2017年01月21日

「ショコラ 君がいて、僕がいる」パリに実在した芸人コンビ 光と影に満ちた半生

ckl_main.jpg

 20世紀初めのフランスで、実在した白人と黒人の芸人コンビをモデルにした映画「ショコラ 君がいて、僕がいる」。黒人芸人ショコラに「最強のふたり」(11)のオマール・シー、白人芸人フティットにチャールズ・チャップリンの孫ジェームス・ティエレ。今年はショコラの没後100年にあたる。

 地方巡業中のサーカス一座に、ピン芸人のフティットがオーディションを受けに来た。一座には「人食い人種」を名乗り、雄たけびで観客を脅かす黒人芸人カナンガがいた。かつては人気者だったフティットは、再起を目指して声をかけ、二人は舞台で芸を見せるチャンスを与えられる。

ckl_sub1.jpg

 白人と黒人。かつてない芸人コンビに観客は固まる。それを見てこわばるカナンガ。しかし、フティットの機転で客席から小さな笑いが起こり、やがて爆笑が巻き起こった。座長にも認められてデビューに成功。カナンガは「ショコラ」に名を変え、フランス史上初の白人と黒人の芸人コンビが誕生した──。

 人種差別が根強い当時のフランスで、二人の芸も偏見がベースになっていた。ショコラは基本的に「白人に虐げられる」役回り。不法移民で常に警察を恐れていた。見世物的な芸ではあったが、コンビは一流サーカスにスカウトされ、看板芸人に上り詰める。地位と名声を手に入れたのもつかの間、ショコラは酒とギャンブルにおぼれる。

ckl_sub2.jpg

 「映画の父」リュミエール兄弟のフィルムに、実際の二人の芸が残っている。コンビの半生は光と影に満ちていた。前半は人気を博して表舞台で輝き、後半でショコラは差別に苦しんでいく。二人を知らない人にも分かりやすく、丁寧な演出とテンポがいい構成だ。体を張った「動」、内面を掘り下げる「静」の演技。シーとティエレのアンサンブルもよく、ノスタルジックで郷愁に満ちた良作となった。

(文・藤枝正稔)

「ショコラ 君がいて、僕がいる」(2015年、仏)

監督:ロシュディ・ゼム
出演:オマール・シー、ジェームス・ティエレ、クロチルド・エム、オリビエ・グルメ、フレデリック・ピエロ

2017年1月21日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://chocolat-movie.jp/

作品写真:(C) 2016 Gaumont / Mandarin Cinema / Korokoro / M6 Films
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 23:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月12日

「ネオン・デーモン」ファッション業界の嫉妬と狂気 レフン監督、独自に幻想的に

nd_main.jpg

 誰もが目を奪われる美しさを持つ16歳のジェシー(エル・ファニング)は、トップモデルになる夢をかなえるため、田舎町からロサンゼルスへやってくる。すぐに一流デザイナー、カメラマンの心をとらえると、ライバルたちが嫉妬の炎を燃やす──。

 カンヌ国際映画祭監督賞の犯罪アクション「ドライヴ」(11)で、世界中の映画ファンを魅了したニコラス・ウィンディング・レフン監督。次作「オンリー・ゴッド」(13)はタイに舞台を移し、暴力を前面に押し出す復讐劇だった。今回は一転、ファッション業界の嫉妬と狂気をスタイリッシュな映像で描く。

nd_sub1.jpg

 表の華やかさと裏腹に、実情は女のドロドロした感情が渦巻くトップモデルの世界。マネキンのような冷静さを装いながら、燃え上がる野心をぶつけ合い、狂気の牙をむく女たち。映像はスタンリー・キューブリック、デビッド・リンチのように独創的で説明を排除した表現で、観客を突き放す。

 赤、青、紫、緑などの色を画面に配しながら、真っ白い空間や左右対称の構図を多用する。キューブリック的で人工的な映像美だ。迷宮世界に踏み込んだジェシーは、脳の中で時おり幾何学模様を見る。「2001年宇宙の旅」(68)で、宇宙飛行士が見た脳内世界のようだ。

nd_sub2.jpg

 一方、音楽はクラシカルなアナログシンセで作り出した1970年代風エレクトロ・ミュージックが前面に。「タクシー・ドライバー」(76)のバーナード・ハーマンの曲を彷彿とさせるなど、迷宮に踏み込んだジェシーの悪夢に寄り添っていく。

 「ドライヴ」、「オンリー・ゴッド」で暴力と狂気を直接表現したレフン監督。今回は内面に湧き上がる狂気を幻想的に描いた。難解で内省的な世界は観る者を選ぶが、独創的な映像は観客を惑わせるだろう。静かな狂気を切り取る衝撃作だ。

(文・藤枝正稔)

「ネオン・デーモン」(2016年、仏・米・デンマーク)

監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:エル・ファニング、キアヌ・リーブス、カール・グルスマン、クリスティーナ・ヘンドリックス、ロバータ・ホフマン、ジェナ・マローン

2013年1月13日(金)、TOHO シネマズ 六本木ヒルズほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/neondemon/

作品写真:(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
posted by 映画の森 at 10:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月02日

「アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)」クロード・ルルーシュ監督と音楽家フランシス・レイ、「男と女」の最終章

anne_main.jpg

 映画音楽家アントワーヌ(ジャン・デュジャルダン)は、自由に人生を謳歌して生きてきた。まるで自分が書いた音楽のように。ボリウッド版「ロミオとジュリエット」の製作のため訪れたインドで、フランス大使夫人のアントワーヌ(エルザ・シルベルスタイン)と出会う──。

 名作「男と女」(66)から半世紀。クロード・ルルーシュ監督と作曲家フランシス・レイが再び組んだ作品だ。原題は「UN+UNE」。日本語に訳すと「男プラス女」。「男と女」の流れを組む恋愛模様だ。アントワーヌは「男と女」の主人公の息子と同じ名前だが続編ではない。

anne_sub1.jpg

 舞台はインド。宝石店強盗の男が逃亡中に女を車ではねる。大けがを負った女を見捨てられず、病院へ担ぎ込んだところ、警察に逮捕されてしまう。加害者と被害者の二人だが恋に落ちて結ばれる。このエピソードがインド版「ロミオとジュリエット」だと評判になり、映画化されることになる。音楽担当として白羽の矢が立ったのが、アントワーヌだった。

 レコーディングのため訪れたインドの晩餐会で、アントワーヌはアンナと出会って意気投合。フランスに恋人のアリス(アリス・ボル)を残したアントワーヌと、フランス大使の夫サミュエル(クリストファー・ランバート)がいるアンナ。パートナーがいる身ながらひかれ合う。子供ができないアンナは聖者に合うためインド南部へ。頭痛に悩まされていたアントワーヌも、休暇を兼ねてアンナの旅に同行する。

anne_sub2.jpg

 さまざまな男女の愛を描いてきたルルーシュ監督。「男と女」はスタイリッシュでみずみずしい映像で、世界の観客を魅了した。20年後の続編「男と女U」(86)は行き詰まったか、製作のジレンマが作品に投影され、中途半端になってしまった。

 時はさらに流れ、盟友レイと再び組んだ今回。どこか吹っ切れたのか、監督の心情が表れたのか。異国インドを達観したように見つめながら、中年期の恋愛をアグレッシブに描き出した。聖者のくだりはやや宗教色を感じるが、人生の岐路に立つ二人にとって、背中を押す大事な役目を担っている。レイの甘美なメロディーに導かれ、たどり着く愛の形。運命のいたずらともいえる心地よい幕引きだ。ルルーシュとレイによる「男と女」、最終章にふさわしい作品といえよう。

(文・藤枝正稔)

「アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)」(2015年、フランス)

監督:クロード・ルルーシュ
出演:ジャン・デュジャルダン、エルザ・ジルベルスタイン、クリストファー・ランバートサミュエル
アリス・ポル、マーター・アムリターナンダマイー

2016年9月3日(土)、Bunkamura ル・シネマほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://anna-movie.jp/

作品写真:(C)2015 Les Films 13 - Davis Films - JD Prod - France 2 Cinema

posted by 映画の森 at 19:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月31日

「アスファルト」パリ郊外の団地 3つの不思議な出会いと再起

as_main.jpg

 フランス、パリ郊外のさびれた団地。奇抜な物語を紡ぐのは3組の男女。車いすの男と夜勤の看護師。落ちぶれた女優と留守番の高校生。アルジェリア移民の女性と米国人宇宙飛行士。団地に住む以外、彼らに共通点はない。交わることのない3つのストーリーには、「再起」のメッセージが込められている。

 団地の住人会議。議題は故障したエレベーターの修理費だ。2階に住むスタンコヴィッチ(ギュスタヴ・ケルヴァン)は支払いを頑なに拒む。費用を分担しない代わりに使用しないと約束する。しかし皮肉にもけがを負い、エレベーターが必要な生活になってしまう。そこで誰もいない深夜に人目を盗んで外出し、行きついた病院で夜勤の看護師(ヴァレリア・ブルー二・テデスキ)に出会う。

as_sub1.jpg

 いつも家で留守番している高校生のシャルリ(ジュール・ベンシェトリ)。ある日隣に中年女性が越してきた。慣れない団地で困る彼女を助けるうちに、かつて名を馳せた女優ジャンヌ・メイヤー(イザベル・ユペール)だと知る。シャルリは出演作を観て絶賛し、ジャンヌは自信を取り戻す。以前演じた劇の再演を知り、再びヒロイン役を目指すジャンヌだったが──。

 米航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士ジョン・マッケンジー(マイケル・ピット)が団地の屋上に着地した。フランスに着陸したことに取り乱すジョンは、最上階の部屋で電話を借りる。部屋の主はアルジェリア移民のマダム・ハミダ(タサディット・マンディ)。マダムは数日間ジョンをかくまうようNASAに頼まれる。言葉が通じない二人の共同生活が唐突に始まる。

as_sub2.jpg

 セリフが少なく俳優の演技が際立つ作品。シャルリ役のジュール・ベンシェトリはサミュエル・ベンシェトリ監督の実の息子。名女優イザベル・ユペールの圧倒的な演技にも負けない存在感を放つ。

 団地で起きるそれぞれの物語は、互いにかかわりを持たない。しかし確かに「そこ」に存在する。無機質な見た目の内側で、人々の営みが続いている。たまたま居合わせた偶然が、それぞれの再出発をひと押しする。

(文・魚躬圭裕)

「アスファルト」(2015年、フランス)

監督: サミュエル・ベンシェトリ
出演:イザベル・ユペール、ヴァレリア・ブルー二・テデスキ、マイケル・ピット、ジュール・ベンシェトリ、ギュスタヴ・ケルヴァン、タサディット・マンディ

2016年9月3日(土)、 ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.asphalte-film.com/

作品写真:(C)2015 La Camera Deluxe - Maje Productions - Single Man Productions - Jack Stern Productions -
Emotions Films UK - Movie Pictures - Film Factory

posted by 映画の森 at 07:16 | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月28日

「ティエリー・トグルドーの憂鬱」家族と生活のため、屈辱と不条理に耐える 労働者の現実リアルに

tie_main.jpg

 51歳のティエリー・トグルドーは、長年勤務した会社を突然リストラされる。合理化のための不当解雇。同僚は会社側を訴えようと気炎を上げるが、ティエリーにそんな余裕はない。障害を持つ息子と長年連れ添った妻との生活を支えるため、一刻も早く新しい仕事を探さなければならないからだ。

 工作機械のオペレーターだったティエリーは、ハローワークで勧められるまま、クレーンの操縦免許を取得。だが、経験者ではないという理由で雇ってもらえない。スカイプを使った模擬面接では、採用される可能性は低いと断言され、グループ研修では、「笑顔が冷たい」「心を閉ざしている」と酷評された。再就職の道は予想以上に険しい。

tie_sub1.jpg

 生活が逼迫するなか、ティエリーは愛着のあるトレーラーハウスを手離す決意をするが、価格交渉が決裂。結局、売却には至らなかった。

 ようやく見つかった就職先は巨大なスーパーマーケット。仕事は万引き監視員だった。気づかれないように店内を巡回し、監視カメラの映像をモニターでチェック。発見したら捕まえて、場合によっては警察に通報する。

 そんな監視員の仕事が、自分に向いているとは思えなかったろう。しかし、ほかに選択肢がないティエリーは、与えられた仕事を黙々とこなしていく。ところが、監視の対象が従業員にも及ぶことになった瞬間、ティエリーは思いがけない試練に直面する――。

tie_sub2.jpg

 ステファヌ・ブリゼ監督とヴァンサン・ランドンが、「シャンボンの背中」(09)、「母の身終い」(12)に続き3度目のタッグを組んだ「ティエリー・トグルドーの憂鬱」。家族を養うため、前半では、屈辱に耐えながら就職活動に邁進し、後半では、組織の論理と個人の尊厳の板挟みになり、ぎりぎりまで耐えてみせる主人公を、徹底したリアリズムで描き出している。

 ティエリーはまるでヴァンサン・ランドン自身のように思えるし、面接や研修の風景、スーパーのレジ作業や監視カメラの映像も、ドキュメンタリーを見ているよう。出演者の多くは素人だそうだが、ランドンと絡んで少しも違和感のない自然な演技も見事だ。

 日本とは比較にならないほど失業率の高いフランスの現実を映し出した作品。だが、描かれている主人公は資本主義社会ならどこにでもいる平凡な人物だ。近所のハローワーク、あるいは昼間のカフェや公園、至るところに“ティエリー”を見つけることができるはずだ。もしかしたら、将来の自分自身であるかもしれない。そう思って見ると、一層胸に迫るものがあるだろう。

(文・沢宮亘理)

「ティエリー・トグルドーの憂鬱」(2015年、フランス)

監督:ステファヌ・ブリゼ
出演:ヴァンサン・ランドン、イヴ・オリィ、カリーヌ・ドゥ・ミルベック、マチュー・シャレール

2016年8月27日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://measure-of-man.jp/


作品写真:(c)2015 NORD-OUEST FILMS - ARTE FRANCE CINEMA.
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 07:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする