かつて一世風靡した映画界のスーパースター、ヴィック・エドワーズ(バート・レイノルズ)のもとに、ある映画祭から功労賞授与式の招待状が届く。歴代受賞者がロバート・デ・ニーロやクリント・イーストウッドと聞き、しぶしぶ参加したものの、だましに近い名もない映画祭と知ると、エドワーズは憤慨する。だが、映画祭の場所は生まれ育った街ノックスビルに近く、過去の思い出がよみがえる──。
2018年9月、82歳で世を去ったレイノルズ最後の主演作「ラスト・ムービースター」。一周忌にあたる9月6日に公開される。監督・脚本は「デトロイト・ロック・シティ」(99)、「LOOK」(07)のアダム・リフキン。
レイノルズは「脱出」(72)、「ロンゲスト・ヤード」(74)、「トランザム7000」(77)など、男臭さを売りにしたアクションスターだった。今回演じるエドワーズは、レイノルズにあてがきしたような役だ。かつてスーパースターだったが、引退後は映画オタクにしか知られておらず、愛犬と寂しい余生を過ごす男。
そこへ「国際ナッシュビル映画祭」から功労賞を授与すると連絡がある。デ・ニーロやイーストウッドら、かつての仲間たちも受賞してきたと知り、旧友の元スターのソニー(チェビー・チェイス)に相談。「もらいに行ったほうがいい」と助言され、しぶしぶ授賞式に出席する。
しかし、待っていたのは厳しい現実だった。エコノミー席でナッシュビルの空港に着くと、迎えに来たのはボロ車の若い女性運転手リル(アリエル・ウィンター)。タトゥーの入った不愛想な女で、運転中も彼氏と電話でけんか。まったく自己中心的な態度に抱いた嫌な予感は的中する。
映画祭はまやかしイベントだった。小さなスクリーンにプロジェクター、ホームシアターに毛が生えたような会場。エドワーズが登場すると主催者やファンは大喜びするが、だまされた当人の怒りは収まらない。ホテルで安酒を飲み、転倒して額にけがを負う。翌朝、リルを呼び出して空港へ向かったが、道路標識に懐かしい「ノックスビル」の文字を見つけ、導かれるように生まれ故郷を目指す。
レイノルズの人生をなぞったような物語が秀逸だ。スタントマンとしてキャリアをスタートさせたエドワーズ。レイノルズがスタントマン役を演じた「グレート・スタントマン」(78)につながる。雑誌で披露したヌードが劇中に引用されるなど、本人の過去がそのまま使われている。
代表作「脱出」と「トランザム7000」の映像で、当時のレイノルズとエドワーズがCG合成で共演。粋な演出も用意されている。内容はレイノルズにとって自虐的ともいえるが、大らかに受け入れ、自分色に染め上げてしまう大スター、レイノルズの最後の輝きを収めた。
(文・藤枝正稔)
「ラスト・ムービースター」(2017年、米国)
監督:アダム・リフキン
出演:バート・レイノルズ、アリエル・ウィンター、クラーク・デューク、エラー・コルトレーン、チェビー・チェイス
2019年9月6日(土)、シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
https://lastmoviestar2019.net-broadway.com/
作品写真:(C)2018 DOG YEARS PRODUCTIONS, LLC