
近未来を舞台に、第三次世界大戦に巻き込まれた若者たちを描いた「わたしは生きていける」。メグ・ローゾフによる同名小説の映画化だ。黒いアイラインに鼻ピアス、パンク・ファッションのデイジー(シアーシャ・ローナン)が、厳戒態勢の英国の空港に降り立つ。生まれた時に母を亡くし、折り合いの悪い父と暮らすデイジー。心を閉ざした16歳の米国人だ。
デイジーは初めて会ういとこ3人と、大自然に囲まれて夏を過ごす。田舎暮らしは苦痛のはずだったが、天真爛漫ないとこたちと緑がデイジーの心を溶かす。一つ年上のエディー(ジョージ・マッケイ)との初恋も経験。居場所を見つけたデイジーだが、つかの間の平穏もある日を境に一変する。ロンドンで核爆発が起き、市民数万人が死亡したのだ。第三次世界大戦の勃発で英国に戒厳令が敷かれ、ライフラインもストップ。デイジーといとこたちは別々の施設に入れられる──。

前半は都会から来た少女が田舎暮らしで解放される姿を描いた「わたしは生きていける」。戦争ぼっ発を機に空気は一変。上空を横切る戦闘機。ピクニックの途中に聞こえる衝撃音。村に白い綿のような物体が降り注ぐ。デイジーたちが戸惑いながら家に帰ると、テレビはロンドンで起きた核爆弾テロを伝えていた。このシーンで観客は初めて事態を把握する。
突如英軍の強制連行が始まった。エディーと弟アイザック(トム・ホランド)は軍事施設へ、デイジーと兄弟の幼い妹パイパー(ハーリー・バード)は軍が管理する住宅へ連行される。デイジーの心の支えは、強制連行される際にエディーが叫んだ「何があっても、ここに戻れ」という約束だった。その言葉を信じ、デイジーはパイパーを連れて施設を脱走する。

「ラストキング・オブ・スコットランド」(06)でフォレスト・ウィテカーに米アカデミー賞主演男優賞をもたらしたケビン・マクドナルド監督。今回はローナンから繊細な演技を引き出した。自意識過剰なデイジーは他人との接触を極度に嫌い、自分の殻に閉じこもる。しかし、田舎暮らしと初恋を経て、極限状態に置かれ、絶望から生き抜く強い心と精神を持った少女に成長する。
マクドナルド監督は「ブラック・セプテンバー 五輪テロの真実」(99)など、ドキュメンタリー作品でも高い評価を得ている。物語から一歩引いた手法、緊張感あふれるリアルな演出。フィクションを超えた映像を見た錯覚に陥る。悪夢のような恐ろしいドラマだが、根底に流れる愛の力がそれを打ち消し、再生を予感させる。余韻を残した幕引きに救われる青春ドラマの佳作である。
(文・藤枝正稔)
「わたしは生きていける」(2013年、英国)
監督:ケビン・マクドナルド
出演:シアーシャ・ローナン、トム・ホランド、ジョージ・マッケイ、ハーリー・バード、ダニー・マケボイ
2014年8月30日(土)、有楽町スバル座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.howilivenow.jp/
作品写真:(C)The British Film Institute/Channel Four Television Corporation/ HILN Ltd 2013