2019年09月03日

「ラスト・ムービースター」バート・レイノルズ、最後の主演作 大スターの大らかさと輝き

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 かつて一世風靡した映画界のスーパースター、ヴィック・エドワーズ(バート・レイノルズ)のもとに、ある映画祭から功労賞授与式の招待状が届く。歴代受賞者がロバート・デ・ニーロやクリント・イーストウッドと聞き、しぶしぶ参加したものの、だましに近い名もない映画祭と知ると、エドワーズは憤慨する。だが、映画祭の場所は生まれ育った街ノックスビルに近く、過去の思い出がよみがえる──。

 2018年9月、82歳で世を去ったレイノルズ最後の主演作「ラスト・ムービースター」。一周忌にあたる9月6日に公開される。監督・脚本は「デトロイト・ロック・シティ」(99)、「LOOK」(07)のアダム・リフキン。

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 レイノルズは「脱出」(72)、「ロンゲスト・ヤード」(74)、「トランザム7000」(77)など、男臭さを売りにしたアクションスターだった。今回演じるエドワーズは、レイノルズにあてがきしたような役だ。かつてスーパースターだったが、引退後は映画オタクにしか知られておらず、愛犬と寂しい余生を過ごす男。

 そこへ「国際ナッシュビル映画祭」から功労賞を授与すると連絡がある。デ・ニーロやイーストウッドら、かつての仲間たちも受賞してきたと知り、旧友の元スターのソニー(チェビー・チェイス)に相談。「もらいに行ったほうがいい」と助言され、しぶしぶ授賞式に出席する。

 しかし、待っていたのは厳しい現実だった。エコノミー席でナッシュビルの空港に着くと、迎えに来たのはボロ車の若い女性運転手リル(アリエル・ウィンター)。タトゥーの入った不愛想な女で、運転中も彼氏と電話でけんか。まったく自己中心的な態度に抱いた嫌な予感は的中する。

 映画祭はまやかしイベントだった。小さなスクリーンにプロジェクター、ホームシアターに毛が生えたような会場。エドワーズが登場すると主催者やファンは大喜びするが、だまされた当人の怒りは収まらない。ホテルで安酒を飲み、転倒して額にけがを負う。翌朝、リルを呼び出して空港へ向かったが、道路標識に懐かしい「ノックスビル」の文字を見つけ、導かれるように生まれ故郷を目指す。

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 レイノルズの人生をなぞったような物語が秀逸だ。スタントマンとしてキャリアをスタートさせたエドワーズ。レイノルズがスタントマン役を演じた「グレート・スタントマン」(78)につながる。雑誌で披露したヌードが劇中に引用されるなど、本人の過去がそのまま使われている。

 代表作「脱出」と「トランザム7000」の映像で、当時のレイノルズとエドワーズがCG合成で共演。粋な演出も用意されている。内容はレイノルズにとって自虐的ともいえるが、大らかに受け入れ、自分色に染め上げてしまう大スター、レイノルズの最後の輝きを収めた。

(文・藤枝正稔)

「ラスト・ムービースター」(2017年、米国)

監督:アダム・リフキン
出演:バート・レイノルズ、アリエル・ウィンター、クラーク・デューク、エラー・コルトレーン、チェビー・チェイス

2019年9月6日(土)、シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://lastmoviestar2019.net-broadway.com/

作品写真:(C)2018 DOG YEARS PRODUCTIONS, LLC

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2019年07月21日

「ポラロイド」古いカメラから広がる死の連鎖 恐怖と葛藤にさいなまれる高校生

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 アンティーク店で手に入れた年代物のポラロイドカメラ。SNS世代の高校生バード(キャサリン・プレスコット)は、シャッターを押せば写真が出る仕組みに夢中になる。しかし、撮影された友人たちが次々と悲惨な死を遂げ、悪夢の原因はカメラにあると気付くバードだが、自分も写真に写っていたことが分かる──。

 ノルウェー出身のラース・クレブバーグ監督が、自作の短編をリメイクしたホラー映画。才能がこの作品でハリウッドの目に止まり、「チャイルドプレイ」リブート版の監督に抜てきされた注目の新鋭だ。

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 1972年発売の「ポラロイドSX-70」を、少女が母の遺品から発見する。冒頭のシーンは下敷きになった短編を再構築しており、続いて長編オリジナルの物語が始まる。バードがアルバイトするアンティーク店に、いわくつきポラロイドカメラが持ち込まれ、写真を撮られた友人たちの死の連鎖が始まる。

 ポラロイドで撮った写真には、人物と一緒に謎の黒い影が映っている。「黒い影が出てしまった人物が死ぬ」設定だ。死の連鎖から逃げようとする人々の恐怖と葛藤。カメラがたどった負の歴史。中田秀夫監督「リング」(99)が作ったルールが、世界のホラー映画で一般化したようにみえる。「ポラロイド」では高校生が死の連鎖に翻弄され、予知夢で死亡が予告される「ファイナル・デスティネーション」(00)に近い印象だ。

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 「死の連鎖からの回避」に新味はないが、演出は抑制が効いており、じわじわと恐怖が迫りくる。カメラにまつわる負の歴史もミステリアスに描かれるが、後半はCGを大盤振る舞い。ハリウッド的なサービスが炸裂し、リアリティーが薄くなった。しかしながら、短い上映時間88分をまったく飽きさせず、監督の語りのうまさを感じる作品だ。

(文・藤枝正稔)

「ポラロイド」(2018年、米)

監督:ラース・クレブバーグ
出演:キャスリン・プレスコット、タイラー・ヤング、サマンサ・ローガン、グレイス・ザブリスキー、ミッチ・ピレッジ

2019年7月19日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://gaga.ne.jp/polaroid/

作品写真:(C)2019 DPC SUB 1A1, LLC

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2019年06月14日

「パージ:エクスペリメント」シリーズ4作目「すべての犯罪が合法になる」スリラー

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 経済が崩壊した米国。政権を握るNFFA(新しいアメリカ建国の父たち)は犯罪率を抑えるため、すべての犯罪を12時間合法化する「パージ法」の実験的導入を決定。ニューヨークのスタテン島の住民に報酬5000ドルを約束し、サバイバル競争をスタートさせる──。

 「パージ」(13)、「パージ:アナーキー」(14)、「パージ:大統領令」(16)に続くシリーズ4作目。製作総指揮、脚本はジェームズ・デモナコ。製作は「パラノーマル・アクティビティ」シリーズのジェイソン・ブラム、「トランスフォーマー」シリーズのマイケル・ベイ。監督は「ヘルウィーク」(17・未)のジェラード・マクマリー。

 「パージ法」に則って展開するスリラーは、過去3本で描き切ったと思われたが、今回は意表をついて時間軸をさかのぼる。法の制定前、実験段階を描く前日譚になっている。

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 実験ではスタテン島を外部と遮断。島に残った住民には、映像が記録できるコンタクトレンズの装着と引き換えに、報酬5000ドルが約束される。腕には追跡装置が埋め込まれ、政府の監視下に置かれるのだ。
 
 残った住民は黒人やヒスパニック系の低所得者たち。12時間をやり過ごすため自宅に閉じこもる人。安全な教会に集まる人。一方で、ギャングの抗争に「パージ法」を利用する者も出現。島民たちのサバイバルが始まる。

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 島という閉ざされた場所が舞台なのは、ジョン・カーペンター監督「ニューヨーク1997」(81)を思わせる。監獄となった近未来ニューヨークの島に大統領機が墜落。行方不明になった大統領を、元特殊部隊員の男が救出に向かう物語だ。今回脚本を書いたデモナコは、カーペンター監督「要塞警察」(76)のリメイク版「アサルト13 要塞警察」(05)の脚本も担当した。
カーペンター監督の影響は、次世代に受け継がれたようだ。

 犯罪が増え続ける国内のガス抜きを目的に、12時間だけ殺人と犯罪を政府が肯定する。暴力を通して世相を映したスリラーといえよう。

(文・藤枝正稔)

「パージ:エクスペリメント」(2018年、米)

監督:ジェラード・マクマリー
出演:イラン・ノエル、レックス・スコット・デイビス、ジョイバン・ウェイド、クリステン・ソリス、スティーブ・ハリス

2019年6月14日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://purge-exp.jp/

作品写真:(C)2018 Universal Pictures
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2019年05月10日

「ラ・ヨローナ 泣く女」ジェームズ・ワン製作、「死霊館」に通じる「最恐」ホラー

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 1970年代の米ロサンゼルス。不可解な死を遂げた子の母親が、不吉な警告を発する。無視したソーシャルワーカーのアンナ(リンダ・カデリーニ)と子供たちは、ある女の“泣き声”を聞いてしまう。その日を境に数々の恐ろしい現象に襲われることになる──。

 製作は「死霊館」シリーズのジェームズ・ワン、監督は今回が長編デビューのマイケル・チャベス。「ラ・ヨローナ」は、スペイン語で「泣く女」を意味する。

 「死霊館」(13)で始まったワンのホラー映画は、同作に登場する人形を題材にした「アナベル 死霊館の人形」(14)など派生を続け、今回もその1本といえる。メキシコの怪談に登場する呪われた「泣く女」がモチーフだ。

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 ヨローナの原点から話は始まる。村一番の美女がスペイン人と恋に落ち、子供二人を授かった。幸せは続かず、男は裕福なスペイン人女性のもとに去る。美女は嫉妬に狂い、夫最愛の子ども二人を溺死させる。美女は我に返り、後悔に苦しみ、泣きながら川へ身を投げる。

