2157年。人類は戦争も飢餓もテロも克服し、平和な世の中を謳歌していた。個人の宇宙旅行など当たり前。冒険心あふれる若者たちの中には、一人で宇宙探査に出かける猛者も少なくなかった。ハンサムな金髪の大学生、マキシムもそんな一人。
ある日、宇宙を航行中のマキシムを隕(いん)石が襲い、宇宙船は謎の惑星に不時着する。マキシムは住民に捕らえられるが、何とか脱出に成功。その後も度重なる危機を、持ち前の戦闘能力で乗り切っていく。そんなマキシムに目をつけた政府は、彼を親衛隊に入隊させる。しかし、やがてマキシムは政府軍のやり方に疑問を抱き、親衛隊を離脱。反政府軍とともに、政府転覆をはかるのだが――。
惑星を牛耳る独裁政権は、各地に設置された防衛塔から放射する特殊光線によって住民の思考力を奪い、隷属させている。反政府軍の兵士がマキシムに「人々は新聞、ラジオ、テレビをすべて鵜呑みにし、プロパガンダを受け入れる」と語るシーンが印象的だ。SFの体裁をとりつつも、描かれているのは、旧ソ連のカリカチュア(戯画)にほかならない。
原作「収容所惑星」が書かれたのは1969年。まさに冷戦真っただ中のソ連時代だ。作者のストルガツキー兄弟は反体制的な作品で知られ、アンドレイ・タルコフスキー監督の「ストーカー」(79)も、彼らの作品を原作としている。
こんな作品がエンターテインメントとして製作され、しかも大ヒットを記録したというのだから、かの国も随分と変わったものである。アクションやスペクタクルの表現レベルはなかなかのもの。また、オープニングタイトルの背景に本作のコミック版を用いるセンスもいい。ロシア映画はこれからますます面白くなりそうな予感がする。
主演のワシリー・ステパノフ、ヒロイン役のユーリヤ・スニギーリ。ともに美形でオーラも十分。スニギーリは「ダイ・ハード ラスト・デイ」(13)でハリウッドデビューを果たしている。この水準のスターが続々と輩出されれば、映画大国への道もおのずと開かれるのではないだろうか。
(文・沢宮亘理)
「プリズナー・オブ・パワー 囚われの惑星」(2008年、ロシア)
監督:フョードル・ボンダルチュク
出演:ワシリー・ステパノフ、ピョートル・フョードロフ、ユーリヤ・スニギーリ
12月8日、渋谷シネクイントほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.prisoner-movie.jp/
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