香港犯罪アクション「コールド・ウォー 香港警察 二つの正義」が10月26日公開される。香港警察の複雑な内部構造と権力対立を、緻密な脚本と演出で描く力作だ。リョン・ロクマン(梁楽民)=写真右、サニー・ルク(陸剣青)=写真左=監督のデビュー作。二人は「香港映画は死んでいない。香港のために作品を撮りたかった」と語った。
香港中心部の繁華街で爆破事件が起き、警官5人が車ごと拉致された。捜査を指揮する「行動班」の副長官・リー(レオン・カーファイ=梁家輝)は、大規模な救出作戦を展開する。人質にはリーの息子も含まれていた。次第に強引になるリーに、「保安管理班」トップの副長官・ラウ(アーロン・クォック=郭富城)は反発。次期長官の椅子をにらみ、現場と事務方のトップ同士が対立を深める一方、二人に汚職捜査機関が嫌疑をかける。
2012年の香港アカデミー賞(香港電影金像奨)で主要9部門を独占。香港では中国語映画の年間興行収入1位、中国でも同5位を記録するヒットとなった。
主なやり取りは次の通り。
ヒントは米大統領選 知恵比べ+アクション
──2008年の米大統領選にヒントを得たと聞く。警察を舞台にした理由は。
リョン:香港ではここ数年、市民の間に政治や体制への不満、不安がたまっていた。香港人はよく自分たちの町を「アジアで最も安全な都市の一つ」と言う。しかし、「今後も現制度は続くのか」「将来も大丈夫なのか」と心配している。香港政府が危機に直面し、内部対立が起きるが、解決されて安全な都市が維持される。僕らは映画を通してそれを示し、彼らを励ましたかった。
──主演2人の起用理由は。
ルク:脚本を書く段階から俳優のイメージが必要だった。警察の副長官ポストといえば、40代後半がいい。考え抜いた末、2人に落ち着いた。レオンの役は警察の実働部隊。常に動いていてパワフル、覇気があるイメージなので、彼に決めた。クォックの役は頭脳部隊。CIA(米中央情報局)であれば情報分析官で、(米人気ドラマ『24 TWENTY FOUR』の主人公)ジャック・バウアーのような人物も想定した。
──参考にしたり、影響を受けた事件や出来事はあったか。
リョン:物語は完全なフィクションだ。脚本を書く段階で、訪れる危機を想像して仮説を立てた。その上で、あんな事件が起きたら警察はどう動くか、警官の友人に意見を聞いた。危機自体は仮説だが、対応は警察の実際の動きとして描いている。
──香港ではこれまで犯罪アクションが多く作られてきた。他の作品と最も異なる点、アピールしたい点は。
ルク:過去に多くの犯罪映画が作られたので、なかなか脚本が書けなかった。ヒントになったのは08年の米大統領選。(民主党で)ヒラリー(・クリントン)とオバマ(現大統領)が頭を使って戦っていた。組織の上層部の知恵比べにアクションを足せば、独自性が出せると考えた。
現場支えて20数年 激動の香港映画界で
──リョン監督は美術、ルク監督は助監督としてのキャリアが長い。映画界に入った経緯は。
ルク:僕は歩き始める前から、父に連れられ映画館に通っていた。家業は繊維関係。80年代以降、香港の繊維産業はどんどん中国に移り、仕事は減っていった。高校を出て働こうと思った時、たまたま新聞で「助手募集」の求人広告を見た。たどりついた先は映画会社の「シネマ・シティ」。配給部署で助手として採用された。しばらくして「君、制作部に入れ」と言われ、いつの間にか現場に出るようになり、今日に至る。高校卒業が85年、映画界入りは89年。長いね。業界でも長老だ(笑)。ここ十数年、香港映画は下り坂で、レベルも落ちていると思うよ。
リョン:最近中国の短文投稿サイトで「香港映画は過去の遺物」とか「もう死んだ」なんて書かれて、すごく腹が立つ(笑)。僕らがまだ撮ってないのに、そんなこと言うなって。僕は94年に(映画会社の)「UFO」に入った。90年代、UFOは良作を多く生んだ。あの頃は美術を勉強した人間なら、現場のつらさをいとわなければ、仕事はいくらでもあった。それから今までずっと美術の仕事だ。
──香港映画は製作本数が減っている。現場の人々が一番苦労していることは。
ルク:(しばらく考えて)先輩たちを批判することになるかもしれないが……映画製作にかかわる人間が、目先のことしか考えないようになった。投資に対する回収を過分に望むようになった。わずかな投資で、10日や15日の短期間で撮影し、利益を求める。するとどうしても品質は下がる。問題は深刻で悪循環を招いている。
リョン:監督になる前のここ1〜2年、繰り返し先輩たちに言われてきた。「撮るなら中国へ行ったほうがいい。市場も大きいし、将来性もある」と。しかし、本当に香港映画に将来はないんだろうか。僕はしっかりした映画を撮り、香港の人たちに見てもらいたかった。今回も結果的に香港でもほかの国でも評価は高く、やればできるじゃないかと感じた。
──製作の初期段階から中国市場を意識しなかったのか。
(二人同時に)考えなかった。香港のために撮ったんだ。
ルク:中国で売ることはまったく考えなかった。社長(プロデューサーのビル・コン=江志強)に脚本を見せたら、「ああ、これは香港映画だな。合作映画にはならないだろう」と言う。その後、社長は「中国でも売れるのでは」と考え始め、現地でいろいろ意見を聞いてきた。中国で売るには脚本段階で当局の審査を受けなければならない。幸い細かい手直しだけで、ほとんど問題なく許可が下りた。
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