2014年12月18日

「毛皮のヴィーナス」謎の女が男を翻弄 官能と倒錯のポランスキー新作

毛皮のヴィーナス.jpg

 舞台劇「毛皮のヴィーナス」のオーディションに、女が遅刻してやってくる。帰り支度をしていた演出家のトマに、女は“ワンダ”と名乗る。役名と同じ名である。だが、女の外見はまるで商売女。しゃべり方も下品極まりなく、トマが求めるワンダのイメージとは正反対だった。

 トマは体よく追い払おうとするが、女はやる気満々。自分がいかにワンダ役にふさわしいかをまくし立て、さっさと持参した衣装に着替えてしまう。トマは仕方なく彼女の相手役となって、オーディションを始める。

 すると驚くべきことが起こった。セリフを発した瞬間に、女の印象は一変。まるで役柄が憑依(ひょうい)したように、完ぺきな“ワンダ”が立ち現れたのだ。さっきまでの下卑た女はどこに行ったのか。貴族的な言葉づかい。エレガントな立ち居振る舞い。香り立つエロス。圧倒されたトマは、オーディションにのめり込み、しだいに虚構と現実の境がつかなくなっていく――。

毛皮のヴィーナス2.jpg

 マゾヒズムという言葉を生むきっかけとなった、ザッヘル=マゾッホの小説に想を得た戯曲の映画化だ。演出する側のトマと、演出される側の女優。いつのまにか力関係が崩れ、立場が逆転していくプロセスが、刺激的なSMシーンも交えながら、緊迫感たっぷりに描かれる。

 まず驚嘆させられるのが、序盤で女が見せる鮮やかな変身ぶりだ。無知で無教養なアバズレと思っていたら、実はとんでもなく知的で頭の回転も速い。油断させておいて意表を突くやり方。この時点ですでにトマは女の術中にはまっている。トマは女に翻弄され、彼女の下僕(しもべ)へと調教されていく。

毛皮のヴィーナス3.jpg

 “ワンダ”役に扮するのは、エマニュエル・セニエ。メガホンを取るロマン・ポランスキーの妻である。相手役トマには、ポランスキーそっくりの風貌を持つマチュー・アマルリック。妻であるセニエと、自分と似たアマルリックとを共演させ、SMをテーマとした映画を撮る。何とも粋な趣向ではないか。

 自作の「吸血鬼」(67)や「チャイナタウン」(74)では、俳優としての才能も見せたポランスキー。もう少し若かったら、トマ役は自分で演じていたかもしれない。だとすれば、アマルリックはポランスキーの分身。つまり、ワンダ=セニエに翻弄され、服従する男はポランスキー自身ということになる。エンディングはセニエに捧げる愛の讃歌だろうか。

(文・沢宮亘理)

「毛皮のヴィーナス」(2013年、フランス・ポーランド)

監督:ロマン・ポランスキー
出演:エマニュエル・セニエ、マチュー・アマルリック

2014年12月20日(土)、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kegawa-venus.com/


作品写真:(c)2013 R.P. PRODUCTIONS - MONOLITH FILMS
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 09:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年10月31日

「美女と野獣」 流麗でじょう舌な映像 神話取り入れ 古典に新たな息吹

bijo_1.jpg

 バラを盗んだ父の身代わりとなり、野獣(ヴァンサン・カッセル)の城に閉じ込められた娘ベル(レア・セドゥ)。ベルは死を覚悟したが、野獣はディナーを一緒にとること以外、何も要求しない。ベルはやがて、野獣のもう一つの姿に気づく──。

 フランスの古典「美女と野獣」。単行本に絵本、ジャン・コクトー監督の実写映画版(46)、ディズニーのアニメーション版(91)、ミュージカルなどさまざまな形で表現されてきた。今回メガホンをとったクリストフ・ガンズ監督は、ギリシャ、ローマ神話の要素を取り入れ、人間と自然のつながりを描いている。

bijo_sub1.jpg

 監督はフランスの獣(けもの)伝説をアクション・ミステリーにした「ジェヴォーダンの獣」(01)、日本のホラーゲームがベースの「サイレントヒル」(06)など、圧倒的な映像表現で知られてきた。「美女と野獣」では絵本、映画、舞台、アニメなどで語り尽くされた題材に、独創的なビジュアルで新たな命を吹き込んだ。

 もとは王子だった野獣はなぜ変身したのか。王子の秘密にスポットをあてながら、ベルと家族の横顔を掘り下げた導入部分。物語を大胆に拡大解釈したクライマックス。古典に独自のアレンジを加え、かつてない「美女と野獣」を作り出した。

 一つ一つのカットは息をのむほど幻想的。映像は流麗で語り口はじょう舌だ。豪華なセットと衣装、最新のCG(コンピューター・グラフィックス)技術で、圧倒的な映像美で観客の視覚に訴える。スタッフの努力が画面から伝わってくる。

bijo_sub1.jpg

 「インディペンデンス・デイ」(96)、「GODZILLA」(98)など、ハリウッドのクリーチャー・デザインの第一人者、パトリック・タトポロスが参加。米国とは一味違うフレンチ・ラブ・ファンタジー映画となった。

(文・藤枝正稔)

「美女と野獣」(2014年、仏・独)

監督:クリストフ・ガンズ
出演:ヴァンサン・カッセル、レア・セドゥ、アンドレ・デュソリエ、イボンヌ・カッターフェルト

2014年11月1日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://beauty-beast.gaga.ne.jp/

作品写真:(C)2014 ESKWAD - PATHE PRODUCTION - TF1 FILMS PRODUCTION ACHTE / NEUNTE / ZWOLFTE / ACHTZEHNTE BABELSBERG FILM GMBH - 120 FILMS

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 08:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年10月24日

「やさしい人」 中年男の一途な恋 サスペンス風味で ギヨーム・ブラック監督新作

やさしい人.jpg

 「女っ気なし」(2011)のギヨーム・ブラック監督が、再びヴァンサン・マケーニュ主演で撮った初の長編作品。ミュージシャンとして盛りを過ぎた中年男マクシムが、若い女性記者メロディと恋仲になるが、やがてメロディはマクシムの前から姿を消してしまう――のが中盤までの展開だ。

 「女っ気なし」の気弱な主人公であれば、女が去った時点であきらめてしまうだろう。だが、マクシムはなかなかしぶとい。せっかく手に入れた恋人を手離してなるものかと、驚きの“恋人奪還劇”を繰り広げる。

やさしい人2.jpg

 今でこそ風采の上がらないマクシムも、かつてはロック・ミュージシャンとして、そこそこ売れていた。モテた時期もあったろう。地元の田舎町では一応名士でもある。田舎の小娘にあっさりフラれるなんてあり得ない。そう思ったとしても不思議ではない。

 実際、強気に攻めてあっさりメロディをモノにしてしまうのだし、燃え上がる情熱の赴くまま、ロマンチックな冬のバカンスを過ごしたりもするのだ。なのに彼女は突如失踪してしまう。いったい、なぜ? 割り切れない気持ちから、マクシムは狂気の行動に出る。中年男の一途な恋心は娘に通じるのか。中盤以降の展開は極上のラブサスペンス。意外な結末には、女心の不可解さを思い知らされる。

やさしい人3.jpg

 物語の核は二人の恋愛だが、もう一つ重要なのがマクシムと父親との関係である。やや人生に疲れた感のあるマクシムに対し、アウトドア・スポーツを好み、いまだ女性関係の絶えない父親は好対照。父親の生きるエネルギーがマクシムの消えかけた情熱に火を付けたか。エンディングに漂うほのかな希望も、父親の存在あってこそだろう。

 父親役は、ヌーヴェル・ヴァーグの伝説的な監督であるジャック・ロジエの「オルエットの方へ」(71)や「メーヌ・オセアン」(86)に出演したベルナール・メネズ。前作「女っ気なし」はロジエの影響を感じさせる作品だったが、今回メゼズを起用したのも、ロジエへのオマージュなのかもしれない。

(文・沢宮亘理)

「やさしい人」(2013年、フランス)

監督:ギヨーム・ブラック
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ソレーヌ・リゴ、ベルナール・メネズ

2014年10月25日(土)、ユーロスペースほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://tonnerre-movie.com/


作品写真:(c)2013 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH - FRANCE 3 CINEMA

posted by 映画の森 at 09:18 | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年10月18日

「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」 ヒッチコックが愛した クール・ビューティーの素顔

gr_main.jpg

 モナコ大公のレーニエ3世(ティム・ロス)との結婚から6年。1962年、グレース・ケリー(ニコール・キッドマン)は、いまだ宮殿のしきたりになじめなかった。公の場で政治に意見するのは「米国流」と皮肉られ、夫も「控えめに」と言う。ヒッチコック監督からハリウッド復帰を誘われ揺れていた時、国が最大の危機に直面する。フランスのドゴール大統領が重い課税を提案。のまなければ「モナコをフランス領にする」と声明を出したのだ──。

 「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」は、グレース・ケリーの生涯のうち、モナコ公妃となった60年代に焦点を絞っている。ハリウッド女優から公妃となった苦悩と孤独。国存亡の危機を通じ、改めてグレース・ケリーの人となりを描く。監督は「エディット・ピアフ 愛の賛歌」(07)のオリビエ・ダアン。

gr_sub2.jpg

 車から道路を写した映像で映画は幕を開ける。女優引退作「上流階級」(56)のワンシーンだ。女優としてのラストカットは運転シーンで終わり、彼女自身の人生も82年、仏コート・ダジュールで起きた交通事故で幕を閉じた。因縁めいたものをほのめかす描写だ。

 61年12月。公妃としてがんじがらめの生活に、グレースは深い孤独を感じていた。そこへ「ダイヤルMを廻せ!」(54)、「裏窓」(54)、「泥棒成金」(55)とたて続けにグレースを起用したヒッチコックから出演依頼が入る。次回作「マーニー」へのオファーだった。旧知の監督からの連絡に喜ぶグレースだったが、立場上出演交渉は難航する。ヒッチコックが彼女の大ファンだったことは、映画ファンにはよく知られている。

gr_sub1.jpg

 ド・ゴールの課税要求で、モナコは窮地に陥る。グレースは国を救うため、自ら書き上げた脚本で大芝居に打って出る。米国と欧州を巻き込み、国際政治の舞台で彼女が見せた演技とは──。監督が「伝記映画ではなく、史実に基づいた人間ドラマ」というだけに、当時の時代背景、グレースの生い立ちを知らないと理解が難しいかもしれない。

 キッドマンは熱演だが、どうしてもグレース・ケリーには見えず苦しいところ。しかし、ハリウッド女優から公妃に上り詰めたシンデレラ・ストーリーは、女優としての彼女の作品、人柄を知るにはうってつけだろう。

(文・藤枝正稔)

「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」(2013年、仏)

監督:オリビエ・ダアン
出演:ニコール・キッドマン、ティム・ロス、フランク・ランジェラ、パス・ベガ、パーカー・ポージー

2014年10月18日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://grace-of-monaco.gaga.ne.jp/

作品写真:(C)2014 - STONE ANGELS

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 09:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年09月25日

「ジェラシー」 フィリップ・ガレル最新作 愛は嫉妬を育み、嫉妬は愛をむしばむ

ジェラシー.jpg

 うだつの上がらない舞台俳優のルイと、同じく売れない俳優のクローディア。二人は古いアパルトマンで同棲生活を送っている。ルイは結婚して幼い娘もいたが、クローディアと恋仲となり、家庭を捨てたのだ。

 「出て行かないで」と泣きながら懇願する妻を顧みず、恋人のもとへと走ったルイ。だが、そこに待っていたのは、温もりや安らぎなどは無縁な、猜疑心と嫉妬の日々だった――。

 二人の住処(すみか)は、明かり採りの窓が2つ付いているだけの、みすぼらしい屋根裏部屋。クローディアはこの部屋で暮らすことへの不満を、ルイにぶちまける。しかも、ルイに仕事が入ると、疑心暗鬼となり、猛烈な嫉妬心を燃やす。

ジェラシー2.jpg

 クローディアは自分も仕事を得ようと、積極的に有力者に働きかけ、パトロンを見つける。すると今度はルイの心に嫉妬心が芽生える。ともに相手への執着心を抱きながらも、すきをうかがっては相手を出し抜こうとする。ばれなければ浮気さえする。エゴイズムのかたまりである。

 こんな二人が恋を成就できるわけもなく、しだいに破局の予感が漂い始める。男女の恋愛を描いた作品ではあるが、恋愛の喜びは少なく、苦しみばかりが目立つ。果たしてどんなラストが用意されているのか――。

ジェラシー3.jpg

 ヌーベル・バーグ後の仏映画界を代表する監督の一人、フィリップ・ガレルの新作「ジェラシー」。過去の作品の多くは自伝的性格が強かったが、今回ルイのモデルはガレルの実父である。演じるのはガレルの息子、ルイ・ガレル。また、娘のエステル・ガレルが、ルイの妹役で出演している。

 ガレルが焦点を絞ったのは、恋愛に潜む破滅的衝動としての嫉妬心。愛が嫉妬を育み、嫉妬が愛をむしばんでいくプロセスが、息苦しいほどのリアリズムで描かれる。ゴダールの「男性・女性」(65)、スコリモフスキの「出発」(67)で知られるカメラマン、ウィリー・クランのモノクロ映像が美しい。

(文・沢宮亘理)

「ジェラシー」(2013年、フランス)

監督:フィリップ・ガレル
出演:ルイ・ガレル、アナ・ムグラリス、レベッカ・コンヴェナン、オルガ・ミシュタン、エステル・ガレル

2014年9月27日(土)、渋谷シアター・イメージフォーラムほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.jalousie2014.com/introduction.html


作品写真:(c)2013 Guy Ferrandis / SBS Productions
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 09:52 | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。