間らしく変わる難役を好演した。

 敵対する民族同士の理解は、現代に通じる普遍的なテーマだ。米国の負の歴史を、監督は骨太のメッセージとして観客に投げかけている。

(文・藤枝正稔)

「荒野の誓い」(2017年、米)

監督:スコット・クーパー
出演:クリスチャン・ベール、ロザムンド・パイク、ウェス・ステューディ、アダム・ビーチ、ベン・フォスター、クオリアンカ・キルヒャー

2019年9月6日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kouyanochikai.com/

作品写真:(C)2017 YLK Distribution LLC. All rights reserved.
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