2021年02月28日

「ガンズ・アキンボ」ダニエル・ラドクリフ久々の当たり役 ネット時代の痛快ガンアクション

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 ゲーム会社のプログラマー、マイルズ(ダニエル・ラドクリフ)は、ネットへの過激な書き込みで日々の鬱憤(うっぷん)を晴らしていた。しかしある日、殺し合いを生配信する闇サイト「スキズム」で闇組織に襲撃され、目を覚ますと両手に拳銃が固定されていた。さらに「スキズム」に参加し、24時間以内に「最強の殺し屋・ニック(サマラ・ウィーヴィング)」に勝てと命令される──。

 「華麗なるギャツビー」(13)、「ウルヴァリン:SAMURAI」(13)のVFX担当として活動後、「デビルズ・メタル」(15)で長編監督デビューしたジェイソン・レイ・ハウデンが、監督と脚本を手掛けたガンアクション映画だ。

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 主演のラドクリフは「ハリー・ポッター」シリーズで人気を博したが、その後は優等生ハリーのイメージがついて役に恵まれなかった。「スイス・アーミー・マン」(16)では便利機能が付いた死体と自虐的な役も。今回の「ガンズ・アキンボ」は、手に拳銃をボルトで固定された情けない役。本人も優等生キャラを壊すかのごとく、楽しんで演じているようだ。

 闇サイト「スキズム」は、カメラを搭載した小型ドローンでプレーヤーを追いかける。ドローンが飛べない場所は、街中の防犯カメラを乗っ取り、殺人ゲームを生配信。ゲームに強制参加させられたマイルズは、ニック殺しのミッションを命じられる。

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 両手がふさがり、スマホも使えず、用もまともに足せない。不自由な状態にうろたえるマイルズは、自宅まで容赦なく襲ってくるニックから逃げるしかない。恋人ノヴァに助けを求めたものの、手に固定された拳銃を見た彼女はパニック状態になり、警察に駆け込んでしまう。マイルズはニックに加えて警察にまで追われ、そのうえノヴァがスキズムに拉致される。

 過激なSNSや暴力ゲームに浸かったネット世代を意識し、彼らを揶揄したようにも見える作品。殺人ゲームを実写したようでもあり、刺激的な映像にアドレナリンが吹き出る。物語はシンプルで、子ども時代のトラウマを抱えるニックが殺人兵器に変貌するサイドストリーもうまい。

 最初は負けっぱなしだったマイルズが、殺人ゲームを通して成長していく姿も痛快で、ラドクリフ久々の当たり役といえる。ニックを演じたウィーヴィングの憎らしいヒールっぷりもよく、切れ味抜群の痛快アクション映画に仕上がった。

(文・藤枝正稔)

「ガンズ・アキンボ」(2019年、英・独・ニュージーランド)

監督:ジェイソン・レイ・ハウデン
出演:ダニエル・ラドクリフ、サマラ・ウィービング、ナターシャ・リュー・ボルディッゾ、ネッド・デネヒー

2021年2月26日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://guns-akimbo.jp/theater.html

作品写真:(C)2019 Supernix UG (haftungsbeschrankt). All rights reserved.

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2020年04月08日

「アドリフト 41日間の漂流」ヨットで遭難、生還まで 壮絶実話の映画化

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 1983年、婚約したてのタミー(シャイリーン・ウッドリー)とリチャード(サム・クラフリン)は、世界旅行の資金を稼ぐため、ヨットでタヒチからサンディエゴへ向かった。出発から2週間後、ハリケーンに遭遇。巨大津波に飲み込まれてしまう。船室のタミーは目を覚ますが、ヨットは操縦不能で無線もつながらない。リチャードは大けがを負い、波に漂っていた。リチャードを助け出したタミーは、セーリングの知識を総動員して陸を目指す──。

 タミー・オールダム・アッシュクラフトが1983年、ハリケーンにより難破、漂流、生還するまでの41日間を記録した原作をベースに、アーロン&ジョーダン・カンデルが脚本化した。監督、製作は実際の集団遭難を映画化した「エベレスト3D」(15)のバルタザール・コルマウクル。

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 実際の海難事故を描いた映画は世界に数多くある。最近では1991年に米国でハリケーンにのまれた漁船を描いた「パーフェクトストーム」(00)があるが、生存者がいないため、出航後のエピソードは創作だった。一方、「アドリフト 41日間の漂流」は生還したタミーが書いた経験談がベース。生きて帰ることがあらかじめ分かっている。

 そこで作品は、実話を逆手に取った構成となっている。二人の出会い、恋愛に発展する過程、リチャードがヨットを運ぶ仕事を引き受け、出航からハリケーンに遭うまでの過去に、難破して漂流する現在が交差して展開する。

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 実話である制限がある中、平面的になりがちなドラマを時間軸を巧みに操って立体的に描く。漂流者や遭難者が見るという“ある現象”を大胆に取り入れ、ハリケーンの恐怖をダイナミックに再現。漂流する人物の心理を丁寧に描写した。テレビの実話再現番組のように陳腐ではなく、映画ならではの骨太な人間ドラマに仕上がった。

