2017年07月31日

「ボン・ボヤージュ 家族旅行は大暴走」フランス発、巻き込まれ型爆笑コメディー

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 仏コメディー映画「真夜中のパリでヒャッハー!」(15)のニコラ・ブナム監督が、夏休みのドライブ旅行で一家が繰り広げる騒動を描いた「ボン・ボヤージュ 家族旅行は大暴走」。

 物語はシンプルだ。愛車でバカンスに旅立つ整形外科医の父トム(ジョゼ・ガルシア)と臨月の母ジュリア(カロリーヌ・ヴィニョ)、祖父ベン(アンドレ・デュソリエ)と子供2人の5人家族。車の電子制御システムが壊れ、ブレーキが利かないまま、速度160キロで高速道路を大暴走。次々と降りかかるハプニングを喜劇仕立てで描いていく。

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 大暴走といえば、日本のパニック映画「新幹線大爆破」(75)。速度80キロ以下になると爆発する爆弾が仕掛けられた新幹線。警察と国鉄、犯人グループの駆け引きがスリル満点に描かれた傑作だ。この映画に影響を受けて作られたのがキアヌ・リーブス主演「スピード」(94)。バスに仕掛けられた爆弾をめぐり、警察と犯人の攻防戦が描かれた。

 今回暴走を引き起こすのは、車に登載された最新型電子制御システム。ドライバーなら誰にもが起こり得るトラブルだけに感情移入しやすい。凄いのは実際の高速道路に俳優を乗せた車を走らせ、車内で俳優が演技し、アクションもこなす点だ。コンピューター・グラフィックス(CG)合成全盛の昨今、コメディーだからと手を抜かず、疾走感と説得力を持たせた。

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 家族が乗った車が暴走して物語が動き出し、警官や車のディーラーらを巻き込む「巻き込まれ型コメディー」。予想の一歩先を行く笑いとアイデアが、92分とコンパクトにまとめられている。クライマックスは奇想天外なアクション。笑いを超えて感動を呼ぶ。スケールの大きさ、センスの良さに脱帽だ。

(文・藤枝正稔)

「ボン・ボヤージュ 家族旅行は大暴走」(2016年、フランス)

監督:ニコラ・ブナム
出演:ジョゼ・ガルシア、アンドレ・デュソリエ、カロリーヌ・ビニョ、ジョゼフィーヌ・キャリーズ、スティラノ・リカイエ

2017年7月22日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/bon-voyage/

作品写真:(C)(C)2016 Chic Films – La Petite Reine Production – M6 Films – Wild Bunch

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2017年07月21日

「ローラ」「天使の入江」ジャック・ドゥミ初期の傑作 みずみずしい青春のきらめき

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 「シェルブールの雨傘」(64)で知られるジャック・ドゥミが、1961年に発表した長編デビュー作「ローラ」。「海の沈黙」(47)や「いぬ」(63)の名匠ジャン=ピエール・メルヴィル監督に「真珠の輝きをもつ作品」と激賞されながら、日本では92年に一度公開されたきり。劇場ではなかなか見る機会のなかった貴重な作品だ。

 描かれるのは徹頭徹尾、男女の恋。踊り子のローラをローランが恋し、ローランを未亡人のデノワイエ夫人が恋し、水兵のフランキーをデノワイエ夫人の娘のセシルが恋し、そしてローラは水兵だったミシェルを恋し――。複数の恋が、それぞれ独立して、しかも互いに反響し合いながら進行する。とりわけアヌーク・エーメが二役を演じるローラとセシルの初恋が、それぞれ強い輝きを放って美しい。

 遊園地でフランキーと楽しい時間を過ごしたセシルが、乗り物から降り、ほどけた髪が風になびくスローモーションの場面。ミシェルが帰還し、ローラと再会、仲間の踊り子たちがすすり泣く場面……。印象的なシーンは枚挙にいとまがない。   

 主演は「男と女」(66)のアヌーク・エーメ。撮影はゴダール作品で有名なラウル・クタール。音楽はミシェル・ルグラン。名女優や巨匠たちがみな若く、全編にみずみずしい感覚があふれる作品だ。

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 「ローラ」に続く長編第2作が「天使の入江」。若い銀行員がカジノで出会ったブロンドの美女と意気投合し、一攫千金のギャンブルにのめり込んでいく。勤勉で消極的な生活を送っていた青年ジャンが、友人に誘われカジノを初体験。いきなり大金を稼ぎ出し、ギャンブルの魔力にとりつかれる。

 休暇を取って出かけたニーズのカジノでは、金髪の美女ジャッキーと意気投合。彼女の性的魅力も相まって、みるみるギャンブルに深入りしていく。世間知らずのジャンをそそのかし、持ち金を引き出す魔性の女を演じるのは、すでに大女優の風格が漂うジャンヌ・モロー。熟女の色香をふりまき、青二才のジャンを翻弄する。

 賭けが人生そのものと化しているジャッキーにとって、ジャンは単なる賭博のパートナーなのだろうか。一方、ジャンは、ばくちに夢中なのか、ジャッキーに夢中なのかが、自分でも分からないように見える。すれ違った二人の心が、重なり合うことはあるのか――。

 ギャンブルと年上の女性。それまでの人生にはなかった刺激と魅力に撹(かく)乱されながら、決断たる行動をとる青年ジャンの姿が爽快だ。

 両作品とも特集上映「ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語」で上映。

(文・沢宮亘理)

「ローラ」(1961年、フランス)

監督:ジャック・ドゥミ
出演;アヌーク・エーメ、マルク・ミシェル、ジャック・アルダン、アラン・スコット

「天使の入江」(1963年、フランス)

監督:ジャック・ドゥミ
出演:ジャンヌ・モロー、クロード・マン、ポール・ゲール、アンリ・ナシエ

2017年7月22日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.zaziefilms.com/demy-varda/

作品写真:
「ローラ」(c) mathieu demy 2000
「天使の入江」(c) ciné tamaris 1994

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2017年06月02日

「ザ・ダンサー」モダンダンスの先駆者、19世紀末のパリを彩る ロイ・フラーの半生

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 19世紀末のフランスを舞台に、モダンダンスの先駆者である女性ダンサー、ロイ・フラーの半生を描いた作品。「博士と私の危険な関係」(12)で主演したソーコがロイ、ジョニー・デップの娘リリー=ローズ・デップがライバルのイサドラ・ダンカンを演じる。写真家のステファニー・ディ・ジュースト監督の長編デビュー作だ。

 フランスの田舎に育ったマリー=ルイーズ・フラーは、父の死を機に母が暮らすニューヨークへ向かう。女優を夢見てオーディションを受けるが、地味な外見でなかなか役がつかない。セリフのない脇役のため、ぶかぶかの衣装で舞台に立ったマリー。ところが、演技中のアクシデントをくるくる回るアドリブダンスで切り抜けたところ、観客の拍手喝采を浴び、天才と称される。

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 ダンサーとして開花したマリーの頭には、衣装から照明、舞台装置まで次々アイデアが浮かんだ。芸名を「ロイ」に決めた後、最初の仕事は舞台の幕間5分を使ったダンスだった。長い棒にシルクの布をつけ、幽霊のような衣装でくるくる回る。前代未聞のパフォーマンスは観客を魅了した。そんな才能を見抜いたのはドルセー伯爵(ギャスパー・ウリエル)。ロイは伯爵のお金を拝借し、憧れのパリ、オペラ座を目指す──。

 ロイの生い立ち、創作ダンスの誕生、ライバルのイサドラとの友情。ダンスは汗と涙の結晶であり、命を削り踊る姿はスポ根ドラマに通じる。一方、イサドラはダンサーとして抜きん出た容姿、才能を持ち合わせていた。2人を対比させながらドラマは展開し、イサドラを演じるデップの小悪魔ぶりが物語に弾みをつける。

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 ロイが編み出した創作ダンス「サーペンタインダンス」も見どころだ。体力を使うため3日おきにしか踊れないダンスを、ソーコが躍動感とともに再現する。ロイが弟子たちを率い、森の中で舞い踊る群舞は幻想的。ダンス映画としてビジュアル表現が素晴らしい。ロイの半生を丁寧に描きながら、独創的な激しいダンスで観客の視覚と聴覚を刺激する。俳優の熱演と監督の手腕が光る作品だ。

(文・藤枝正稔)

「ザ・ダンサー」(2016年、仏・ベルギー)

監督:ステファニー・ディ・ジュースト
出演:ソーコロ、ギャスパー・ウリエル、リリー=ローズ・デップ、メラニー・ティエリー、フランソワ・ダミアン

2017年6月3日(土)、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、Bunkamura ル・シネマほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.thedancer.jp/

作品写真:(C)2016 LES PRODUCTIONS DU TRESOR - WILD BUNCH - ORANGE STUDIO - LES FILMS DU FLEUVE - SIRENA FILM

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2017年03月23日

「未来よ こんにちは」夫の裏切りと母の死 ユペール、非凡な演技力

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 フランス、パリ。ナタリーは高校の哲学教師、夫のハインツもやはり哲学教師。2人の子供は独立し、夫婦水入らずの穏やかな毎日を送っている。認知症の母は頭痛の種だが、それ以外は何の問題もない、理想的なカップルのように見える。ナタリーは真面目で誠実な夫と「死ぬまで一緒に暮らす」と思い込んでいた。

 ところがある日、娘がハインツの浮気現場を目撃してしまう。母親か愛人か、どちらかを選ぶよう娘に迫られたハインツは、あっさり愛人を選ぶ。「好きな女性ができたから一緒に暮らすよ」。その瞬間、25年続いた結婚生活にピリオドが打たれる。

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 信じていた夫に裏切られ、怒りがこみ上げるナタリー。だがすぐに気を取り直し、現実を受け入れる。離婚前と変わらず、ナタリーは高校での授業を続け、認知症を患った母親の世話をする。

 そんなナタリーの前に現れたのが、かつての教え子で、今は過激な政治活動にコミットしているファビアンだ。施設に移った母が逝去し、ひとりぼっちとなったナタリーは、ファビアンが仲間たちと暮らすアルプスの山荘へ。ナタリーがファビアンに恋心を抱いていたのか、ロマンチックな一夜を過ごしたのかは微妙。明確な描写のないまま、ナタリーは山荘を去る。

 50代後半のナタリーが経験する、子離れ、離婚、母との死別。そして教え子との微妙な関係。どの局面にあろうと、ナタリーは動揺することも、当惑することもなく、淡々と日々をやり過ごしていくように見える。しかし、それは見かけだけで、内心は大きく波立っているのかもしれない。

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 パリの街角、ブルターニュの海岸、アルプスの山々。映画は、ナタリーをさまざまな風景の中におき、彼女の心象を観客の想像に委ねる。

 泣いたり、叫んだりの熱演はない。それでもスクリーンから目をそらせないのは、ヒロインに扮したイザベル・ユペールの非凡な演技力と、ミア・ハンセン=ラブ監督の演出力によるものだろう。

(文・沢宮亘理)

「未来よ こんにちは」(2016年、フランス・ドイツ)

監督:ミア・ハンセン=ラブ
出演:イザベル・ユペール、アンドレ・マルコン、ロマン・コリンカ、エディット・スコブ 

2017年3月25日(土)、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。26日(日)は上野千鶴子氏と湯山玲子氏によるトークイベントを開催。詳細は公式サイトまで。

http://crest-inter.co.jp/mirai/

作品写真:(c)2016 CG Cinéma ・ Arte France Cinéma ・ DetailFilm ・ Rhône-Alpes Cinéma

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2017年02月28日

「フレンチ・ラン」豪腕CIA捜査官と天才スリ、テロ犯を追い詰める

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 仏パリで起きた爆弾テロ事件を、一匹狼の米中央情報局(CIA)捜査官と若き天才スリがコンビを組んで解決する“バディ・ムービー”「フレンチ・ラン」。

 革命記念日前夜のパリ。天才スリのマイケル(リチャード・マッデン)は、広場の雑踏に全裸の美女を歩かせ、人々が気を取られたすきに財布をかすめ取っていた。同じころ、テロ組織が実行犯の女ゾーエ(シャルロット・ルボン)を使い、ビル爆破を企てる。しかし、女は未遂のまま現場を去る途中、マイケルに爆弾入りのバッグを盗まれる。マイケルは広場にバッグを置き捨て、その後爆発が発生。防犯カメラにはバッグを手にしたマイケルの姿が映っていた──。

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 ジェームズ・ワトキンス監督が目指したのは「1970年代アクション映画」という。クリント・イーストウッド主演「ダーティハリー」(71)、ジーン・ハックマン主演「フレンチ・コネクション」(71)など名作刑事アクションが多い時代だ。一匹狼的な刑事が単独で事件に挑み、生身のアクションで解決する。今回のCIA捜査官ブライヤー(イドリス・エルバ)も同じく、猪突猛進で犯人を追う。アパートの屋根を走り、廊下で犯人と接近戦。肉弾捜査スタイルが印象的だ。

 ポイントはそんなCIA捜査官とスリが即席でコンビを組み、犯罪組織を追い詰めていく点だろう。堅物のブライヤーに調子のいいマイケル。そこへ容疑者として確保した女ゾーエが加わる。テロ組織の「革命記念日にパリを制圧する」目論見を阻止するため、捜査のプロと素人2人が街を走る。

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 爆弾テロで始まった物語は、大勢のパリ市民を巻き込み、大掛かりなクライマックスを迎える。一人テロと戦うストイックなブライヤーは、仏映画「レオン」(94)のジャン・レノ演じる主人公を思い出す。テロ犯の正体、目的にはやや荒っぽさを感じるが、疾走感と謎解きのバランスがいい。ひとひねり加えたオチまで92分間、痛快なバディ・アクションが楽しめる。

(文・藤枝正稔)

「フレンチ・ラン」(2016年、英・仏・米)

監督:ジェームズ・ワトキンス
出演:イドリス・エルバ、リチャード・マッデン、シャルロット・ルボン、ケリー・ライリー、ジョゼ・ガルシア

2017年3月4日(土)、渋谷シネパレスほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

作品写真:(C)2016 Studiocanal S.A. TF1 Films Production S.A.S.All Rights Reserved
posted by 映画の森 at 17:43 | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする