2011年04月18日

「香港電影天堂SPECIAL」 黄金期の傑作18本 チョウ・ユンファ、レスリー・チャン、ジェット・リーらの代表作一挙に

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 「男たちの挽歌」(86)から25年。香港映画が最も輝いた時代を振り返る──。香港映画黄金期の傑作を集めた特集上映「香港電影天堂SPECIAL」が4月29日、東京・シネマート六本木でスタートする。上映されるのは1980年代後半から90年代初め、周潤發(チョウ・ユンファ)、張國榮(レスリー・チャン)、李連杰(ジェット・リー)らが主演した18作品。中国返還前夜、爆発的なエネルギーで傑作を量産した香港映画界の勢いを、スクリーンで感じられる貴重な機会だ。

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 目玉となるのは、チョウ・ユンファ全盛期の代表作9本。呉宇森(ジョン・ウー)監督とコンビを組んだ「男たちの挽歌」シリーズ4本が一挙上映され、今やジョン・ウー作品の象徴ともなった二丁拳銃、白い鳩、迫力ある銃撃戦の原点が見られる。共演した狄龍(ティ・ロン)、レスリー・チャン、梅艶芳(アニタ・ムイ)、李修賢(ダニー・リー)らの演技も見ごたえ十分だ。

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 また、80年代前半に起きた“香港ニューウェーブ”の代表作「風の輝く朝に」(84)は、共演の萬梓良(アレックス・マン)、葉童(イップ・トン)とともにみずみずしい演技が光る。乾いた空気とスタイリッシュな音楽が印象的な「友は風の彼方に」(86)。クエンティン・タランティーノ監督のデビュー作「レザボア・ドッグス」(92)の下敷きともされる犯罪映画の傑作だ。

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 当時“黄金コンビ”と呼ばれた鍾楚紅(チェリー・チェン)と共演した「誰かがあなたを愛してる」(87)も見逃せない。チョウ・ユンファの懐の深さ、繊細さが凝縮された1本で、香港映画史に残る傑作恋愛ドラマ。張艾嘉(シルビア・チャン)共演の「過ぎゆく時の中で」(89)は父子の絆を描き、杜h峰(ジョニー・トー)監督がメガホンを取っている。ジョン・ウー監督、レスリー・チャン、チェリー・チェン共演の「狼たちの絆」(91)は、フランスを舞台にしたアクション娯楽作。3人の呼吸がぴたりと合い、テンポのいいかけ合いも楽しい。

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 ジョン・ウー監督作品では、“異色の1本”と呼ばれる「ワイルド・ブリット」(90)もお目見えする。梁朝偉(トニー・レオン)、張学友(ジャッキー・チュン)、李子雄(レイ・チーホン)演じる香港の若者3人が、ベトナム戦争に巻き込まれる人間ドラマ。友情、愛、裏切りをテーマに、戦場の狂気と無情をあぶり出す。3人の好演も助けとなり、ずしりと手ごたえを感じさせる1本。

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 アクション、時代劇にも見逃せない作品がずらり。日本でもヒットしたSFファンタジー時代劇「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」(87)も、シリーズ3本が一挙上映される。ヒロインの王祖賢(ジョイ・ウォン)の美貌、レスリー・チャンの愛嬌、独創的なワイヤー・アクションが見事に融合した作品だ。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ天地大乱.jpg ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ天地黎明.jpg

 また、アクション時代劇ブームの先駆けとなり、ジェット・リー&徐克(ツイ・ハーク)監督の代表作ともなった「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」(91)シリーズ3本も上映。シリーズ最高傑作と呼ばれる第2作の「天地大乱」(92)では、「イップ・マン 葉問」「孫文の義士団」などで今も絶好調の甄子丹(ドニー・イェン)との一騎打ちが見ものだ。さらにジェット・リーと金城武が顔を合わせた「冒険王」(96)、往年の大スター・王羽(ジミー・ウォング)のカンフー・アクション「片腕ドラゴン」(72)も上映される。

(文・遠海安)

「香港電影天堂SPECIAL」は、4月29日〜6月3日にシネマート六本木、5・6月にシネマート心斎橋で開催。上映スケジュールなど詳細は公式サイトまで。

http://www.cinemart.co.jp/theater/hongkongmovie/

作品写真:c 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.  
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2010年12月13日

「カンフーサイボーグ」 懐かしくもチープ 香港SF&アクション・コメディー

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 西暦2046年。政府が開発した“サイボーグ警官K1”を預かるはめになった村の警察署長、タイチョン。彼にとっても、K1にとっても退屈な日常が変わっていく。そこへ人間的な思考を持つ新型サイボーグK88が出現。思いもよらない事態に発展する。カンフー&アクションで知られる香港と、年間約400本もの新作を生み出す中国がタッグを組み、見たことがないSF&カンフーアクション映画を完成させた。王家衛(ウォン・カーウァイ)監督の「恋する惑星」「天使の涙」を製作し、周星馳(チャウ・シンチー)主演で「チャイニーズ・オデッセイ」を監督した劉鎮偉(ジェフ・ラウ)がメガホンを取っている。

 時代設定は2046年だが、見た目は現代と変わらない。観客は強引な設定、作り手のルールに素直に乗る必要がある。目玉となるサイボーグも、黒革ジャンに黒シャツ、黒ジーンズで、「ターミネーター」の“シュワルツェネガー風”。中身は「A.I.」でジュード・ロウが演じた“色男ロボット”にリーゼントのカツラをかぶせたようなショボイ人間型。思わず脱力してしまう。K1を演じるのは香港の人気アイドル・方力申(アレックス・フォン)だ。前半は人物紹介に加え、警察が舞台のコントのような展開が続き、サイボーグ・アクションを期待して来た観客は、しばらく我慢する必要がある。

 指先と背中から小さなジェット・エンジンが現れて空中に飛び上がったり、指先から麻酔注射を発射したり、K1は小出しに隠し技を披露する。しかし、本領発揮はK88と戦う時。自転車からバイクに変わり、最終的にはメタリックに輝くアンドロイド型サイボーグへトランスフォーム。ブルース・リーばりのヌンチャク技を披露する。対するK88もメタリックボディーにトランスフォーム。巨大な剣でK1と派手な一騎打ちを繰り広げる。戦いに巻き込まれたタイチョンは、K88の巨大な剣で命を落としてしまう。

 映画の乗りは基本的に香港コメディー。サイボーグを題材にしているだけに、コンピューター・グラフィックス(CG)を駆使したメカニックやアクションは、意表をついて頑張っている。ある物体からロボットへのトランスフォームは、「トランスフォーマー」シリーズの亜流だが、使われる武器がヌンチャクや剣なのは、香港&中国映画の伝統を引き継いで新鮮だ。最後に登場する巨大ロボットに至っては、“キョンシー・ロボット”。懐かしさで笑ってしまう。

 なんでもありの世界観は、さまざまな作品に影響を受けているようだ。中盤で効果的に使われるスローモーションは「告白」の中島哲也監督風、サイボーグになったタイチョンの変貌は、ジム・キャリー主演「マスク」風。ジェフ・ラウ監督は世界中の作品を吸収しているのだろう。香港や中国の歌や芸能ネタも盛り込み笑いにつなげているが、アジア芸能通でない一般人にはちょっとつらい。

 K1に惚れる女性警察官のムイと、父親代わりに彼女を育てたタイチョンとの三角関係がサイド・ストーリー。ムイに片思いするコン先生、ムイの妹のソウチンが入り乱れ、恋愛に花を咲かせる。香港コメディーらしいベタな展開に、苦笑しながらニンマリしてしまう。ハリウッド作品と比べると酷で、非常にチープな仕上がりなのは否めない。しかし、チープさが逆に心地よく、元ネタがすぐに分かる引用には、香港&中国映画のしたたかさを感じるものの、許せてしまう。まったく得な作品である。

(文・藤枝正稔)

「カンフーサイボーグ」(2009年、香港)

監督:劉鎮偉(ジェフ・ラウ)
出演:方力申(アレックス・フォン)、胡軍(フー・ジュン)、呉京(ウー・ジン)、曾志偉(エリック・ツァン)

2011年1月22日、シアターN渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.takeshobo.co.jp/sp/kungfu/

作品写真:(c) 2010 National Arts Films Production Limited
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2010年03月13日

「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」 杜h峰(ジョニー・トー)監督が語る

大阪アジアン映画祭で日本初上映 「アリディに初めて会った時、彼は孤独感を漂わせていた」

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 アジアの最新作、話題作を紹介する「大阪アジアン映画祭2010」が、14日まで大阪市で開かれている。初日の10日には香港映画「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」(5月日本公開)がオープニング作品として上映され、杜h峰(ジョニー・トー)監督が舞台あいさつ。主役に起用したフランス人俳優、ジョニー・アリディについて「彼から多くのことを学んだ」と語った。

 「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」は、「ザ・ミッション 非情の掟」(99)、「エグザイル 絆」(06)に続き、トー監督が“復讐シリーズ”と銘打つ三部作の最終作。マカオを舞台に、娘家族を殺された男(ジョニー・アリディ)が、復讐のため犯罪組織と対峙する姿を描く。上映に先立ち、トー監督が記者会見。「(アリディに)初めて会った時、彼は孤独感を漂わせていた。主役にぴったりだと思った」と話した。

 会見での主なやり取りは次の通り。

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2010年03月03日

杜h峰(ジョニー・トー)監督に聞く 香港映画の未来

「レトロ、社会問題、警察アクションが生き残りのカギ」

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 香港の映画監督、杜h峰(ジョニー・トー)が、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2010」オフシアター部門の審査委員長を務めた。期間中は一般向けのトークショーをしたり、若手の映画人を連れて食事に行ったり、積極的に参加者と交流したトー監督。多くの監督が中国本土に向かう中、香港に残って精力的に作品を発表する監督の熱意の源はどこにあるのか。「映画の森」がインタビューした。

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 ――若手監督の登竜門であるオフシアター部門で日本と韓国の9本を審査したが、審査を終えた感想は。

 レベルは全体的に高かった。今回は日本と韓国の9作品だけだったが、日本映画のイメージ通りの悲観的な作風のものが多かった。若者は社会の変化に伴って変わるものなので、日本社会があまり変化していないのではないかという印象を受けた。日本は香港を長い間リードしており、映画でも1950年代の「東京物語」(小津安二郎監督)や90年代の「ラブレター」(岩井俊二監督)、2000年代の「リング」(中田秀夫監督)など、時代ごとに特出した作品を生んできた。だが、今回のノミネート作にはそういうものはなく、どこかで見たことのある伝統的な素材、手法の作品が多かった。

 一方、韓国の2本は韓国映画に多いシリアスな作風のものではなく、楽しく不思議なコメディーだった。韓国の若者の変化を感じた。

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2009年11月12日

都市生活の暗部照らす 許鞍華(アン・ホイ)監督「夜と霧」

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 許鞍華(アン・ホイ)監督の新作「夜と霧」は、実際に起きた“一家無理心中”事件を題材に、救いのない夫婦関係を描いた作品だ。

 香港郊外のニュータウン・天水圍に住む4人家族。香港出身の夫は無為徒食。四川の田舎出身の妻はウェイトレスをしながら生活費を稼いでいる。夫には妻子がいたが、深センで水商売をしていた現在の妻と恋愛の末、妊娠をきっかけに結婚した経緯がある。

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