 遭難する現在のパートは、ウッドリーとクラフリンの二人芝居だ。タミーの船上でのサバイバル生活。漂流したリチャードは助けられるが、けがで寝たきりとなり、ほとんど動けない。大海原で絶望しつつ、二人は互いを頼って生きようとする。

 製作も務めたタミー役のウッドリーがいい。主演したSFアクション「ダイバージェント」シリーズのヒロインから一転、ぎりぎりの精神状態の中、生還を信じてあきらめない姿を好演した。空腹のリチャードのために海に潜り、もり一本で魚を仕留めるアクションも披露。柔軟な演技に共感し、自然と物語に引き込まれる。再現ドラマの域を超え、ひねりの利いた壮絶な実話映画に仕上がった

(文・藤枝正稔)

「アドリフト 41日間の漂流」(2018年、英・米)

監督:バルタザール・コルマウクル
出演:シャイリーン・ウッドリー、サム・クラフリン

2020年公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://adrift-movie.jp/

(C)2018 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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2019年05月28日

「アナと世界の終わり」英国発の青春ゾンビミュージカル 斬新アイデアをバランス良く

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 英国の田舎町に父と暮らす高校生のアナ(エラ・ハント)は、さえない同級生とパッとしない毎日を送っていた。ところがクリスマス、町にゾンビがやってきた。アナたちは、日頃の鬱屈した想いを発散するかのように、高らかな歌声と軽快なリズムにのってゾンビに立ち向かう──。

 青春とゾンビとミュージカル。交わるはずのないジャンルが見事に融合した「アナと世界の終わり」。ジョン・マクフェール監督の長編2本目で、スペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭を皮切りに各国のファンタスティック映画祭で話題を呼んだ作品だ。

 ゾンビ映画の原点は、ジョージ・A・ロメロ監督「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(68)である。死者が蘇って人間を襲い、噛みつかれた人間は死に、ゾンビとなって人間を襲う。ロメロ監督が生んだルールは、その後のゾンビ映画の定型になり、日本でも最近「カメラを止めるな!」が話題になった。

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 一方、1960年代に世界的なブームとなったミュージカル映画は、「ラ・ラ・ランド」(16)や「グレイテスト・ショーマン」(17)が大ヒットするなど、21世紀に入って復活の兆しを見せている。

 映画業界の二つのキーワード、ゾンビとミュージカルを掛け合わせたのが「アナと世界の終わり」だ。米国から派生した英国のゾンビ映画は秀作ぞろい。「28日後...」(02)や「ショーン・オブ・ザ・デッド」(04)など、数こそ少ないが良質だ。

 「アナと世界の終わり」は、ゾンビ映画には珍しく高校生が主人公。ミュージカル形式にすることで、米国映画をパロディーにしているようだ。クリスマスの高校で、突然生徒が秘めた思いを歌で吐露する。食堂で歌い踊るシーンや、オタクを体育会系がいじめる表現などは、米国製の青春映画を英国のフィルターを通して戯画化したようだ。

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 ゾンビ映画にはお約束のえげつないスプラッター描写、終末的な世界観。対照的で不釣り合いなクリスマスの背景がポイントになる。青春学園ものならではの友情と恋、親子愛、英国流の黒い笑い、歌と踊り。斬新なアイデアが抜群のバランスで配分されている。

(文・藤枝正稔)

「アナと世界の終わり」(2017年、米・英)

監督:ジョン・マクフェール
出演:エラ・ハント、マルコム・カミングス、サラ・スワイヤー、クリストファー・レボー、マルリ・シウ

2019年5月31日(金)、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://anaseka-movie.jp/

作品写真:(C)2017 ANNA AND THE APOCALYPSE LTD.
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2019年02月14日

「女王陛下のお気に入り」18世紀イングランド王室、女3人の愛憎劇 古典的な物語、斬新な撮影技術で

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 18世紀初頭、イングランド。ルイ14世のフランスと戦争中の女王のアン(オリビア・コールマン)を、女王の幼なじみのレディ・サラ(レイチェル・ワイズ)が操っていた。そこにサラの従妹の没落貴族、アビゲイル(エマ・ストーン)が、召使いとしてやってくる。サラに気に入られ、侍女に昇格したアビゲイルに野望が芽生える──。

 気まぐれで病弱、頑固に国を守るアン女王。女王の寵愛を受けるサラ。サラの立場を奪おうとするアビゲイル。女3人の争いを、きらびやかな衣装と豪華な宮廷セットで描く。監督は「ロブスター」(15)、「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」(17)のヨルゴス・ランティモス。ギリシャ生まれの奇才だ。

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 史実をベースにしつつ、女王の威厳ある話は描かない。取り巻く侍女たちの腹黒い思惑をシニカルに表現する。女王の気まぐれに振り回されながら、サラは裏で彼女を操り、愛人にもなっている。二人の絶対的な関係に割って入るのがアビゲイルだ。若さと美貌でサラに取って代わろうと、裏工作をしながらタイミングをうかがい、ついにチャンスが訪れる。

 古典的なストーリーに対し、撮影方法は斬新だ。自然光やろうそくの明かりを使い、観客が宮廷内部をのぞき見るしかけになっている。画角が180度を超える魚眼レンズや広角レンズ。360度の撮影技法「ヴィプ・パン」により、素早い平行移動でカメラをパン。カット割りはせず、複数の人物が向き合う様子を、ワンカットでとらえている。

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 さらに、カメラの振動を抑える特殊な装置「ステディカム」で、宮廷や屋外を左右対称な構図でとらえる。「シャイニング」(80)の移動シーンで、スタンリー・キューブリック監督が用いたことで知られる技法だ。動きのある移動が、幻想的で浮遊感を持つようになる。古典的な物語から古臭さを払拭したのは、そんな技術にあるだろう。

 主役の女性3人のうまさも際立つ。わがままで気難しく、病弱な女王役のコールマン。クールな美貌と気品で女王に愛されるワイズ。若さ、野心、行動力、計算高さを併せ持ったストーン。アンサンブルが絶妙である。

 年明けから米ゴールデングローブ賞、英アカデミー賞と、賞レースで快進撃を見せてきた。2月下旬の米アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演&助演女優賞など10部門で候補になっている。豪華絢爛な愛憎劇に注目だ。

(文・藤枝正稔)

「女王陛下のお気に入り」(アイルランド・英・米)

監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:オリビア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルト、ジョー・アルウィン

2019年2月15日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.foxmovies-jp.com/Joouheika/

作品写真:(C)2018 Twentieth Century Fox

posted by 映画の森 at 15:21 | Comment(0) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月12日

「ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲」“Mr.ビーン”ことローワン・アトキンソン、「007」パロディーを熱演

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 イギリスの諜報機関「MI7」のスパイ情報が、サイバー攻撃で漏洩した。隠居状態の元スパイ、ジョニー・イングリッシュ(ローワン・アトキンソン)が呼び出され、任務を開始する。しかし、ローテクのアナログ人間ジョニーにとって、敵はむしろ最新技術だった──。

 大ヒットコメディー「Mr.ビーン」のアトキンソン主演シリーズ3作目。監督は英BBCで多くのテレビドラマを監督してきたデビッド・カー。初の劇場映画だ。

 スパイが活躍する映画の人気は今も高い。ジェームズ・ボンドの「007」、イーサン・ハントの「ミッション・インポッシブル」。俳優のマット・デイモン主演の「ボーン」シリーズ、コリン・ファース主演「キングスマン」シリーズと、作品を重ねて世界の観客を魅了している。

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 そんな王道スパイ映画と別の道を、「ジョニー・イングリッシュ」は独走する。06年に第1弾、11年に続編の「ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬」が公開。今回の「アナログの逆襲」は7年ぶりのシリーズ最新作。

 物語はいたって真面目だ。アトキンソン主演で「007」をパロディー化するもので、主人公のイングリッシュは「MI6」ならぬ「MI7」諜報員。愛車はボンドと同じ旧型のアストンマーチン。武器担当者のコードネームは「Q」ではなく「P」。最新のスパイ・アイテムも、イングリッシュの手にかかれば無用の長物と化す。

 パロディーといっても手抜きはない。アシスタント監督は米スタント界の重鎮ヴィク・アームストロング。本家の「女王陛下の007」(69)、「007 死ぬのは奴らだ」(73)のスタント、「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」(97)のセカンド監督のほか、「レイダース 失われたアーク」(81)など、多くの作品でハリソン・フォードのスタントを務めた。英国の首相役には英の大女優エマ・トンプソン。謎の美女に「007 慰めの報酬」(08)のボンドガール、オルガ・キュリレンコ。

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 しかし、なんといっても見どころは、アトキンソンの顔芸と体を張った「迷」演技。イングリッシュはいたって真面目に任務をこなしているが、思い込みと勘違いが激しく、事態が思わぬ方に動いてしまう。むちゃくちゃな中も最終的には結果オーライになり、アトキンソンがポーカーフェイスできめまくる。

 アナログ男のイングリッシュが、初体験のVR(バーチャル・リアリティー)に没入。街の人々を巻き込み大暴れするシーンが最高だ。「Mr.ビーン」が復活したようなアトキンソンの健在ぶり。作りこまれたスパイ・コメディーの快作である。
 
(文・藤枝正稔)

「ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲」(2018年、英)

監督:デビッド・カー
出演:ローワン・アトキンソン、ベン・ミラー、オルガ・キュリレンコ、ジェイク・レイシー、エマ・トンプソン

2018年11月9日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://johnnyenglish.jp/

作品写真:(C)2018 Universal Studios and Studiocanal SAS
posted by 映画の森 at 10:03 | Comment(0) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする