2018年10月11日

「アンダー・ザ・シルバーレイク」奇抜な脚本、オフビートなノリ ロスを騒がす不条理サスペンス

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 “大物”になる夢を抱き続け、気が付けば職もなく、家賃まで滞納しているサム(アンドリュー・ガーフィールド)。隣に住む美女サラ(ライリー・キーオ)に一目ぼれ。デートの約束を取り付けるが、翌日サラは忽然と消えてしまう。もぬけの殻になった部屋を訪ねたサムは、壁に書かれた奇妙な記号を見つけ、陰謀の匂いをかぎ取る。おりしも大富豪や映画プロデューサーの失踪や謎の死が続き、真夜中になると犬殺しが出没。街を操る裏組織の存在が噂されていた──。

 クエンティン・タランティーノが絶賛したホラー映画「イット・フォローズ」(14)のデビッド・ロバート・ミッチェルが、監督・脚本を担当した最新ネオノワール・サスペンスだ。

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 ロサンゼルスの北西部に位置する町・シルバーレイク。カフェの窓ガラスいっぱいに「犬殺しに気をつけろ」と警告のような文言が書かれ、主人公のオタク青年サムが店内から見つめている。爽やかな日常が、非日常に変わる不安な幕開け。光り輝くロサンゼルスの表の顔とは、別の裏の顔があぶりだされる。

 一目ぼれしたサラの失踪を皮切りに、サムは次々奇妙な出来事に巻き込まれる。暗号解析、都市伝説、サブリミナル効果──オタク知識を生かしながら、ロスの大物たちの死や失踪、犬殺しなどに、大きな陰謀が渦巻いていると気付く。

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 独自性あふれる奇抜な脚本に、オフビートなノリ。くせのある登場人物に知的好奇心をくすぐられる。不条理な悪夢のような物語は、偉大な過去の作品群の影響を受けている。ヒッチコックの「裏窓」(54)、スコセッシの「アフター・アワーズ」(85)、リンチの「ブルーベルベット」(86)。現代に合わせたポップカルチャーを随所に混ぜ込み、複雑怪奇にしたような作品だ。

 リッチ・ブリーランドの音楽は、ヒッチコック作品を多く手がけた映画音楽家バーナード・ハーマンのスコアを思わせる。クラシカルな弦楽を基調にした重厚なスコアで、悪夢のような不安感を醸し出す。

 「ハクソー・リッジ」(16)、「沈黙 サイレンス」(16)、「ブレス しあわせの呼吸」(17)など、出演作が目白押しのガーフィールドが、ひとくせあるオタク青年に。プレスリーの孫娘で「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(15)のキーオら、キャストの魅力も手伝い、ミッチェル監督の才能が開花した。目ざとい映画ファンは注目のサスペンスだ。

(文・藤枝正稔)

「アンダー・ザ・シルバーレイク」(2018年、米国)

監督:デビッド・ロバート・ミッチェル

出演:アンドリュー・ガーフィールド、ライリー・キーオ、トファー・グレイス、ゾーシャ・マメット、キャリー・ヘルナンデス

2018年10月13日(土)、新宿バルト9ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://gaga.ne.jp/underthesilverlake/

作品写真:(C)2017 Under the LL Sea, LLC

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2018年10月10日

「スカイライン 奪還」エイリアンと人間、地球をめぐってガチンコバトル

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 ロサンゼルスの刑事マーク(フランク・グリロ)は、電車で息子トレント(ジョニー・ウェストン)と帰宅する途中、奇妙な青い光が広がるのを見た。人々が巨大な未確認飛行物体に吸い込まれていたのだ。急停車した運転手オードリー(ボヤナ・ノヴァコヴィッチ)ら生存者を率い、マークは安全地帯を探す──。

 「スカイライン 奪還」は、「スカイライン 征服」(11)から7年後の世界を描く続編。前作を監督したストラウス兄弟は製作にまわり、前作で製作・脚本を担当したリアム・オドネルが初メガホンを取った。

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 「スカイライン 征服」は、突如現れた謎の生命体が地球を征服する3日間を、ロサンゼルスのマンションに集まった市民の視点で描いてスマッシュヒットした。一方、今回の「スカイライン 奪還」は、ロサンゼルスに再び謎の飛行体が現れ、青い光を放って人々の吸引を始め、吸引から逃れた人たちが、未確認生命体に戦いを挑む。

 前作はマンションという限定された場所で展開し、謎を多く残したラストシーンが賛否を呼んだ。今回は人々が吸引される設定を引き継ぎながら、ロスの街を移動し、最終的に舞台はラオスに飛躍する。

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 前作の反省からか、刻々と状況は変化する。ラオスに至る後半は、まるでSFバトルアクションだ。変貌のヒントはキャストで納得する。主人公のマークに「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」(16)で敵役を演じた肉体派フランク・グリロ。後半はインドネシアのアクション映画「ザ・レイド」シリーズのイコ・ウワイスとヤヤン・ルヒアンがクローズアップされる。ウワイスはスタント演出も担当し、エイリアンと人間が地球奪還をめぐってガチンコバトルする。

 前作の最後に登場した「ハイブリット型エイリアン」の話も掘り下げられる。マークとトレント父子の奇妙な親子愛が、物語の隠し味となった。

 前作でエイリアンにやられっぱなしだった人間たち。屈辱を晴らすがごとく、知恵と肉体を駆使した壮大なバトルを展開。エンドロールはSF作品では珍しく、NGシーンをつないだメイキング映像が流れる。貴重なのであわてて席を立たぬよう。

(文・藤枝正稔)

「スカイライン 奪還」(2017年、英・中・カナダ・インドネシア・シンガポール・米)

監督:リアム・オドネル
出演:フランク・グリロ、ボヤナ・ノバコビッチ、ジョニー・ウェストン、カラン・マルベイ、アントニオ・ファーガス

2018年10月13日(土)、 新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://skyline-dakkan.jp/

作品写真:(C)2016 DON'T LOOK UP SINGAPORE, PTE. LTD

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2018年10月09日

「ブレイン・ゲーム」ホプキンス主演サイコスリラー 着眼点、映像美に注目

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 米連邦捜査局(FBI)特別捜査官のジョー(ジェフリー・ディーン・モーガン)と、若き相棒キャサリン(アビー・コーニッシュ)は連続殺人事件の捜査に行き詰まり、元同僚のジョン・クランシー博士(アンソニー・ホプキンス)に助けを求める。すでに引退した博士だったが、事件に特別な感情を抱き、容疑者チャールズ・アンブローズ(コリン・ファレル)を追跡する──。

 「羊たちの沈黙」(91)のアンソニー・ホプキンスが製作総指揮、主演を務めたサイコスリラーで、いわくつきの作品だ。脚本は当初、デビッド・フィンチャー監督の大ヒット作「セブン」(95)の続編として書かれた。しかし企画は暗礁に乗り上げ、15年に独立作品として作られたものの、米国の配給会社が倒産。曲折を経てやっと日本公開にこぎつけたという。監督はブラジル出身の新星アルフォンソ・ポヤート。原題「Solace」は「慰める、和らげる」を示す。

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 猟奇殺人事件を追う捜査官を描いた「セブン」をベースに、ホプキンス演じる博士が活躍する物語。「羊たちの沈黙」の“レクター博士”から毒気を抜き、心に傷を負わせた印象だ。ポイントは博士が超能力を持つこと。他人の物に触れると過去や未来が見える。さらに連続殺人犯が、博士以上の超能力を持ち、独自理論でターゲットを選び殺害している。

 面白いのは、超能力者同士の対決に、若い捜査官のキャサリンが懐疑的な目を向けていること。精神科医なのでスピリチュアルな力を信じないが、博士と捜査することで、お互いを理解、信頼していく。サイドストーリーとしてうまい隠し味となっている。

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 超能力をビジュアル化するため、一瞬のフラッシュバック映像、「ザ・リング」(98)の呪いのビデオのように意味深なイメージ画像が多用され、独特のテンポを生んでいる。猟奇的な描写、不意を衝くショック演出、カーアクションまで使い、犯人との頭脳戦をテンポよく描く。

 貫録のホプキンスに、モーガンとコーニッシュが好演。ファレルの不気味な演技が後半を支配する。最近サイコスリラーは出尽くした感があったが、着眼点の面白さとスタイリッシュな映像美が際立つ掘り出し物だ。

(文・藤枝正稔)

「ブレイン・ゲーム」(2015年、米国)

監督:アルフォンソ・ポヤート
出演:アンソニー・ホプキンス、コリン・ファレル、ジェフリー・ディーン・モーガン、アビー・コーニッシュ

2018年10月6日(土)、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://braingame.jp/

作品写真:(C)2014 SUPERSENSORY, LLC

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2018年09月11日

「500ページの夢の束」ダコタ・ファニング演じるオタク女子、バスで数百キロを行く 「スター・トレック」愛あふれる異色ドラマ

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 「スター・トレック」が大好きで、関連知識は誰にも負けないウェンディ(ダコタ・ファニング)。趣味は自分で「スター・トレック」の脚本を書くことだった。自閉症の彼女は唯一の肉親の姉・オードリー(アリス・イブ)と離れて暮らし、ソーシャルワーカーのスコッティ(トニ・コレット)の協力でアルバイトを始めた。ある日、「スター・トレック」脚本コンテストがあると知り、ウェンディは渾身の1本を書き上げる。しかし、郵送では締め切りに間に合わず、愛犬ピートと一緒に、ハリウッドまで数百キロの旅に出る──。

 家と職場を往復するだけの「スター・トレック」オタクの女子が、一世一代の長距離移動で目的を達成する物語。監督は障害者の性を描いた「セッションズ」(12)のベン・リューイン。「I am Sam アイ・アム・サム」(01)、「宇宙戦争」(05)など子役でキャリアをスタートさせたダコタ・ファニング。幼い頃が絶頂期で、最近は妹のエル・ファニングの活躍に押され気味。今回は個性的で強烈なキャラクターとして我々の前に帰ってきた。