 時は移って現代。ヨローナの涙は枯れず、わが子を探してさまよっていた。ロサンゼルスのアンナは、虐待の疑いがある女性パトリシアの家で、クローゼットに閉じ込められていた兄弟を救う。パトリシアの行為は、ヨローナの呪いから逃れるためだった。事情を知らないアンナの救助で、最悪な事態が起きる。兄弟が川で水死体で見つかったのだ。アンナに怒り狂うパトリシア。やがてヨローナの呪いはアンナの子二人に向けられる。

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 ジェームズ・ワンのヒット作「死霊館」シリーズと、底辺でつながっている。中盤にヨローナの呪いに苦しむアンナが教会に相談に行くと、「アナベル 死霊館の人形」に登場したペレス神父(トニー・アメンドーラ)が登場。アンナに悪魔ばらいにたけたラファエル神父(レイモンド・クルツ)を紹介する。

 ヨローナは狙った子供に執着する粘着系で、執念深さは日本ホラー・キャラ「貞子」を彷彿させる。泣き声とともにプール、バスタブなど水のある場所ならどこでも出現。家ごと破壊しかねぬパワーで家族に襲いかかる。最終的には悪魔ばらいに頼ることになり、神父はヨローナの一騎打ちに臨む。

 チャベスの語り口は、デビュー作らしからぬうまさ。ショック演出の間合いも良く、ホラー監督として期待できる逸材だ。ワンも手腕を買っているようで、20年公開の「死霊館」シリーズ3作目の監督に抜擢したという。「ラ・ヨローナ 泣く女」は、ワンが送り出す「最恐」ホラーだ。 

(文・藤枝正稔)

「ラ・ヨローナ 泣く女」(2019年、米国)

監督:マイケル・チャベス
出演:リンダ・カーデリニ、マデリーン・マックグロウ、ローマン・クリストウ、レイモンド・クルツ、パトリシア・ベラスケス

2019年5月10日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://wwws.warnerbros.co.jp/lloronamoviejp/

作品写真:(C)2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
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2019年04月05日

「バイス」ブッシュ政権を陰で操った男、チェイニー副大統領の野望と横暴

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 1960年代半ば。酒癖の悪い青年チェイニー(クリスチャン・ベール)が後の妻となる恋人リン(エイミー・アダムス)に尻を叩かれ、政界を目指す。型破りな下院議員ドナルド・ラムズフェルドのもとで政治の表裏を学んだチェイニーは、次第に権力の虜になっていく。ジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領に就任し、入念な準備のもと“影の大統領”として振る舞い始める──。

 ブッシュ政権(2001〜09年)で“影の大統領”と呼ばれた副大統領ディック・チェイニーの実話を描いた「バイス」。「ダークナイト」(08)のクリスチャン・ベールが特殊メイクと体重20キロ増で演じた社会派作品だ。監督、脚本、製作は「マネー・ショート華麗なる大逆転」(15)のアダム・マッケイ、製作はブラッド・ピットら。「バイス」は、副大統領(バイス・プレジデント)と、「悪徳」や「邪悪」の意味を込めた。

 米国ではこれまでオリバー・ストーン監督の「ニクソン」(95)と「ブッシュ」(08)、スティーブン・スピルバーグ監督の「リンカーン」(12)など、大統領を描いた作品が多く作られているが、今回のように副大統領が主人公の作品は珍しい。しかも、俗物の黒歴史をシニカルに描いている。

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 監督自ら「何も知らなかった」と語るように、影の男だったチェイニーを、なじみのない観客にも分かるよう作っている。記録映像を交えてチェイニーの物語が進む一方、一般人のカート(ジェシー・プレモンス)の別の人生が、並行して描かれる。スクリーンから「第4の壁」を越え、観客に向かって語り掛ける謎の存在だが、カートとチェイニーの人生が交差する意外な仕掛けが隠されている。

 チェイニーの歩み、政治家としての経歴、大統領の陰で権力を振りかざした行為の数々が描かれる。堅苦しさはなく、演出は軽妙で編集は巧みだ。キャストの成り切り演技が相乗効果を生み、再現ドラマの域を越えた娯楽作になっている。

 ベールにの特殊メイクは「ミセス・ダウト」(94)、「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」(08)の巨匠グレッグ・キャノン。20代の青年期から70代の老年期まで、違和感なく仕上げた。ベールは米ゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞したが、陰の功労者はキャノンの特殊メイクだろう。

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 ブッシュ大統領役のサム・ロックウェル、ラムズフェルド国防長官役のスティーヴ・カレル、パウエル国務長官役のタイラー・ペリーら、実在の政治家を特殊メイクでそっくりに再現。副大統領の生き様に鋭く切り込み、皮肉たっぷりに描いた社会派の快作だ。

(文・藤枝正稔)

「バイス」(2018年、米)

監督:アダム・マッケイ
出演:クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、スティーブ・カレル、サム・ロックウェル、タイラー・ペリー

2019年4月5日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://longride.jp/vice/

作品写真:(C)2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All rights reserved.
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