2013年04月18日

「セデック・バレ」 ウェイ・ダーション監督に聞く 台湾の抗日蜂起・霧社事件 4時間半の大作に 「憎しみをどう解消するか。当時の視点で見つめ、考えてほしい」

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 1930年、日本統治下の台湾。圧政に不満を募らせた原住民セデック族が武装蜂起し、日本人130人以上を惨殺した。日本軍はただちに報復を始め、圧倒的な武力で鎮圧。セデック族ら住民1000人以上が犠牲となった──。

 台湾原住民による大規模抗日暴動“霧社事件”を描いた台湾映画「セデック・バレ」。第1部「太陽旗」、第2部「虹の橋」、計4時間36分の大作だ。魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督は「憎しみをどう解消するか。登場人物がどんな状況に置かれ、なぜあんなことをしたのか。当時の視点で見つめてほしい」と語った。

 主なやりとりは次の通り。

「日本で受け入れられるか不安だった。どうしても完全版を見てほしかった」

 ――昨年の大阪アジアン映画祭で上映され、「観客賞」を受賞した。日本で受け入れられる確信はあったか。

 正直、不安だった。上映中は会場を一歩も離れず、観客の様子をうかがっていた。終了間際にそっとスクリーン脇からのぞいてみると、エンディング・クレジットが流れても、誰ひとり席を立とうとしない。場内が明るくなって、一斉に拍手がわき起こった。ロビーのポスター前では多くの人たちが記念撮影していた。その時「ああ、受け入れてもらえたんだな」と思った。台湾に戻って2日後、観客賞を獲ったと連絡を受けた。

 ――台湾以外では2時間半のインターナショナル版を公開している。日本では台湾と同じ4時間半の完全版だ。

 興行的に見れば4時間半は長すぎる。海外上映用にインターナショナル版を作ったが、日本の観客にはどうしても完全版を見てもらいたかった。映画のテーマは「憎しみをどう解消するか」。それを理解するには、完全版を見る必要があると思ったからだ。

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「人は時代の流れに逆らえない。完全な善人、完全な悪人は出てこない」

 ――日本の観客には作品をどう見てもらいたいか。

 登場人物一人ひとりが置かれた状況を、当時の視点で見つめてほしい。なぜ彼らはあんなことをしたのか。人は時代の流れに逆らえない。この映画には絶対的なヒーローは登場しない。完全な善人も、完全な悪人も出てこない。時代の流れの中で、彼らの行動は避けられないものだった。それを理解し「憎しみをどう解消するか」を考えてもらいたい。

 ――全編にわたり残酷な描写が多い。

 殺りくシーンが多すぎるとは言われた。首をはねる場面が繰り返され「血なまぐさい」と。確かに初めて首狩りを見ると、ぎょっとするかもしれない。しかし繰り返されるうちに慣れてきて、首狩りは原住民の文化だと分かってくる。そうすれば、霧社事件の大虐殺に目を背けることはないと思う。

 「もう少し控えめに描写できないか」という声もあったが、控えめに描いたら霧社事件ではなくなる。霧社事件は血なまぐさいものなのだ。だからこそ、事件が起きる前段階で原住民の文化である「首を狩って、魂を血で洗い清め、虹の橋を渡る」過程を、きちんと紹介する必要があった。

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「借金しながらの撮影。投資者が現れたのは、公開直前だった」

 ――二百数十日間にわたる過酷な環境での撮影で、けが人も続出したと聞く。特に苦労したことは。

 撮影現場はほとんど台湾の山岳地帯だ。人が立っていられないような場所に機材を置き、歩けないような道を俳優は走り抜けなければならない。当然多くの負傷者が出たが、大けがはなく、撮影に支障はなかった。

 時間はたっぷりかけ、人手も注ぎ込んだので、解決できない問題はなかった。苦労したのは資金。製作費は7億台湾ドル(約20億円)かかるのに、投資はゼロ。借金しながら撮影した。何百人もの俳優の給料が2カ月、3カ月払えない。申し訳なさでいっぱいだった。

 山で映画を撮っていることを台湾の人たちは知っていたが、完成していい作品になるとは誰も思っていなかった。だから投資してくれない。それが最大のプレッシャーで最大の困難。ようやく投資者が現れたのは、映画の公開直前だった。

 ――ジョン・ウー監督が共同製作者に名を連ねている。

 映画全体のコンセプト作りや技術面で、ウー監督は大きな力になってくれた。特にアクション撮影ではさまざまなアドバイスをもらい、とても力になった。

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「次は3本同時撮影。400年前の台湾を、3つの視点で描きたい」

 ――次作の予定は。

 来年の今ごろには新作準備に入っていると思う。3本同時にクランクインする。400年前の台湾を3つの視点で描く作品だ。第1がオランダ人の視点。第2が漢民族の海賊の視点。第3が台湾の平地に暮らす原住民の視点。それぞれ台湾に縁の深い生物を絡める。

 オランダ人は“蝶”。華麗に登場するが、寿命は短い。わずか30年で島から姿を消した。漢民族の海賊は“鯨”。本来は海で生活する人々だ。平野に暮らす原住民は“鹿”。いにしえの台湾は平野に芝が繁り、鹿が多く生息していた。鹿の群れが消えた時、平地に暮らす原住民も消えてしまった。

 3本ともオランダ人の到来で始まり、明の鄭成功(てい・せいこう)の上陸で終わる。各作品の登場する人物は関連があるので、同時撮影でコストを削減する。3本別々に見てもいいし、一緒に見てもいい。期待していてほしい。

 撮り終わったころには、私はすっかり老いているだろう。もしかしたら、人生最後の作品になるかもしれない(笑)。

(文・沢宮亘理 写真・遠海安)

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「セデック・バレ」(2011年、台湾)

監督:ウェイ・ダーション
出演:リン・チンタイ、ダーチン、安藤政信、マー・ジーシアン、ビビアン・スー、木村祐一、ルオ・メイリン、ランディ・ウェン

4月20日、渋谷ユーロスペース、吉祥寺バウスシアターほかで全国順次公開。「第一部:太陽旗」「第二部:虹の橋」同時上映。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.u-picc.com/seediqbale/

写真2:現在の霧社。静かな山あいの村だ=いずれも台湾・霧社で2012年9月、遠海安撮影
写真3:霧社事件の現場となった学校跡地
写真4:蜂起を指揮した原住民の指導者モーナ・ルダオの銅像。背後に抗日蜂起記念碑が見える
作品写真:(C) Copyright 2011 Central Motion Picture Corporation & ARS Film Production ALL RIGHTS RESERVED.
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2013年03月09日

「セデック・バレ」 ウェイ・ダーション監督×ダーチン来日会見 台湾の大規模抗日蜂起・霧社事件を映画化 「異なる価値観を認め、真摯に向き合った時、互いを理解できる」

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 日本統治下の台湾で起きた大規模武装蜂起「霧社事件」を描いた台湾映画「セデック・バレ」のウェイ・ダーション(魏徳聖)監督と俳優のダーチン(大慶)が3月5日、東京都内で記者会見した。ウェイ監督は「さまざまな民族が集まった台湾には、“虹色の価値観”がある。異なる価値観を認め、真摯に向き合った時、互いを理解できる」と語った。

 「セデック・バレ」は2部構成、計4時間36分の大作。大ヒット作「海角七号 君想う、国境の南」(2008)のウェイ監督が構想に十数年、製作費約20億円を費やし完成させた。製作はジョン・ウー(呉宇森)監督。日本から安藤政信、木村祐一らのほか、ビビアン・スーらも出演。蜂起の中心となった台湾原住民セデック族の文化や家族愛、葛藤を通し、民族の誇りと命の尊厳を問う物語だ。

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 会見の主なやり取りは以下の通り。

「当時の背景や制度、膨大な資料で調べた」

 ──日本公開を控えた今の気持ちは。

 ウェイ監督:私の語りたいこと、視点が受け入れてもらえればうれしい。

 ダーチン:いろいろな面で挑戦した。日本の人たちにも気に入ってもらえれば。応援して下さい。

 ──霧社事件について知った時、何を感じたか。

 ウェイ監督:台湾では小中学校の教科書に載っているが、説明は2〜3行程度。たまたまテレビで台湾原住民のニュースを見て、霧社事件を描いた漫画を読んだ。その後、当時の背景や制度を膨大な資料を通して調べた。

 ──歴史にかかわる作品に出演した感想は。

 ダーチン:僕は(台湾原住民の)タイヤル族出身。霧社事件のことはまったく知らなかった。(出演が決まり)一族の年配の人たちに会い、民族独自の文化や信仰について聞いた。先祖の豊かな知恵や、家族や土地を侵入者から守ってきた方法を知った。撮影には使命感をもって臨んだ。

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「存在や信仰の否定、力による文化の強制はだめ」

 ──日本人の俳優、スタッフとの仕事はどうだったか。

 ウェイ監督:台湾側のキャストは原住民の素人を、日本側はプロの俳優を使おうと決めていた。日本人の役は感情の変化をきちんと表現しなければならない。演技のプロで、いわゆる“スター”を起用しようと思った。

 (美術を担当した)種田陽平さんは心も視野も広い人。台湾の映画産業は過去20年間低迷したため、美術面でもブランクがあった。今回は台湾原住民、漢民族、日本人の三つの要素を兼ね備えたセットがほしかった。種田さんはこちらの思いに応え、「『台湾の中にある日本人の町』を作ろう」と言ってくれた。

 ──作品に出てくる「文明」と「野蛮」の概念についてどう考えるか。

 ウェイ監督:一般に文化の力が強いことが「文明的」で、弱いことが「野蛮」だとされ、世の中には文化の強弱が存在する。強い文化に対峙した時、どう衝突を避け、乗り越えるか。力で文化を強制してはならない。

 たとえば私の服が時代遅れで、かっこ悪ければ批判しても構わない。しかし、私の存在や信仰を否定してはだめだ。他者の価値観や信仰を否定した時、衝突が起きるのではないか。絶対的に良い文化などない。異なる価値観を認め、真摯に向き合った時、互いを理解できるのではないか。

「ビビアンはノーギャラ。現場でも和気あいあい」

 ──安藤政信、ビビアン・スーの印象は。

 ビビアンはタイヤル族出身。出演を即答で快諾してくれた。出演料はゼロだったうえ、製作資金の一部まで出してくれた。現場でもスター然とせず、スタッフとおしゃべりしたり、食事を一緒にしたり、和気あいあいとしていた。

 安藤さんとは役柄について時間をかけ、きちんと話し合った。出演が決まったら後は全力投球。セデック族出身で日本に留学している学生を探し、言葉や文化を3カ月かけて学んでくれた。台湾に来た時もマネージャーなしでたった1人。撮影がない時はあちこち歩き回り、写真を撮ったり、おいしい茶葉を買ったりしていた。私からみると不思議な日本人だった(笑)。

「台湾には“虹色の価値観”がある。政治・経済的理由で壊さないで」

 ──台湾には(戦後大陸から渡ってきた国民党系の)外省人、(戦前から台湾に住んでいた福建系の)本省人、原住民とさまざまな人々がいて、価値観も多様だ。作品にはそんな現状に関連したメッセージを込めたのか。

 もちろんだ。台湾は最も“混乱した価値観”がある場所だと思う。多様な価値観を大事にしつつ、さまざまな民族が暮らしている。台湾の人々は過去100年、体制が変わるごとに新たな秩序を見出してきた。私は前向きに、より良き方向へ、ロマンをもって物事を考えたい。

 今の台湾には“虹色の価値観”がある。それぞれのグループが個性やカラーを持ち、台湾独自の価値観を形作っている。台湾の価値観が政治や経済的理由で破壊されたり、影響されることは避けてほしい。

(文・遠海安)

「セデック・バレ」(2011年、台湾)

第1部「太陽旗」(144分) 第2部「虹の橋」(132分)

監督:ウェイ・ダーション
出演:リン・チンタイ(林慶台)、ダーチン(大慶)、安藤政信、マー・ジーシアン(馬志翔)、ビビアン・スー(徐若瑄)、木村祐一、ルオ・メイリン(羅美玲)、ランディ・ウェン(温嵐)

4月20日、渋谷ユーロスペース、吉祥寺バウスシアターほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.u-picc.com/seediqbale/

編集部注:台湾では先住民族の呼称として「原住民」を使用している。中国語で「先住民」と表記した場合、「すでに滅んだ民族」の意味になるため。台湾憲法も「原住民」と規定している。
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2012年09月07日

「ハーバー・クライシス 湾岸危機 Black & White Episode 1」 アイデア満載、新次元台湾アクション映画

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 台湾の大都市、ハーバー・シティの南署特捜課のウー・インション(マーク・チャオ)は、正義感の強い新米刑事だ。現金輸送車強奪事件を解決するものの、行き過ぎた行動で停職処分を食らう。一方、犯罪組織・三連会の構成員シュー・ダーフー(ホァン・ポー)は、ダイヤモンド密売で一攫千金をもくろんだが、謎の武装集団が取引現場を急襲。ダイヤが入ったアタッシュケースに、大量破壊兵器の秘密が隠されていたのだ。一方、ある殺人事件を追い現場に来たインションはダーフーを救出。裏にある真実を探り出そうとする──。

 2009年度、台湾で視聴率1位を記録したアクションドラマ「ブラック&ホワイト」。プレイボーイと熱血刑事、相性最悪のコンビがを捜査に突き進む姿を、アクション満載で描いた。映画ではドラマ版で熱血刑事を演じたマーク・チャオが再びインションを演じ、相棒には中国の人気コメディアンで俳優のホァン・ポーが抜擢。舞台はドラマ版の3年前のハーバー・シティ。サブタイトルに「Black & White Episode 1」が付けられた 。監督はテレビ版を大ヒットに導いたツァイ・ユエシュン。今回が劇場映画デビューとなる。

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 総製作費3億8000万台湾ドル(約10億円)の大作だけに、ド派手なアクションで幕を開ける。強奪された現金輸送車を追うインションは、先回りして交差する橋の上からダイブ。輸送車の屋根に飛び降りる。ワイヤーアクションをマーク・チャオがノースタントで演じる。犯人と格闘の末、天井から振り落とされ、車の前に落ちたインション。タイヤを打ち抜かれ横転した輸送車がインションの頭上をすり抜けて大爆発。派手なアクションの流れに、作り手のサービス精神を感じてニヤリとしてしまう。

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 新米刑事がソリの合わない容疑者と力を合わせ、事件を解決する設定は、連行中の参考人と犯罪組織に立ち向かう刑事を描いた「ダイ・ハード4.0」に似ている。主人公のワンマンプレーぶりはまさに、「ダイ・ハード」でブルース・ウィリスが演じた主人公ジョン・マクレーンを彷彿させる。危険を顧みず無鉄砲で、捜査本部より一歩先を動く。危ない現場に自ら飛び込み、事件を解決に導く姿は痛快だ。

 ポイントは熱血刑事とお調子者のチンピラが、武装集団の爆弾テロ計画を阻止すること。事件の点から線をたどるうち、本丸にたどり着く二人がスリリングかつ、ダイナミックなアクションで描かれる。インションとダーフーが手錠でつながれたまま悪役と戦ううち、駆けつけた情報局員(SIS)を巻き込む銃撃戦に発展。見せるアクション、ユーモラスな動きを最大限に生かしたシーンだ。アクション監督は「ダイ・ハード4.0」に悪役で出演したほか、多くのリュック・ベッソン作品でスタントを設計し、「アルティメット」シリーズで主役を演じたシリル・ラファエリ。「新少林寺 SHAOLIN」でアクション監督を務めたリー・チュンチーと共に、新次元の台湾アクション映画を作り出した。

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 ハーバー・シティ爆破テロのタイムリミットは36時間。ダーフーを追う三連会の殺し屋、大量破壊兵器の秘密が隠されたケースをめぐって情報局も乗り出し、事件の鍵を握る美女ファン・ニン(アンジェラベイビー)も出現。謎と危険が渦巻く中、インションとダーフーは犯人の行方を追う。ハリウッド映画を意識した大型アクションは、車やヘリコプターのチェイスでは足りず、武装集団はジャンボ機をハイジャック。爆破テロを強行しようとする。そこにインションとダーフーも乗り合わせ、ハーバー・シティの運命は二人の手に委ねられる。

 「48時間」、「リーサル・ウェポン」、「ラッシュアワー」など、ハリウッドでヒットした“バディ映画”のアイデアをうまく取り込み、アクション満載に仕上げた痛快な作品。しかしオリジナル版が150分以上あるのに対し、日本公開版は128分。短縮されたせいか展開が駆け足となり、ダイジェスト版のような仕上がりになってしまったのが残念だ。

(文・藤枝正稔)

「ハーバー・クライシス 湾岸危機 Black & White Episode 1」(2012年、台湾)

監督:ツァイ・ユエシュン
出演:マーク・チャオ、ホアン・ボー、アンジェラベイビー、テリー・クァン、アレックス・トー

9月8日、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.bw-movie.jp/

作品写真:(C)2012 Hero Pictures Corporation Limited. ALL RIGHTS RESERVED.
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2012年07月05日

2012年台北映画祭 国際青年監督賞・最優秀作品賞に「Hanaan」 韓国系ウズベキスタン人、ルスラン・パク監督に栄冠

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 今年で14回目となる「2012年台北映画祭」が、台湾台北市・中山堂をメーン会場に開催されている。コンペティション部門の「国際青年監督賞」授賞式が7月4日行われ、最優秀作品賞は韓国系ウズベキスタン人のルスラン・パク監督作品「Hanaan」が獲得した。パク監督は「今回の受賞を今後の励みにしたい」と語った(作品名はいずれも原題)。

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 今年は7月21日までの期間中、世界各地の約170作品を上映する。「国際青年監督賞」部門には、オープニング作品の「女朋友。男朋友」(楊雅普<с刀Eヤーチェ監督)など12本が出品された。審査員特別賞はトルコ映画「Beyond the Hill」(エミン・アルペル監督)、観客賞は台湾映画「逆光飛翔」(張栄吉監督)が受賞。スペシャル・メンションはいずれも女性監督の作品で、カナダの「Night#1」(アン・エモンド監督)、インドネシアの「The Mirror Never Lies」(カミラ・アンディニ監督)が選ばれた。

「女朋友。男朋友」(右から)張書豪、鳳小岳、桂綸鎂、張孝全.jpg 「逆光飛翔」(右から)張榕容、黄裕翔、張栄吉監督.jpg

 最優秀作品賞を受賞した「Hanaan」はパク監督の長編デビュー作。約3万ドルの低予算で撮影された。韓国系ウズベキスタン人の麻薬捜査官が、上司の裏切りで辞職し、転落する過程を描く。ウズベキスタンの乾いた空気、俳優たちの骨太な演技が印象的な作品だ。審査員は「全編を通して力が満ちあふれ、かつ簡潔で強烈な作品。男性主人公の表現力、監督の演出力が突出していた」と評価した。パク監督は上映後の質疑応答で「俳優には台本を渡さず、現場で状況を説明しながら撮っていた。私は映画をあまり見ないタイプ。特に撮影中は他の作品は一切見ない」と演出手法を話した。

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台北映画祭開幕式典.jpg 映画祭主席の張艾嘉(右)、映画祭大使の謝欣穎.jpg

 授賞式では映画祭主席を務める監督・女優の張艾嘉(シルビア・チャン)がトロフィーを授与。審査員は台湾の王童(ワン・トン)、鄭文堂(チェン・ウェンタン)、韓国のキム・テヨン、中国の王小帥(ワン・シャオシュアイ)、スウェーデンのリューベン・オストルンド監督が務めた。また、初日6月29日の開幕式典には、特集上映が組まれた伊勢谷友介監督も参加した。

(文・写真 遠海安)

写真1:2012年台北映画祭授賞式に顔をそろえた監督・審査員ら=いずれも台北市中山堂で7月4日
写真2:国際青年監督賞・最優秀作品賞を受賞した「Hanaan」のルスラン・パク監督=同
写真3:オープニング作品「女朋友。男朋友」の(右から)張書豪(チャン・シューハオ)、鳳小岳(リディアン・ボーン)、桂綸鎂(グイ・ルンメイ)、張孝全(ジョセフ・チャン)=以下同6月29日
写真4:「逆光飛翔」(右から)張榕容(チャン・ロンロン)、黄裕翔、張栄吉監督=同
写真5:伊勢谷友介監督
写真6:「星空」の林書宇(トム・リン)監督(右)、林暉閔(リン・フイミン)
写真7:開幕パーティーに参加した関係者ら
写真8:映画祭主席の張艾嘉(シルビア・チャン・左)、映画祭大使の謝欣穎(シェ・シンイン)

映画祭の詳細は「2012年台北映画祭」公式サイトまで。

http://www.taipeiff.org.tw/
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2012年04月10日

「台北カフェ・ストーリー」 シアオ・ヤーチュアン監督に聞く 「自分と他人は大切なものが違う。人間の心理的価値描いた」

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 台北の「ドゥアル・カフェ」。明るい日差しがそそぐ店内。気の利いたインテリア。手作りのおいしいケーキ。香り高いコーヒー。店を仕切るのは美人姉妹。姉のドゥアル(桂綸鎂=グイ・ルンメイ)は、おっとりマイペース。妹のチャンアル(林辰唏=リン・チェンシー)は、しゃきしゃき活動派。二人のカフェは、ちょっと変わっている。へんてこなオブジェや、役に立ちそうもないガラクタが、ところ狭しと置かれている。もし気に入ったものがあれば、何か別の物を置いていく代わりに、持ち帰っても大丈夫。あなたの目的がコーヒーでも、“物々交換”でも、私たちのカフェにようこそ。

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 「台北カフェ・ストーリー」は、おしゃれでほんのり温かい、新しい雰囲気の台湾映画だ。キーワードは物々交換。さまざまな人が店を訪れ、1杯のコーヒーとともに時間を過ごし、また自分の場所に戻っていく。ドゥアルもまた、運転中にトラックにぶつけられ、修理代がわりに荷台に満載の花を手に入れた。花はドゥアルの店を飾り、人々の目を楽しませる。蕭雅全(シアオ・ヤーチュアン)監督は語る=写真。

 「友人が買い物へ行く途中に事故にあい、ぶつけた相手が、まさに買おうとしていた物を持っていた。実際に聞いた話がヒントになった。自分が非常に思い入れのある物が、他人の目にはまったく価値のない物に映る。自分が贈られても欲しくないものを、他人が宝物のように大事にしている。私たちが普段よく経験することだ。“人間の心理的な価値”を表現できないか……物々交換がいいのでは、と」

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 人々の手を行き交う物たちは、まるで居場所を探す人間のようだ。

 「その通り。ガラクタやおもちゃは、まだ持ち主が見つかっていないだけ。ドゥアルのセリフにもあったね。『きっとこの町のどこかで、ソファや陶器をなくした人がいる。あるいは探している人がいる。行くべきところへ行っていないだけなんだ』って」

 独創的なストーリーだけでなく、主要キャスト3人の個性も魅力的だ。妹役のリン・チェンシーは映画初出演で、当時20歳になったばかり。初々しさが光る。ドゥアルが恋心を抱くカフェの客には、張震(チャン・チェン)の兄である張翰(チャン・ハン)を起用した。

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 「リン・チェンシーは以前、コマーシャルで一緒に仕事をしたことがあった。妹役を探す時に最初に顔が浮かび、すぐに決まった。チャン・ハンの役は、たくさんの俳優に来てもらって選んだが、彼らの演技を見るのではなく『何か話をしてくれ』と頼んだ。自分の周りで起きた話を聞かせる役だからね。チャン・ハンはなぜかひどく落ち込んでいた。聞くと、数日前に飼い猫が死んだという。会うなりずっと猫の話を続けて、とても感動的だったので彼に決めた(笑)。台湾の舞台あいさつでも、観客に『なぜ彼にしたのか』と聞かれたよ。猫が決め手と話したら、隣に立っていたチャン・ハンが『えっ』と驚いていた。後で言ったんだ。『君の猫に感謝すべきだよ』って」 

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 シアオ監督にとって、「台北カフェ・ストーリー」は10年ぶり2作目の長編映画となる。台湾映画が長い低迷期に入った1990年代、監督は広告業界にいた。東京国際映画祭のシンポジウムでは「僕はなまけものだから、映画を撮らなかった」と冗談めかして話したが──。

「ほんとうに優秀な映像制作者が、映画を撮れず広告の世界にいる」

 「もちろん台湾映画界は不況が続いている。ほんとうに優秀な映像制作者たちが、映画を撮れずに広告の世界にいるのも事実だ。ただ、自分がどうしても撮りたければ、なんとか資金繰りをしたはず。それをしなかったのは、やはり自分の努力が足りなかったのだと思う」

 作り手の考え方もさまざまだ。「モンガに散る」の鈕承澤(ニウ・チェンザー)監督が「娯楽映画でもアイドル映画でも、撮ることに意味がある。1本撮れば次のチャンスにつながるからだ」と話す一方で、「4枚目の似顔絵」の鍾孟宏(チョン・モンホン)監督は「商業映画を撮るつもりはない」と言い切っている。

 「なるほど。私は二人とも付き合いがあるが、その通り考え方はまったく違う。私自身は『これは商業映画、これは芸術映画』と決めつけて考えない。自分が興味のあるテーマで、観客が見たいと思う作品を撮りたいだけ。自分はまったく興味がないテーマだけれと、観客受けのみを考えたものは作りたくない。かといって、自分がとても思い入れあるテーマで撮っているのに、見向きされなければショックだろう。撮ったものを見てくれる人が少しでもいれば幸せ。広く一般受けする映画は保守的になりがちなので、あまり撮りたくはない」

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 自分自身が影響を受けた監督について、ちょっと考えて言った。「やはり侯孝賢(ホウ・シアオシェン)監督だと思う」。「ただし」とすかさず付け加える。

 「強調しておきたいのは、ホウ監督のスタイルに影響されたわけではないこと。映画監督はどんなに偉大な人の影響を受けても、自分はまったく違う個性を持ちたいと思うものだ。私もホウ監督のような作品を撮りたいわけでない。『フラワーズ・オブ・シャンハイ』(98)に助監督として参加した時、学んだことがある。監督は私たちに膨大な資料を準備させた。登場人物の背景から始まり、とにかく徹底的に調べさせた。ただし現場で使われた資料は、集めた量の5%に満たなかった。いまだに私にも当時の習慣が残っている。そういう面でホウ監督に影響を受けた」

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「今の台湾では声を上げて発散でき、理性的で温かいものが求められている」

 2008年、「海角七号 君想う、国境の南」(魏徳聖=ウェイ・ダーション監督)が歴代興行収入記録を塗り替え、台湾映画に追い風が吹き始めた。2010年は年明けから「モンガに散る」が大ヒット。2011年の映画賞「台湾電影金馬奨」では、同作主演の阮經天(イーサン・ルアン)が主演男優賞を獲得。さらに張作驥(チャン・ツォーチ)監督の「愛が訪れる時」(第11回東京フィルメックス出品作)とチョン・モンホン監督の「4枚目の似顔絵」が主な賞を二分した。東京国際映画祭ではオムニバス作品「ジュリエット」で若手の侯季然(ホウ・チーラン)監督が才能の片鱗を見せ、陳玉勲(チェン・ユーシュン)監督が13年ぶりに復活するなど、明るい話題が続いている。“海角七号旋風”を、シアオ監督は振り返る。

 「あんな大ヒットになるとは、想像できなかった。(首を振って)まったく思いもしなかった。個人的な推測だが、今の台湾は政治的に行き詰まり、経済的にも明るい兆しが見えない。市民は『わあっ』と声を上げて発散できる“何か”を求めているのではないか。一方で非常に理性的で、温かいものへの欲求もあると思う」

 現在いくつかのアイデアを抱え、製作に向け準備を進めている。クランクインを見据えて、テーマは二つに絞った。一つは「家族」、もうひとつは「愛情」だ。

 「最近やっと台湾映画と観客の関係がよくなり始めた。あまりに製作費がかかるものを作ろうとすると、かかわる人間が増えすぎ、撮りたいものが撮れなくなってしまう。少し費用を抑えて、こだわって撮るようにしたい。かつ見る人も喜んでくれればうれしい」

 インタビューの最後、思い出したように「もうちょっと話していい?」と付け加えた。

 「ずっと頭にあるのは、是枝裕和監督の作品。『歩いても 歩いても』(08)が大好きで、いろいろ考えさせられている。彼が家族を語る方法は、とても素晴らしいと思う」

(文・写真 遠海安)

「台北カフェ・ストーリー(原題:第36個故事)」(2010年、台湾)

監督:蕭雅全(シアオ・ヤーチュアン)
出演:桂綸鎂(グイ・ルンメイ)、林辰唏(リン・チェンシー)、張翰(チャン・ハン)、中孝介(特別出演)

写真:「台北カフェ・ストーリー」の蕭雅全(シアオ・ヤーチュアン)=東京・六本木で2010年10月27日

4月14日、シネマート六本木で公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.taipeicafe.net/

作品写真:(c)台北カフェ・ストーリー

編集部注:2010年11月21日付記事を一部修正・再掲載しました。
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