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 ウェンディは人前では非常に口数が少ないが、脳内ではずっとしゃべり続けている。その様子は主人公のモノローグで表現される。心を許した相手のみと視線を合わせ、他人からは目をそらせる。

 単調な生活の中で、唯一の楽しみはテレビで「スター・トレック」を見て、自分なりの脚本を書くこと。コンテストを知って早速執筆にとりかかり、無事完成するが、郵送では間に合わない。家があるオークランドから製作会社があるロサンゼルスまで、3日かけてバスで届けようとする。勝手に付いてきた愛犬ピートとの道中は、予想通りトラブル続き。多くの人を巻き込んでいく。

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 米国では国民的人気のSFドラマ「スター・トレック」がモチーフなので、「スター・トレック」の設定や登場人物、専門用語を知らないと楽しみが半減するかもしれない。一方、前作「セッションズ」で障害者の性を描いたリューイン監督は、社会的弱者である自閉症者の厳しい現実もきちんと描いている。

 脚本を届けるウェンディは、困難なミッションに立ち向かう「スター・トレック」のクルーのようだ。ウェンディが唯一しっかり視線を合わせる意外な相手、姉オードリーを「スター・トレック イントゥ・ダークネス」(09)に出演したイブが演じるなど、どこまでも「スター・トレック」愛があふれ、異色なハートフルなドラマとなった。

(文・藤枝正稔)

「500ページの夢の束」(2017年、米国)

監督:ベン・リューイン
出演:ダコタ・ファニング、トニ・コレット、アリス・イブ

2018年9月7日(金)、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://500page-yume.com/

作品写真:(C)2016 PSB Film LLC

タグ:レビュー
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2018年09月03日

「MEG ザ・モンスター」ジェイソン・ステイサム、巨大ザメに立ち向かう 王道の動物パニック映画、ベテラン監督で質高く

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 大陸から200キロ離れた海洋研究施設の探査船が、未知の海溝を発見した。しかし、喜びもつかの間、船は消息を絶つ。潜水救助のプロ、ジョナス・テイラー(ジェイソン・ステイサム)は助けに向かった先で、常識を超えたモンスター「MEG」と遭遇する──。ジェイソン・ステイサム主演、ジョン・タートルトーブ監督の海洋パニック映画「MEG ザ・モンスター」。「MEG」(メガロドン)は、約200万年前に実在した巨大ザメを指す。

 サメの恐怖を描いたパニック映画の元祖は、スティーブン・スピルバーグ監督「ジョーズ」(75)だ。その後、続編が作られたが、質の低下でシリーズは一旦終息する。その後、サメ映画ではレニー・ハーリン監督の「ディープ・ブルー」(99)がスマッシュヒットした。2000年代に入るとCG(コンピューター・グラフィックス)技術の進歩により、サメ映画は安くで作られ、ビデオ映画の定番となった。「メガ・シャーク」など多くの亜流も撮られ、サメ映画はすっかりチープなバッタ物扱いに成り下がった。ところが、ここにきて本命といえる「MEG ザ・モンスター」の誕生だ。

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 巨大サメに立ち向かうジョナスには、「エクスペンダブルズ」(10)などアクション映画で大活躍するジェイソン・ステイサム。タートルトーブ監督は「クール・ランニング」(93)、「ナショナル・トレジャー」シリーズなど、ドラマから娯楽アクションまで幅広いジャンルで活躍。ベテラン監督の起用で、近年のサメ映画では群を抜いたクオリティーに仕上がった。

 幕開けで未知の海溝の発見、巨大生物の恐怖が手際よく描かれる。ジョナスの決断は誤解を招き、仲間と亀裂が発生。ジョナスは現場を去る。「クリフハンガー」(93)などアクション映画で定番の「主人公が冒頭で挫折を味わい、一度は現場から去る」描写だ。後に新たな困難に立ち向かうため、ジョナスは現場に復帰する。お決まりのプロットで潔い構成だ。

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 技術の進歩で「描けないものはない」とされる最近のハリウッド。さすがに体長23メートルの巨大ザメは、あまりに大きく現実味に欠けるが、相手がステイサムならこのぐらいの大きさが必要だろう。ステイサムは元水泳の飛び込み選手。多くの水中アクションをスタントなしで挑み、貫録を見せつけた。

 乗り物のデザインは、リアリティーと未来志向を融合させ、隠し味になっている。ハイテクの結晶が古代生物にかなわない構図で、巨大ザメの不気味さを印象付ける。往年の動物パニック映画のセオリーを受け継ぎながら、実写とCGで王道のドラマを描く。バランス感覚がいい快作だ。

(文・藤枝正稔)

「MEG ザ・モンスター」(2018年、米国)

監督:ジョン・タートルトーブ
出演:ジェイソン・ステイサム、リー・ビンビン、レイン・ウィルソン、ルビー・ローズ、ウィンストン・チャオ

2018年9月7日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://warnerbros.co.jp/movie/megthemonster/

作品写真:(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., GRAVITY PICTURES FILM PRODUCTION COMPANY, AND APELLES ENTERTAINMENT, INC.

posted by 映画の森 at 11:30 | Comment(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする