
仏パリ郊外の公立高校。人種や宗教が入り混じった落ちこぼれクラスが、ある授業をきっかけに「奇跡」を起こす──。フランスの抱える人種問題、若者の葛藤を描いた「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」が2016年8月6日公開される。マリー=カスティーユ・マンション=シャール監督は「歴史は理解なしに受け継げない」と語った。
荒れ放題で学校にもさじを投げられたクラスに、歴史のアンヌ・ゲゲン先生がやって来た。教員歴20年。にこやかだがきっぱりと「教えることが大好きで、退屈な授業はしないつもり」と話し、問題児たちに課題を与える。「アウシュビッツ(強制収容所)」をテーマに歴史発表の全国コンクールに出ること。生徒は反発しながらも、渋々資料を調べ始める。

壁にぶつかりながら調査を進めていたある日、生徒たちは収容所の生存者、レオン・ズィゲル氏の証言を聞く。収容所の悲惨な日々、父との別れ。ホロコースト(大量虐殺)を生き延びた重い言葉に、生徒一人一人の表情や姿勢が変わっていく。
映画はイスラム教の女子生徒親子と教師の言い争いから始まる。スカーフの着用を禁じる学校に反発する生徒。歴史を理解し、相手と文化を理解することは、人種と宗教が入り乱れるフランスでは容易ではない。なにげない言葉が相手を傷つけかねない。フランスの現状を反映した描写だ。
「フランスでは今、(移民)3世ですら自分をフランス人と感じない人が増えています。なぜか。フランスについて相続できていないからです。歴史を受け継ぐ行為は重要。でも遺産相続と異なり、理解なしには受け継げません。また子供はいつの時代も残酷です。成長の過程で人を傷つけるのは、自分に自信がないから。問題の答えを用意してくれる人、つまり先生が必要なのです」

ゲゲン先生が用意した答えは、ホロコーストを生き延びたズィゲル氏の講義だった。当初は「自分が出る意味が分からない」と出演を拒まれたという。何度も「映画ならあなたの人生の戦いをより多くの人に伝えられる」と説得を試みて実現した。作品を観たズィゲル氏は「完全に理解した」と話したという。
「彼は自身の息子がこの映画をいかに誇りにしているかを感じたそうです。さらに一緒に観た観客の反応を見て、自分が出た意味を瞬時に理解してくれました。彼が受け継ぐもの、相続するものが、映画の中に存在しているのを見出してくれたのです」

フランスでは昨年以降、大規模なテロが相次ぎ、他者への不寛容が重い問題として人々にのしかかっている。
「テロが起きて以降、この映画に対する反響は大きくなりました。事件によって同じ作品でも反響や評価が変化します。学校の中では人種差別や偏見がありますが、そういうことは二度とあってはならないと思います」
(聞き手・魚躬圭裕、写真・阿部陽子)
「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」(2014年、フランス)
監督:マリー=カスティーユ・マンション=シャール
出演:アリアンヌ・アスカリッド、アハメッド・ドゥラメ、ノエミ・メルラン、ジュヌビエーブ・ムニシュ、ステファン・バック
2016年8月6日(土)、YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町、角川シネマ新宿ほかにて全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://kisekinokyoshitsu.jp/
作品写真:
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