2014年11月02日

「祝宴!シェフ」チェン・ユーシュン監督に聞く 「台湾の素晴らしい食文化、知ってほしい」

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 台湾映画「祝宴!シェフ」が2014年11月1日公開された。1990年代、「熱帯魚」(94)、「ラブゴーゴー」(97)などのヒットを飛ばしたコメディーの名手、チェン・ユーシュン(陳玉勳)監督16年ぶりの新作だ。今回のテーマは料理。伝説の料理人を父に持つ娘が、究極のメニューを追う姿を描く。監督は「台湾には素晴らしい文化が残ってることを知ってもらいたかった」と語った。

 台湾ではかつて祝い事があると「総舗師(ツォンポーサイ)」と呼ばれる料理人が出張。屋外宴会「辦桌(バンド)」を取り仕切ったという。料理人は調理器具のみを持参。与えられた食材、宴会のテーマでメニューを考え、出席者と主催者を満足させた。今回の作品の舞台は南部の町・台南。数々の美食が笑いとともに登場し、台湾料理と文化を一度に味わえる映画となっている。

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 ──台湾伝統の食文化の一つ「バンド」を取り上げた理由は。

 私も小さいころ、よくバンドの祝宴に連れて行ってもらった。当時の台湾は今のように豊かではなく、ごちそうを食べる機会もあまりなかったが、祝宴がある時はおいしいものをお腹いっぱい食べられた。バンドには自分自身の幼いころへの郷愁、懐かしい気持ちが反映されている。今の台湾はいろいろなことが統一化され、レストランも増え、出張料理の習慣も衰退しつつある。台湾には素晴らしい文化が残ってることを、みなに知ってもらいたかった。

 ──個性的で楽しい料理人がたくさん登場する。モデルは特にいるのか。

 私の想像が生んだキャラクターだ。彼らの姿を借り、映画界で出会ってきた先輩、監督たちを描写したかった。

 ──具体的にどんな監督たちか。

 いろいろな人物を混ぜてつくった。ホウ・シャオシェン(侯孝賢)、エドワード・ヤン(楊徳昌)、アン・リー(李安)、ワン・トン(王童)、ワン・シャオディー(王小棣)、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)……彼らが映画界に果たした功績に敬意を込めて描いた。私は長く劇映画から遠ざかっていたので、今回はいろいろな困難があった。主人公の女性は出会った人たち、先輩の心意気と腕を借りながら夢に近づいていく。私も彼女と同じ。映画界の大先輩の経験を借りて、一つのことを成し遂げたいと思った。

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 ──喜劇をずっと撮っているのはなぜか。

 コメディーばかり撮る監督と思われたくないんだ。最初ワン・シャオディー監督の会社に入りコメディーに出合った。助監督としてついたツァイ・ミンリャン監督の初期作品もコメディーだった。CMを撮るようになり、ほとんどがコメディー・タッチだった、習慣的にそうなり、周りからも「喜劇の監督」と言われるようになったが、ほかのジャンルも撮りたいと思っている。

 ──新作まで16年も開いた理由は。

 「ラブゴーゴー」の後に台湾経済が低迷し、映画業界も不景気になった。私の気持ちにも影響した。どんな脚本を書けば観客が見てもらえるか分からなくなった。当時脚本を2本書いたが「受け入れらないだろう」と思い、自分の道が見えなくなった。そこで「ちょっとCMを撮ってみよう」と思った。2、3年CMのディレクターをやればいいと思ったら、いつのまにか16年たっていた。

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 ──台南を紹介する作品でもある。作品を見て「行ってみたいな」と思う日本人も出てくると思う。監督からみた台南の魅力は。

 台湾は一つの色に決められない国。地方それぞれに特色があり、台南といえば誰もが食べ物を思い出す。伝統ある古い街で、日本の京都のよう。軽食の種類が多く有名だ。台南と食べ物は切っても切り離せず、中でもアナゴの炒めものが名物。人情味のある土地柄で、人々は親切。ロケ撮影の半分は台南だったが、地元の人たちはとても協力的でいろいろ助けてもらった。

 ──今後はどんなテーマを撮りたいか。

 ブラック・コメディーを撮ってみたいとずっと思っているが、まだ脚本を書けていない。武侠もののコメディーなどいろいろな撮影依頼も受けている。現在検討中だ。

(文・遠海安)

「祝宴!シェフ」(2013年、台湾)

監督:チェン・ユーシュン(陳玉勳)
出演:リン・メイシウ(林美秀)、トニー・ヤン(楊祐寧)、キミ・シア(夏于喬)、ウー・ニエンチェン(呉念真)、クー・イーチェン(柯一正)

2014年11月1日(土)、シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://shukuen-chef.com/

作品写真:(C)2013 1 PRODUCTION FILM COMPANY. ALL RIGHTS RESERVED.

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2014年10月22日

台湾ドラマ「僕らのメヌエット」 ラン・ジェンロン来日会見 「作品の温かさ伝えたい」

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 台湾ドラマ「僕らのメヌエット」(2015年1月16日DVD発売)主演の俳優ラン・ジェンロン(藍正龍)、脚本家のシュー・ユーティン(徐誉庭)が2014年10月21日、東京都内で記者会見した。ラン・ジェンロンは「作品の温かさが見る人に伝わってほしい」と語った。

 「僕らのメヌエット(原題:妹妹)」は、チェン・ボーリン(陳柏霖)主演「イタズラな恋愛白書 In Time With You」、「台北ラブストーリー 美しき過ち」などのヒット作を飛ばし、台湾で“恋愛ドラマの女王”と呼ばれるシュー・ユーティンの最新作。ラン・ジェンロンは長澤まさみが主演した台湾ドラマ「ショコラ」の相手役などで知られている。

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 幼なじみの男女による不器用で切ない恋を描いた今回の作品。ラン・ジェンロンは「シューさんとは知り合って10年以上になるが、一緒に仕事をするのは初めて。脚本が気に入って出演を決めた」と語った。シュー・ユーティンは「最初から主役は彼と決めていた。とても繊細な俳優で、常に100%以上の気持ちを込めて演技をしてくれる」と絶賛した。

 登場人物の心の揺れを的確にとらえ、印象的なせりふにも人気が高いシュー・ユーティン。今回初めて製作も兼務した。「脚本家としての私は厳しい人間。プロデューサーにもこだわりを求めるため、現場では苦労をかけてきた。今回はテレビ局の上層部から『自分でやってみたら』と提案されて引き受けた。現場のつらさがよく分かった」と振り返った。

 ラン・ジェンロンは、北村豊晴監督の映画「おばあちゃんの夢中恋人」(13)に続き、アンバー・アン(安心亞)との共演となった。脚本を読んだ時は海外で演技の勉強中で、気分的に落ち込んでいたそう。主人公が困難に直面する姿に「情が移った」という。「人生は山あり谷あり。いろいろなことを乗り越え、今以上の自分を探し出せるのでは。現場では演技の楽しさを再発見できた。作品の温かさが見る人に伝われば」としみじみと話していた。

(文・遠海安)
タグ:記者会見
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2014年09月05日

「郊遊 ピクニック」 引退表明から1年、最後の長編 ツァイ・ミンリャン監督に聞く 「映画上映に革命を」

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 台湾映画界の巨匠、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督最後の長編作品「郊遊 ピクニック」が2014年9月6日公開される。突然の引退表明から1年。新たな表現の道を探る監督は「若い人に作品を観てほしい。映画上映に革命を起こしたい」と語った。

 昨年秋のベネチア国際映画祭。突然の引退表明は内外に波紋を呼んだ。まだ50代で働き盛り。「郊遊」は同映画祭で審査員大賞を獲得した。監督は発言を振り返る。「映画作りは神が定めた運命と思ってきた。しかし、もう創作意欲が湧いてこなくなった」。ビジネス優先の映画界に疲れたという。「郊遊」で「十分納得いくものができた」とも感じていた。

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 デビューから20年あまり。集大成となる「郊遊」の主演は、長編10作品すべてに出演した盟友、リー・カンション(李康生)だ。リーは子供二人をもつ男を演じる。男は不動産広告の看板を持ち、1日中幹線道路に立つ。子供たちはスーパーの試食で空腹を満たす。すみかは薄暗い空き家。3人は公衆トイレで体を洗い、薄汚れた寝床で寄り添って眠る。そこへ3人の女がからむ。彼らの行動の理由も、関係性も説明されない。時系列も判然としない。都会の孤独と愛への渇望。無駄が極限まで削られ、観る者の数だけ解釈が生まれる作品だ。

 「映画の固定観念を捨てられるようになった。物語、せりふ、音楽。さまざまな形式を捨てた。すべての焦点をリーの顔に絞った」

 娘が買ってきたキャベツを、男がむさぼるシーンがある。キャベツには人の顔が描いてある。胸に抱き寄せ、ばりばりと食べる。涙を流す。そこには監督とリーの20年があった。

 「彼の顔は時間の概念だ。ある物体が被写体になり、私はそれを撮ってきた。彼の演技は、演技を捨て去っている。彼は20年間キャベツを食べ続けた。それがあのシーンに凝縮されている」

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 長編映画製作からは引退するが、創作意欲は衰えていない。リーは静かに言った。「たまたま体調が悪かったので、『これで最後にする』と言ったのだと思う」。その証拠に、監督はリーを主演に新たな短編シリーズを撮り始めた。題名は「ウォーカー」。世界各地を舞台に、ただ「歩く」リーをカメラに収めている。

 新しい映画上映の方法も模索中だ。作品を美術品として、美術館で展示上映する。監督は打ち切りを心配せず「じっくり観客に作品を見せられる」と説明する。8月初めにはリー主演で舞台「玄奘」も上演した。

 「新しい観客を発掘したい。若い人にはチケットを安く設定し、繰り返し来られるようにする。美術館でリラックスし、自由に観てもらいたい。美術館で上映することで、映画の革命を起こしたいんだ」

 ツァイとリーの挑戦は続いている。

(文・写真 遠海安)

「郊遊 ピクニック」(2013年、台湾)

監督:ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)
出演:リー・カンション(李康生)、ヤン・クイメイ(楊貴媚)、ルー・イーチン(陸奔静)、チェン・シャンチー(陳湘[王其])

2014年9月6日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.moviola.jp/jiaoyou/

作品写真:(C)2013 Homegreen Films & JBA Production

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2014年07月20日

第16回台北映画祭、グランプリに社会派ドキュメンタリー「不能戳的秘密2:國家機器」 長編劇映画賞に「迴光奏鳴曲」

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 台湾の第16回台北映画祭は2014年7月19日、台北市内で台湾映画を対象とした「台北映画賞」の授賞式を開き、グランプリにドキュメンタリー映画「不能戳的秘密2:國家機器」、最優秀長編劇映画賞に「迴光奏鳴曲」などを選んで閉幕した。

 「不能戳的秘密2:國家機器」は鳥インフルエンザ感染拡大をめぐり、政府・官僚によるデータの不正操作、情報隠ぺいを告発する。リー・フイレン(李恵仁)監督はテレビ局記者出身。08年からフリージャーナリスト、映画監督として調査報道を続けている。「独立メディアの精神を守り、勇気をもって政府・官僚の腐敗を伝えた。台湾社会の暗部を浮かび上がらせた」ことが評価された。

 「迴光奏鳴曲」は、青春映画「藍色夏恋」、コメディー「祝宴!シェフ」などの撮影を担当したカメラマン、チエン・シャン(銭翔)監督の長編第2作。南部・高雄に暮らす平凡な主婦の孤独を描く。主演のチェン・シャンチー(陳湘h)は最優秀主演女優賞を獲得。審査員は「家族や社会から隔絶された中年女性の寂しさを、細やかな描写で映し出した」と評価した。

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 主演男優賞は日本で8月下旬公開されるツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督の引退作「郊遊 ピクニック」のリー・カンション(李康生)。主演女優賞のチェン・シャンチーとは同作で共演。蔡監督作品の常連俳優二人は、トロフィーを手にそろって笑顔を見せた。

 台湾の高校が甲子園で準優勝した物語「KANO 1931 海の向こうの甲子園」(2015年1月24日日本公開)は観客賞、最優秀助演男優賞(ツァオ・ユーニン=曹佑寧)の2部門を受賞。マー・ジーシアン(馬志翔)監督は「自分の子供が受賞したようにうれしい」と笑顔を見せた。

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 さらに「藍色夏恋」以来12年ぶりの新作「行動代號:孫中山」を発表したイー・ツーイェン(易智言)監督が最優秀脚本賞、ミャンマー出身で台湾で活動するジャオ・ダーイン(趙徳胤)監督が最優秀監督賞を獲得した。

 ほか受賞結果は以下の通り。

・最優秀ドキュメンタリー賞
「不能戳的秘密2:國家機器」

・最優秀短編映画賞
「神算」(陳和榆=チェン・ハーユー監督)

(文・写真 遠海安)

タグ:台北映画祭
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2014年07月11日

日台合作映画「南風」コウ・ガ(黄河)に聞く 「いろいろな場所で人に会い、演技に反映させたい」

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 日本と台湾の合作青春映画「南風」が2014年7月12日公開される。台湾を訪れた日本人女性が人々や風景に触れ、行くべき道を見つけるロードムービー。旅先で出会う青年役で出演した台湾の若手俳優コウ・ガ(黄河)は「いろいろな場所へ行き、人に会い、経験を演技に反映させたい」と意欲を語った。

 夏の台湾を駆け抜ける自転車青年。爽やかな雰囲気が印象的なコウ・ガは現在24歳。台湾人の父とシンガポール人の母の間にシンガポールで生まれ、台湾で成長した。名作「藍色夏恋」(02)の易智言(イー・ツーイェン)監督に見出された期待の若手俳優だ。チェン・ボーリン(陳柏霖)、グイ・ルンメイ(桂綸鎂)、ジョセフ・チャン(張孝全)ら新人俳優を発掘してきたイー監督との出会いは、中学卒業を控えた頃だったという。

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 「監督との出会いを話し始めると、少し長くなります(笑)。友達の一人がモデルをしていて、路上でたまたま監督に会いました。その子は女の子だったけれど、『監督が男の子を探しているから』と、ドラマのオーディションに誘われました。半年ぐらい訓練して候補が減らされていき、最終的に僕が主演になりました」

 その作品がドラマ「危険心霊」(06)。今回「南風」で共演したテレサ・チー(紀培慧)、公開中の映画「GF*BF」(12)のチャン・シューハオ(張書豪)も出演していた。中学時代はごく普通の子で、将来もよく考えず「自分がどこへ向かうか分からなかった」という。ただ絵を描くことは好きで、子供の頃から今まで続けている。「日本の宮崎駿や大友克洋の作品も大好き」と笑顔を見せた。その後、台湾芸術大学でデザインを専攻。最近卒業したばかりだ。

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 「俳優の仕事はとても好きです。芸術的な表現だから。外に行っていろいろな人と会って話したり、あちこち出かけて絵を描くのも好き。日本も2度旅行して、美術館や博物館へ行きました。本もよく読みます。俳優は生活で得た経験を演技に反映させるべきだと思います」

 中国の大河と同じで印象的な名前は本名。父が「人に覚えられやすいように」と付けたそうだ。日本との合作映画「南風」への出演も、俳優として貴重な経験になった。もともと自転車に乗るのが大好きで、迷いなくオーディションに参加した。最大のハードルは言葉だったが、日本側のスタッフと話し合いを繰り返し、乗り越えていったという。

 「監督の言うことを正確に聞き取るよう努めました。台湾の監督はどちらかというと俳優に指示、命令することが多いですが、萩生田監督は僕たちとコミュニケーションを取ろうとしていました。監督とよく相談し、納得のいく演技にしていきました」

 「南風」には自分の育った台湾の美しい風景、人情が盛り込まれている。「おすすめの場所は?」と聞くと、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督の代表作「悲情城市」(89)の舞台にもなった「九[●=にんべんに分]」を選んだ。

 「街を歩くのもいいし、山の上から海を見下ろすのもいい。台湾の街中であれば夜市に行ってほしいです。台湾のおいしい食べ物、美しい風景、温かい人情をぜひ体験して下さい」

(文・写真 遠海安)

「南風」(2014年、日本・台湾)

監督:萩生田宏治
出演:黒川芽以、テレサ・チー(紀培慧)、郭智博、コウ・ガ(黄河)

2014年7月12日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.nanpu-taiwan.com

作品写真:(c)Dreamkid/好好看國際影藝
posted by 映画の森 at 09:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする